53話 脱がせば中身はいっしょだろ?
俺の的あて試験は終わった。
制御が甘されて減点されるかと思ったが、あの威力だけでも相当な高評価をもらえそうな感じだ。
俺はひと安心しつつ、他の受験者の的あてをぼんやりと眺めている。
「楓殿。さっきの魔法は凄かったでござるな」
桜がそう声を掛けてきた。
「本職の魔法使いであるわたくし以上の魔法を操るなんて……。カエデさんも、魔法使いでしたのね」
エリスがそう言う。
「いや、俺は魔法使い専門ではないが……。剣や格闘もできるぞ」
「「え?」」
俺の言葉を聞いて、2人が同時に声を上げる。
「あれだけの魔法を使えるので、てっきり魔法専門の方かと思いました」
「それに、その格好で剣術など冗談でござろう?」
「なんだ? また俺の格好を愚弄するのか?」
よろしい。
ならば戦争だ。
「い、いや……。愚弄するつもりはないでござるが……。単純に動きにくいはず」
「それに、体もそれほど大きくないし、近接戦闘で強そうには見えないわねえ……」
桜とエリスがそう言う。
「そうか。まあそう思われてしまうのも仕方ないか」
俺の外見は猫の着ぐるみを着た少女である。
背は小さめだし、腕や足も細い。
とても強そうには見えないだろう。
そんな会話をしている俺たちを、遠巻きに見ている者たちがいる。
他の受験者たちだ。
「おい……。見たか? さっきの魔法……」
「いや、俺は注目していなかったから見ていない。そんなに凄かったのか?」
「とんでもない威力だったぜ……。ありゃ、魔法系の貴族の家系かもしれない……」
いや、俺は平民だが。
「外見も可愛くて素晴らしい……。お近づきになりたいぜ……」
「え? お前、あんな変な格好の奴が好みなのか?」
「いいんだよ。時代の最先端を行くファッションだ。それに、脱がせば中身はいっしょだろ?」
勝手なことを言いやがる。
お前の前で脱ぐつもりなんてないぞ。
「なら、戦闘試験でいいところを見せるんだな。魔法は凄かったが、さすがに近接戦闘は専門外だろ」
「ああ……。俺の剣捌きで男の強さってもんを見せつけてやるぜ!」
男がそう意気込む。
舐められてて少しだけムカついてきたな……。
やはり、猫の着ぐるみを着た少女の姿だと侮られやすいようだ。
次の試験とやらで俺の強さを思い知らせてやろう。
そんなことを考えているうちに、参加者全員の魔法試験は終わった。
「さあ! 最後に戦闘試験を行います!! 2名ずつお呼びしますので、呼ばれた方は前に出てきてください!」
女性職員の声が響く。
「それでは、まず1組目……」
女性職員に呼ばれた者が、前に出る。
そして、武器を構えて向き合った。
ちなみに武器は、木製のものとなっている。
また、これは近接戦闘の試験なので魔法による攻撃や防御は禁止だ。
2人が戦いを始める。
Cランク昇格試験に臨むだけあって、それなりに強いか?
あまり人の戦いを真面目に見たことがないので分からない。
しかし、グリズリーやガンツよりも少し迫力は足りないように思えるが……。
俺はそんなことを考えつつ、ぼんやりと試合を眺める。
しばらくして、決着はついた。
相手の攻撃をかわし、カウンターで1撃を叩き込んだ受験者の勝利である。
「そこまで! お疲れ様でした」
女性職員が、試合を終えた2人にそう声を掛ける。
「次は、カエデ様と……。そちらの方、お願いします!」
「おう」
「よし! 猫のお嬢ちゃんと直接戦えるとは……。ラッキーだぜ!」
俺と共に指名された男がそう言う。
こいつは……。
さっきの魔法試験の見学中に、俺の猫耳装備が可愛いと言っていた奴だな。
それだけならいいのだが、何やら”脱がせばいっしょ”とか下卑たことも言っていた。
その上、近接戦闘には自信があるようで、俺を侮っているような様子もある。
少しだけ痛い目にあってもらうか。
「……大丈夫でござるか?」
「魔法試験は高評価でしょうし、辞退でもいいと思いますわよ」
桜とエリスがそう声を掛けてくる。
俺の魔法の技量は評価してくれているようだが、近接戦闘でも強いという話はあまり信じていないようだな。
「問題ない」
「まあ、楓殿がそう言うのであれば止めぬでござるが……」
「カエデさん……無理だけはしないでくださいね……」
俺を心配してくれる2人を背にして、俺は前に歩み出る。
さて。
軽くもんでやることにするか。