25話 ええい! 俺に触るな!
俺の仲間になりたいと言うグリズリーとガンツの申し出を断った。
彼らは悲壮な顔をしている。
そして、俺の体にすがりついてきた。
「ええい! 俺に触るな! うっとおしい!」
猫耳装備を着た俺は無敵だ。
しかし一方で、装備がなくなればただの無力な少女である。
ユーリに一晩中鳴かされたのは記憶に新しい。
筋骨隆々の男二人に迫られると、身の危険を感じる。
「ああ……。姉御の装備、モフモフですばらしいですぜ……」
「それに、装備の下からほのかに感じるこの柔らかい太ももの感触……」
グリズリーとガンツが恍惚とした表情を浮かべている。
「やめい!」
俺は彼らを振り払う。
「「姉御ォ!!」」
「寄るなと言っているのがわかんねえか!」
「「ぐはあッ!」」
二人の鳩尾へパンチを叩き込む。
「お前らのような変態に付き合っていられっかよ!」
これ以上一緒にいると、貞操の危機を感じてしまう。
体は女になったが、心まで女になったつもりはない。
男に迫られるのは恐怖である。
俺はまだ純潔を守りたいのだ。
「「ぐぬぬ……」」
グリズリーとガンツがなおも立ち上がろうとする。
パワーが足りなかったか。
手加減しすぎたな。
「そのまま寝てろ! おらぁっ!!」
俺は二人の背中に足を掛けると、思いっきり体重をかけた。
「「グハァッ!」」
二人が悲鳴を上げる。
しかし、この威力はどういう理屈だろうか?
猫耳装備により俺の身体能力が向上しているとはいっても、この状態では単純に俺の体重分の力しか二人には加わらないはず。
この世界に来てから体重を測っていないのでなんとも言えないが、おそらくは50キロにも満たないような気がする。
つまり、一人あたりは25キロ程度の負荷だ。
決して軽いとまでは言えないが、Cランク冒険者がこんな悲鳴を上げて苦しむのは理屈に合わない。
この世界ならではの物理法則か、もしくは猫耳装備ならではの物理法則が働いている可能性があるな。
「ふん」
俺はその姿勢をキープし、二人を見下ろす。
さすがにこれで懲りただろう。
俺みたいな少女に踏まれるのは、屈辱的なはずだ。
俺はそう思った。
しかし……
「「おおぉっ!!」」
二人はなぜか頬を赤らめ、歓喜の声を上げた。
……えぇー。
「はあはあ……。姉御のおみ足で踏まれているぜぇ……」
「この気持ちは何だ? 何かがこみ上げてくる気がする。新たな扉が開けそうだ……」
マジかよ?
こいつらはドMなのか……。
「くそったれ!」
ドン引きした俺は二人を蹴り飛ばす。
こいつらを優しく説得するのは無理そうだと思ったのだ。
「ぐへっ!」
「ぷげらっ!」
グリズリーとガンツはゴロンゴロンと地面の上を転がっていった。
そして、意識を失ったようだ。
やれやれ。
これでようやく落ち着けるな。
思わぬ横槍が入ったせいで脱線した。
俺はそもそも何をしているところだっただろうか。
本題を進めていかないとな。