24話 気持ちだけ受け取っておいてやる
Cランク冒険者のグリズリーとガンツが、土下座している。
何でも、俺の仲間になりたいそうだ。
「心変わりの理由はわかった。だがそれで俺にすり寄ってくるとは、虫が良すぎるんじゃないか? 犯罪まがいのことをしておいて……」
特にグリズリーは、俺を拐って売り払おうとしていたような……。
「すまねえ! 空腹でどうかしてたんだ! もちろん、本気でひどい目に合わせる気はなかった!」
「ああ。変な嬢ちゃんをビビらせて、涙目になって困る姿を見てストレスを発散したかっただけなんだ!」
グリズリーとガンツがそう力説する。
いや、それだけでも十分に最低な行為だぞ。
相手が俺だから何とかなったが、普通の少女相手にそんなことをやればトラウマ必至だ。
「つまりお前さんらは、カエデの猫耳姿にノックアウトされて、心を入れ替えたというのじゃな?」
カエデが呆れながらにそう言う。
「そうだとも! こんな強くて可愛く、そして美しい女性がいるなんて、知らなかった!」
「同感だ! しかも、その格好も独特で可憐だ!! 始めて見たときに変人だと思った昨日の俺をぶん殴ってやりたいぜ!!」
グリズリーとガンツがそう言う。
いや、俺のこの格好がヘンテコなのはその通りだが。
俺を変人だと思ったその感性は間違っていない。
「ふむ。まあ、心を入れ替えたようならよかった」
空腹は人を狂わせる。
こいつらも、これからは真面目に冒険者活動を続けてくれそうだ。
俺がぶち殺してやる必要はなさそうである。
「ああ! 昨日は本当にすまなかった! これからは姉御のために命を懸ける所存です!」
「俺も同じく! グリズリーと一緒に荷物持ちでも何でもします!」
二人揃って再び頭を地面に擦り付ける。
「…………」
俺は言葉を失ってしまった。
こいつらが改心したのは嬉しいし、助かるのだが……。
ぶっちゃけ、男の同行者なんぞ不要である。
「気持ちだけ受け取っておいてやる。俺は気ままに旅を続けさせてもらう」
「「えぇーっ!?」」
グリズリーとガンツが声を上げる。
「なんだ? 不満なのか?」
「きっとお役に立ちます! そこを何とか!」
グリズリーがそう言う。
「お願いだ! 俺たちを見捨てないでくれ! こう見えても、そこそこ優秀なんだ!」
ガンツも必死に懇願する。
うぅん……。
こいつらの実力はどの程度のものなのだろう。
昨日戦った感じだと、大したことはなかった。
しかし、空腹で実力を出せなかった可能性も高いな。
Cランク冒険者だし、最低限の実力は持っているのだろうが……。
「要らん」
「ああっ! そんなぁ……」
「姉御ォ……」
グリズリーとガンツが悲壮な顔をしている。
やれやれ。
男に言い寄られても、嬉しくも何ともないんだけどな。
そりゃ確かに、この二人はよく見ればそこそこ顔が整っているけどさ。
筋骨隆々であり、Cランク冒険者として稼ぎもそこそこあるだろう。
一般的な女性からすれば優良物件なのは間違いない。
だが残念。
俺の中身は男なんだ。
適当に断ってやることにしよう。