43話 死ぬな! 死ぬなーっ!!
グリズリーとガンツのおかげで、俺は猫耳装備を装着することができた。
これでひと安心なのだが、変態のこの2人が俺に迫ってきている。
どうやらドMのようだ。
「さあ、姉御! 今度は俺様たちに雷魔法を!」
「いいや、水魔法だぜ!」
グリズリーとガンツが目を輝かせている。
「いや、遠慮しとくよ……」
俺はそそくさと退散しようとする。
こいつらはマジモンの変態だ。
これ以上刺激するのはやめた方がいい。
「そこを何とか!」
「姉御ォッ! お願いしますよぉおおおっ!!」
「うわっ!?」
変態紳士たちは、またしても俺に飛びかかってきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 頼むから落ち着いて……」
「「はぁはぁ……、姉御ォオオオオッ!!」」
「ひいぃ! 【ネコサンダー】!!!」
俺はとっさに雷魔法を放ってしまった。
手加減なしの、ネコの名前を冠した魔法だ。
相当な高威力のはずである。
「「あばばばばば!!」」
グリズリーとガンツはそう悲鳴を上げ、倒れた。
「お、おい。大丈夫か?」
通常魔法ならまだしも、俺の猫系の魔法をくらって、ただで済むとは思わない。
「す、すばらしい電撃でしたぜ……」
「このガンツ、生涯に一片の悔い無し……」
二人は満足げな顔でそう言って、ふっと目を閉じた。
「バ、バカ野郎! 死ぬな! 死ぬなーっ!!」
さすがに、人を殺すのは後味が悪い。
というか、この町で指名手配されるんじゃないか?
英雄から犯罪者へ。
そんな転落劇はいやだ!
俺が焦っているとき……。
「なんじゃ……? 騒がしいのお……」
ユーリが部屋の中から出てきた。
「おお、ユーリ! こいつらが死にそうなんだ! 助けてくれ!!」
俺は必死に訴える。
「ふうむ。助ける必要はなかろうて」
「なぜだ!? こんな奴らでも、命は命だぞ!!」
俺は思わず声を上げる。
世界樹の精霊であるユーリは、人命に対する価値観が俺とは少し異なるのだろうか。
「くっくっくっ! まあまあ慌てるでない! よいか……。もう一度、お主の足元を見てみい」
「え、ええっと?」
俺は言われた通り、自分の足下を見た。
するとそこには……。
「はあはあ……。姉御のお尻……」
「猫耳装備の外に表れている、この曲線が最高だぜ……」
なんと、いつの間にかグリズリーとガンツが起き上がって俺の尻を間近から観察していた。
本当にタフだな、お前らは。
心配して損した。
というか……。
「ええい! 離れろ! 変態共! さっき、俺の生尻を散々間近で見て揉みしだいていただろうが!!」
自分で言ってて悲しくなってきた。
しかし、事実だ。
今さらこの猫耳装備越しに尻を見たところで、いったい何が楽しいというのだろうか。
水着や下着のようにピッチリとした状態ならばともかく、この猫耳装備は着ぐるみ形状のものだ。
尻のラインなんざ、ほとんど見て分からないだろうに。
「いえ! 生で拝見するのとは、また違ったよさがあるのです!!」
「その通り! 俺たちにその肌触りを堪能するご許可を!」
肌触りか。
確かに、この猫耳装備の肌触りはいい。
もこもこして温かみがあり、さらに上質な絹のような肌触りでもある。
謎素材だ。
「だれが許すかっ! くらえっ! 【ネコロック】!!」
俺は土魔法を発動する。
グリズリーとガンツの足元の地面が隆起し、彼らの足をがっしりと拘束した。
「よしっ! 行くぞ! ユーリ!!」
「忙しないのお……。やれやれじゃ」
お前はグリズリーとガンツに狙われていないから、そんな悠長なことが言えるんだ……。
イマイチ危機感を抱いてくれないユーリとともに、俺はこの場から離れたのだった。