58話 臨時パーティのお誘い
Cランク昇格試験を終えた俺は、とりあえず宿屋に戻ってきた。
「よっす。帰ってきたぞ、ユーリ」
「おかえりなのじゃ。カエデよ。試験のほうはどうじゃった?」
「ああ。問題なく終わった」
筆記試験は相当怪しいが、魔法試験と戦闘試験は高評価のようだった。
ギルドマスターのパワードも倒したことだしな。
「それはよかったのじゃ。……そういえば、街でおいしそうな飯屋があった。今日の夕飯はそこでどうじゃ?」
「おおっ! いいなそれ」
俺が試験を受けている間、ユーリは街の散策をしていたらしい。
そして、気に入った店を見つけたようだ。
ユーリの先導のもと、俺はそのレストランへと向かう。
しばらく歩くと、目的の場所に到着した。
そこは大通りに面したオープンテラス付きのお洒落な雰囲気のレストランだった。
「ここじゃ」
「へえ。良いところじゃないか」
店内に入るとウエイトレスのお姉さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませっ。2名様ですか?」
「おう。席は空いているか?」
「ええっと、あいにく混雑しておりまして……相席でもよろしいでしょうか? それでしたらすぐにご案内できますが」
確かに、店内は込み合っているようだ。
「俺はいいが……。ユーリはどうだ?」
「構わぬ。それで頼むのじゃ」
「はい! かしこまりました」
そう言って、店員さんは奥へと引っ込む。
「相席の者はどんな相手なのかのぅ。美少女ならよいのじゃが……」
「お前な……。そんなに都合のいい展開があるかよ」
「冗談じゃ。そこまで飢えてはおらぬ」
俺たちは軽口を叩き合いながら、待つこと十数秒。
ウェイトレスが戻って来て、俺たちをあるテーブルに連れて行った。
4人掛けの丸テーブルだ。
そこには2人の少女が座っていた。
俺とユーリが加わって4人ちょうどになるので、相席の組み合わせとしてはベストだ。
……というか。
「あら? カエデさんではありませんの」
「奇遇でござるな。楓殿もこの飯屋がお気に入りでござるか」
エリスと桜がいた。
「何じゃと!? この娘たちと知り合いなのか? カエデ!」
ユーリが急にテンションを上げてそう言う。
彼女は、結構美少女好きだよなあ。
村娘のルウや、港町セイレーンでの町娘たちと盛大に楽しんでいたし。
「…………」
「ん? どうした、カエデ」
「……別に」
「なんじゃ? 機嫌が悪いのう……」
俺の機嫌が悪い?
そんなことは……、いや、確かに何かモヤッとした気分はある。
それが一体なんなのかよくわからないが……。
「ふむ。楓殿は、そういう嗜好の持ち主でござったか」
「そういう嗜好?」
「つまり、同性を好むということでござる」
桜がそう言う。
俺がユーリを好きだと?
考えたこともなかったな。
しかし……。
うん。
確かに、俺は彼女のことを好きなのかもしれない。
この異世界に来てから最初期に出会い、行動をともにしてきた。
また、夜の生活もいろいろと楽しんできている。
港町セイレーンの夜のように少し悪ふざけが過ぎることもあるが、それはそれでいい刺激となった。
俺にとってかけがえのない存在だと言えるだろう。
「まあ、間違いではないな」
「なんじゃと? それは本当か!?」
「ああ。俺はユーリのことが好きだよ」
そう言ってやる。
すると、ユーリは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
あれ。
なんだ、その反応。
てっきりからかわれるかと思ったのに。
ちょっと待ってくれ。
俺まで恥ずかしくなってきたぞ。
「えーっと。とりあえず席に座ったらどうでしょうか?」
そんな雰囲気の中、エリスがそう言ってきた。
「そ、そうだな! とりあえず座るぞ!」
「う、うむ」
そうして、俺たちはぎこちない動きで椅子に腰かける。
そして、気まずい空気が流れる中、食事が始まったのだった。
レストランの料理はおいしかった。
だが、さっきのやり取りのせいで、あまり味を覚えていない。
「美味だったでござる」
「そうですわね。満足しました」
桜とエリスがそう言う。
「うむ。悪くないの」
ユーリはいつも通りだ。
「ああ。うまかったな」
俺もとりあえずそう言って同意しておく。
「ところで、カエデさん」
「どうした? エリス」
食事を済ませ、食後のコーヒーを飲み始めた頃。
エリスが話しかけてきた。
「カエデさんは、これからどうされるおつもりですか?」
「一週間後の合格発表までは特にすることがないな。だから、しばらくはこの街にいる予定だ」
「合格発表の後は?」
「その後か……、特に考えてなかったな……」
正直、何も考えていなかった。
そもそも、試験に受かるかどうかすらわからないし。
「そうですか。では、もしよろしければ私たちと一緒にクエストを受けませんか?」
「へ?」
予想外の提案だった。
「いや、俺はいいが……。ユーリもいいか?」
「構わぬ。それに、お主はいろいろなクエストを楽しみたいのじゃろ?」
「そうなんだが……」
「ならば、一緒に行動するのが得策じゃろう」
確かに、彼女の言うことも一理あるな。
パーティ人数が多いほど、当然パーティの戦力やできることは増える。
より高難易度のクエストを受けることも可能となるはずだ。
「わかった。しかし、無事にCランクになれるかはわからんぞ?」
「大丈夫じゃ。お主ならきっとなれよう」
ユーリはそう言ってくれるが……。
どうなることやら。
そんなこんなで、俺たちはこの4人でパーティーを組む予定を入れたのだった。