76話 赤い髪の女の子
俺は討伐したフレイムドラゴンの死体をアイテムボックスに収納しようとしたが、失敗した。
「どうした? カエデよ」
「ああ、なんか分からないんだけど、アイテムボックスに入らないんだよ」
ユーリの問いに、俺はそう答える。
「アイテムボックスの容量がいっぱいなのでしょうか? ふふ、規格外のカエデさんにもやはり限界はあるのですね」
「当然でござる。これほどの巨体を収納できる者など、拙者の故郷である和の国にもなかなかおらぬ」
「私のアイテムバッグで一部を負担しましょうか? 切り分けて分担すれば、重要な部位は収納できると思います」
エリス、桜、アイシアがそれぞれそんなことを言う。
「そうだな。そうしようか。まずは、首を落として――」
俺がフレイムドラゴンの巨体を見上げながら、そんなことを呟いたときだった。
「ちょ、ちょっと待ってぇ!!」
突然、俺の声にかぶせるようにして叫び声が上がった。
「ん?」
「なんじゃ?」
「誰でござる?」
俺、ユーリ、桜が疑問の声を上げる。
「え? あ、ああっ!」
「フレイムドラゴンの巨体が……?」
エリスとアイシアが目を見開く。
その視線の先には、1人の少女がいた。
赤い髪の女の子だ。
彼女は地面に尻餅をついた状態で、震えている。
「こ、来ないで! 近づかないで! お願いだから……!」
少女は涙目になりながらも、必死の形相で懇願してくる。
「そんなに怯えることはないだろ? 俺たちは冒険者。人殺しなんかしないさ」
「ひいぃっ!!」
俺は優しく声を掛けたのだが、少女は怯えるばかりだ。
「それにしても、いったいどこから来たんだ? ん? あれ? フレイムドラゴンがいなくなってる……」
先ほど俺がアイテムボックスに収納しようと試みていたフレイムドラゴンの死体がない。
無意識の内に収納したのかと念のため確認するが、アイテムボックスにも入っていない。
「なぁ、お嬢ちゃん」
「な、なんでしょうか?」
「ドラゴンがどこに行ったか知らないか? あいつの死体を売って、俺たちは大儲けするつもりなんだよ。アイテムボックスに入らないから、首を落とそうかと思っていて――」
「ひ、ひいいぃっ!!!」
俺が話している最中だったが、またしても悲鳴が上がる。
それだけじゃない。
ジョボジョボ……。
少女の股間からは、液体が漏れ出していた。
「あ、すまん。物騒な話だったな」
幼い少女にとって、ドラゴンの首を切り落とすとかいう話は刺激が強すぎたのかもしれない。
それにしても、漏らすのは少し過剰な反応な気もするが……。
特別に臆病な性格の少女なのだろう。
ここは彼女との会話を切り上げて、ユーリたちにも話を振ってみることにするか。