45話 死の渓谷
「にゃあん!」
「おお! 速いぞ猫まる! ひゃっふー!」
俺は猫まるに乗って、馬車よりも速く移動していた。
「ふふ。この調子じゃと、すぐにサンライトへ着きそうじゃな」
俺の後ろに乗っているユーリがそう言う。
「そうだな。……おっと、あの谷が見えてきたぞ」
港町セイレーンとサンライトを隔てる、大きな谷である。
確か、名前は『死の渓谷』だったか。
大げさな名前だが、それに値するような深い谷である。
その底は暗く、何も見えない。
そして、強い魔力反応がいくつもある。
魔物の巣窟のようだ。
落ちた人間は確実に死ぬだろう。
「あそこに落ちるのは勘弁したいのう」
ユーリがそんなことを言う。
「まあな」
俺も同意する。
いくら最強の猫耳装備を持つ俺でも、複数の強力な魔物に囲まれたりしたらどうなるかわからない。
「よし! あそこを飛び越えるぞ! できるか? 猫まる」
俺は猫まるにそう問う。
行きは、ユーリの飛行魔法により飛び越えた。
当時は猫まるがいなかったからな。
しかし今の俺たちには、猫まるがいる。
強力なジャンプ力をもってすれば、渓谷を飛び越えることも可能だろう。
「にゃん!!」
「よし! 任せたぞ、猫まる」
猫まるがスピードを上げていく。
「にゃ! にゃ! にゃ! ……にゃにゃーん!!!」
「おお!! 飛んだ!」
「すごいのじゃ」
猫まるが空高く舞い上がる。
俺とユーリは、猫まるの背中で風を感じていく。
「にゃにゃにゃーん!!!」
そして、渓谷を跳びこえて、その向こう側へと着地した。
「ふう。成功だな。よくやった、猫まる」
「素晴らしいのじゃ! 流石は猫まるよのぉ」
俺とユーリで、よしよしと猫まるの頭を撫でる。
「にゃお~ん」
猫まるは嬉しそうにしている。
と、そのときだった。
「ゴアアアアァッ!!!」
大きな雄叫びが鳴り響いた。
「ぐっ! あいつは……ドラゴンか」
「行きにも見かけた奴じゃな。何やら苛立っているようじゃ」
ドラゴンは、俺たちに向けて敵意を向けているわけではない。
ただ、周囲に殺気は漏らしている。
「……急いで離れよう。ドラゴンなんかと戦っていられるか!」
いくら最強の猫耳装備だとはいえ、相手は選ばないとな。
がんばれば倒せそうな気もするが、戦いを避けられるならそれに越したことはない。
「そうじゃの。猫まる、よろしく頼む」
「にゃおん」
そうして、俺たちは足早に『死の渓谷』を後にしたのだった。
ここの危険性さえ何とかすれば、サンライトと港町セイレーンの交通の便は良くなるんだけどなあ。
サンライトで海の幸を堪能できれば、俺の冒険者ライフもより充実したものとなるだろう。
ま、先の話だな。