56話 vs謎のオッサン
俺は桜との模擬試合を制した。
「さて。これにて、Cランク昇格試験の全日程を終了します! みなさんの健闘を称えさせていただきます!」
女性職員が高らかに叫ぶ。
「結果については、1週間後の発表となります。合格者名は当冒険者ギルドに貼り出しますので、ご確認をお願い致します! また、合わせてギルドカードを更新させていただきますので、受付まで忘れずに申し出てくださいませ」
名前が公表されるのか……。
プライバシーはどこに行った?
まあ、冒険者は知名度や信頼感が大切な職業なので、Cランクに昇格したことを広められて困るような奴はいないのだろうけど。
「ふ~。なんだか少し疲れたな。桜、エリス。今日はいっしょうに夕飯を食べないか?」
筆記試験、魔法試験、戦闘試験という3つの試験があった。
筆記試験は座って問題を解いただけだし、魔法試験と戦闘試験は猫耳装備のおかげで無双できた。
しかし、精神的な疲れは別だ。
ゆっくりしたい。
「いいでござるな。るくせりあの街を堪能するござる」
「カエデさんのその装備の秘密も聞きたいですわね」
桜とエリスは乗り気だ。
「じゃあ決まりだな。さっそく……」
俺は意気揚々と撤収しようとする。
「待て! そこの猫娘よっ!!」
そんな俺を誰かが呼び止める。
振り返るとそこには筋骨隆々の大男がいた。
年齢は50歳くらいか?
結構なオッサンである。
「俺のことか?」
俺は首を傾げる。
「そうだ! お前だ!」
大男はこちらに向かって歩いてくる。
「何だよオッサン」
俺は若干喧嘩腰でそう聞いた。
「問答は無用! お前さんの力を見せてもらう!」
そう言いながら、大男が拳を振りかぶる。
「いきなりかよっ!?」
俺は咄嵯に身をひねる。
ドゴォンッ!!
凄まじい衝撃音が周囲に響き渡る。
地面を見ると、大きく陥没していた。
「お、おいおい。なんてオッサンだよ」
パワーだけなら、Cランク冒険者のグリズリーやガンツよりも上じゃないか?
Bランク並かもしれない。
「そっちがその気なら、俺も反撃させてもらうぜっ!」
俺は今度は反撃に転じるべく、戦闘の構えをとる。
「おらあっ!」
俺は適度に力を込めて右足で飛び蹴りを繰り出すが……。
「ほう……なかなか鋭い蹴りだ」
俺の右足は受け止められてしまった。
結構速くて強力な飛び蹴りのはずだったんだけど。
このオッサン、バケモノかよ。
「まだまだっ!!」
俺は右足をオッサンに掴まれたまま身をひねり、今度は左足で蹴りを放つ。
だがそれも軽くいなされ、逆に足を捕まれてしまう。
左右両足を掴まれた俺は、そのままオッサンに振り回されてしまう。
「ぬうんっ!!」
「うおおおっ!?」
ジャイアントスイングだとぉっ!!
「秘技・マッスルバスター!!」
ドガァーンッ!!!
「ぐわああぁー」
俺の身体は試験場の壁に叩きつけられた。
「カエデさんが投げられました……。やり過ぎですわっ!」
「あの楓殿がああも一方的に……。あの男性は、何者でござる?」
エリスと桜のそんな声が聞こえてくる。
「ああ……。有望なCランク昇格候補者が……。パワードさん、やり過ぎですっ!」
女性職員がそう叫ぶ。
どうやら、あの筋肉マッチョのオッサンはパワードという名前のようだ。
「ガッハッハ! やり過ぎということはあるまい! ほれ、見てみよ」
パワードはそう言って、俺を指差す。
俺はというと、何事もなかったかのように立ち上がって復活済みだ。
なんとなく雰囲気的にやられ声を上げてみたが、実際のところダメージはほとんどない。
最強の猫耳装備のおかげだ。
まあ、完全に何の感覚もなかったわけではないのだが……。
「やるな! 妙な格好の嬢ちゃん! 儂のマッスルバスターをくらって立ち上がるとは!」
「おう。ちょうど筆記試験で体が凝っていたから、ちょうどいいマッサージになったよ。気遣いありがとうな」
俺はそう礼を言う。
もちろん本気で言っているのではなくて、煽りだ。
まあ、最強の猫耳装備の前ではマッサージ程度の感覚しか受けなかったという点は本当だけど。
「むう! やせ我慢にせよ、それだけ言えるなら本当に有望だ! どれ、最後の力を見せてみろ!!」
パワードが再び構える。
お言葉に甘えて、反撃させてもらうことにしよう。