49話 エリスと桜
Cランク昇格試験の会場で、少女2人に話しかけられた。
しかし、一触即発の空気になってしまっている。
なんとかなだめよう。
「侮辱する意味はなかったんだ。きれいな服装だと思う」
「ふむ。この服装を綺麗だと……。なかなか見る目があるでござるな」
彼女は座り直す。
「そなた、名前は何という?」
「俺はカエデだ。よろしく頼む」
俺はそう言って、手を差し出した。
「かえで……楓? いい名前でござるな。拙者は桜と申す。それでこちらが……」
「わたくしはエリスですわ。以後、お見知りおきを」
ふむ。
侍風の少女が桜で、魔法使い風の少女がエリスか。
俺は、2人とそれぞれ握手を交わす。
「……それで、楓殿のその服装はなんでござる?」
桜がそう言って、俺の方を見る。
「これか。あー、これはな……」
俺の服装は猫耳装備だ。
猫の着ぐるみと言ってもいい。
町を歩いていても、人々から奇異の視線で見られがちだ。
俺は適当にはぐらかそうと口を開きかけ、思いとどまる。
いいことを思いついたぞ……。
「なあ。俺のこれは冒険用の装備なんだけど、どう思う?」
「それは……前衛向きなのか後衛向きなのかすら分からぬ……。動きづらくないのでござるか?」
「ああ。全然問題ねえ。むしろ、これが俺の戦闘スタイルだ」
俺は堂々と言った。
「ううむ……。正直、見たこと無い装備でよく分からぬでござる。エリスは知っているか?」
「いえ、わたくしも存じ上げませんわ」
桜とエリスがそう言う。
「まあ、めずらしい装備であることは自覚してるよ。それで桜。この服装について率直な感想を言ってくれ?」
「ん……、変な格好でござるな……」
桜がそうこぼす。
「ああん? 俺の故郷の服装にケチを付けようってのか? なら、決闘だぜ! 表へ出な」
俺はドスの効いた声でそう言う。
「ひぃっ。すまなかったでござる。そんなつもりはなかった。許してくれ!」
「桜がすみませんでした。どうかご容赦を」
桜とエリスがそう頭を下げる。
やべ。
冗談のつもりだったのに、ガチの謝罪がきてしまった。
「い、いやそんな謝らなくても。こっちも悪かった。ちょっとしたジョークだ」
俺はそう言う。
「そうですか。それを聞いて安心しました」
「分かりにくい冗談でござる……。肝を冷やした」
2人がそう言う。
俺たちがそんな会話をしている間に、時間になったようだ。
参加者たちは全員そろっているようで、今から説明が始まろうとしている。
「ではこれより、Cランク昇格試験の説明を始めます。まずは、筆記テストから始めましょう」
そう言って、眼鏡をかけた知的そうな女性職員が前に出てくる。
筆記テストか……。
俺に解けるだろうか?
がんばって取り組むことにしよう。