71話 ネコレイン
暴食竜フレイムドラゴンと遭遇してしまった。
かなり危険なドラゴンらしい。
そして、奴と俺たちとの間では、多数のオークがこちらに向かってきている。
「たかがオークごとき大した相手じゃないが……。フレイムドラゴンの動向が気になる」
「そうですね。何とか刺激しないように蹴散らさないと……」
「ふむ。あるいは、茂みにでも隠れるかの?」
俺、アイシア、ユーリが意見を交わす。
そうこうしているうちに、徐々にオークたちとの距離が縮まってきた。
「「ブモォオオオオッ!!」」
先頭を走る2体のオークが雄叫びを上げ、斧を振り上げながら迫って来た。
やはり、ただすれ違うだけっていうわけにはいかないよな。
俺も剣を構え迎撃態勢を取る。
直後――
「ガアァアッ!!」
フレイムドラゴンが大きな口を開き、炎のブレスを吹き出した。
「「「ブモォオオオッ!!??」」」
オークたちはあっという間に炎に包まれてしまった。
俺たちが相手をするまでもなく、焼け死ぬだろう。
「手間が省けたな」
「そ、そんなことを言っている場合ではありませんっ! あわわ……」
アイシアが焦っている。
そうだった。
オークたちを襲った超火力のブレスは、勢いそのままに俺たちに向かっているのだ。
このままでは、俺たちも焼け死んでしまう。
「くっ……! 水の精霊よ、盾となり我が身を守れ! 【ウォーターウォール】!!」
エリスが咄嵯に水属性の防御魔法を発動させる。
さらに、隣にいた桜も動く。
「【水遁・水流壁の術】!」
桜を中心に水が瞬時に広がり、俺たちの前に立ち塞がるように展開された。
直後に、凄まじい熱量の炎が桜の展開した水を蒸発させていく。
「一時凌ぎにしかならぬでござる! この場を離れて逃げられよ!!」
桜がそう告げた瞬間、水の壁を突き抜けてフレイムドラゴンの巨体が姿を現した。
「グルル……!!」
「ぬおっ……!」
ユーリが尻餅をつく。
そりゃ怖いよなぁ。
彼女は世界樹の精霊だが、だからこそ火を操るフレイムドラゴンとは相性が悪いし。
「俺に任せろっ! 【ネコレイン】!!」
俺は水魔法を発動する。
空から大量の雨粒が降り注いだ。
ちなみにどのあたりが『ネコ』なのかと言えば――。
「て、天候操作魔法? いえっ、そんなことより雨粒の形がおかしいですっ!」
アイシアがそう指摘する。
一見すれば、どこにもおかしい場所はない。
だが、動体視力の良い彼女はしっかりと雨粒の形を認識できたようだ。
そう。
この水魔法による雨粒は、ネコの顔を模しているのである。
「こんな変なところに拘る余裕があるなら、少しでも多くの水を降らせてほしいのですがっ!」
「逆だよ。俺はネコの魔法の方がイメージしやすい。普通の魔法にしようとすれば、威力や量が落ちるぞ」
俺も、別にふざけて『ネコレイン』を発動したわけではないのだ。
まぁ、何はともあれ。
空から降り注ぐ雨が、フレイムドラゴンの体を濡らしていくのだった。