77話 人化の術
フレイムドラゴンの死体がなくなり、代わりに赤い髪の少女が現れた。
彼女に話を聞いてみたが、怯えるばかりで話が進まない。
そこで、エリスや桜たちの方へ振り返った。
「なぁ、どう思う?」
「不思議なこともあるものです……」
「然り。こんなこと、絵物語の話だと思っていたでござる」
「うん?」
二人とも、俺の問いに答えてくれているようで答えてくれていない。
ただ、目を見開いて驚いた表情をしているだけだ。
「噂には聞いたことがあります。桜さんの言う通り、おとぎ話のようなものだと思っていましたが」
「ふむ。我は知っておるぞ。中級以上のドラゴンの内、人里の近くで長く暮らした者は、特殊な力を得るとな」
アイシアとユーリがそう言い出す。
どうやら彼女たちは、何か知っているらしい。
「どういうことだ? 俺にも分かるように言ってくれよ」
「カエデは強いが、察しは悪いのぉ」
「しょうがないだろ。頭は生まれつきだ」
最強の猫耳装備を着ていても、頭の回転や知識量まではチートにならない。
こればかりは仕方ない。
「つまりじゃ。そこの娘は――フレイムドラゴンが姿を変えた姿ではないかということよ」
「なに!?」
ユーリの言葉に、俺は驚く。
そして、少女の姿を改めて見つめた。
「フレイムドラゴンが、少女に変身した……?」
「はい。その可能性はあると思います」
「確かに、そう考えるのが自然かもしれぬ」
「信じがたいことですが、現に目の前からフレイムドラゴンの体が消えていますものね」
アイシア、桜、エリスまでもが肯定する。
ドラゴンが人の姿に変化した、か。
人化の術といったところだな。
さすがはファンタジー世界。
まぁ、世界樹の精霊であるユーリも人型になってこうして旅しているわけだし、今さらだけどな。
しかし、そうなると……。
「お嬢ちゃん……いや、お前がフレイムドラゴンだったとは。よくも騙してくれたな」
「ひぃっ!?」
俺が少女を睨みつけると、彼女は再び怯えた様子を見せる。
「あ、あの、ごめんなさい! 殺さないでください!!」
少女は泣きながら訴えてきた。
「ほう。普段は好き勝手暴れておいて、自分が負けたら人化して泣き落としか?」
「ち、違います! そ、そんなつもりじゃ……」
「ふん。俺は騙されん」
「うぅ……」
少女は涙目になりながらも、俺のことをジッと見つめている。
こうして見ると、ただのか弱い少女なんだけどなぁ。
彼女が暴食竜フレイムドラゴンだと言われて、信じる者は少ないだろう。
さて、これからどうしたものか……。