19話 精霊 猫まる
俺とユーリは海へと向かった。
「さて、どうやってサメを倒すか」
俺は海辺を歩きながら考える。
「水中戦か。俺、泳ぎは苦手なんだよなぁ」
「ふむ。我に任せよ……と言いたいところじゃが、我も泳ぎは苦手じゃ」
ユーリがそう言う。
「そうなのか」
「うむ。我は基本的に陸でしか活動しないからの。そもそも、水に入る機会がほとんどない」
「だったら、今回はお留守番か?」
「いや、そういうわけでもない。別に、海中に潜って戦う必要もあるまい。要は、どう戦うかじゃ」
「どういうことだ?」
「例えば、こういうのはどうじゃ?」
ユーリが地面に魔法陣を描く。
「これは?」
「召喚の魔法陣じゃ。これを使って、海での戦いに適した獣魔を召喚するのがよかろう」
「へぇ。便利なものがあるんだな」
「うむ。人間が開発したものらしいぞ。詳しい原理はよく知らんが」
「よく知らないものを、簡単に使うんじゃない」
「細かいことを気にしすぎる男はモテんぞ」
「余計なお世話だ」
俺は呆れつつ、その魔法陣の様子を伺う。
「それで、いつ獣魔は召喚されるんだ?」
「確か、魔力を供給する必要があるらしいのじゃ。やってみよ」
「よしきた。こうかな?」
俺は手をかざし、魔力を送り込む。
すると、地面の魔法陣が光り輝く。
そして、中から出てきたのは……。
「にゃ~」
猫だ。
可愛い猫だ。
しかし、サイズが大きい。
普通の猫のサイズじゃない。
虎くらいはある。
しかし、顔はなんだか愛くるしい。
「にゃん?」
首を傾げる仕草も可愛らしい。
「おお! 成功じゃな」
「何が出てくるかと思ったら、こんなデカい猫とは……」
「うにゃ~?」
巨大な猫は、興味深そうにこちらを見つめている。
「可愛いし、それなりに強そうか? しかし、海での戦いには役立ちそうにないが……」
「見た目だけで判断してはいかん。獣魔にも様々な種類があるのじゃ」
「そうなのか。おい、お前は泳げたりするのか?」
「にゃにゃ~」
うーん。
意思疎通が難しくないか?
「まずは名前を与えるのがよかろう」
「名前?」
「うむ。獣魔に魔力を込めて名付けることで、繋がりができる。さすれば、意思疎通も可能となるじゃろう」
「なるほどな」
俺は巨大猫に向かって声をかける。
「えっとな。これから一緒に戦う仲間になるかもしれない存在だからな。名前を考えてみようと思うんだが……どうかな?」
「にゃあ~」
巨大猫は嬉しそうな顔をしている。
どんな名前がいいだろうか。
ねこきゅう、ねこゆる……。
いや、ここは……・
「ふむ。【猫まる】という名前はどうだろうか?」
「にゃあ!」
「気に入ってくれたみたいだな。それならよかった」
こうして、新たに召喚した巨大猫改め、猫まるが仲間になった。
「さて。海で戦う練習をしておこうか……」
俺は猫まるとともに、練習を始める。
まずは、海へのダイブからだ。
「行くぞ!」
俺は猫まるの背中に乗る。
「にゃあ!」
猫まるがジャンプし、海面に飛び込む。
バシャーンッ!!
そして、そのまま俺たちは沈んでいく……。
「ぷはっ! お、おいおい。泳げるんじゃなかったのかよ」
「に、にゃああ!?」
猫まるは心外だという表情をしている。
今は、何とかジタバタと立ち泳ぎをしているような状態だ。
これでも泳げていると言えないこともないが、できれば俺を背中に乗せた状態で俊敏に泳いでもらいたい。
「ふむ。従魔は、魔力を込めてこそ真価を発揮できるのじゃ。カエデの魔力を猫丸に与えてやるといい」
陸からこちらを見ているユーリがそう言う。
「わ、わかった」
ユーリの言葉を聞き、魔力を流し込んでみる。
「にゃにゃ~」
猫まるが輝き始める。
「おお、なんか凄そうだな」
「うむ。これで、もう大丈夫じゃろ」
「よし。猫まる、頼むぞ」
俺は猫まるの背中に乗る。
「にゃにゃ!!」
すると、猫まるはスイスイ泳ぎ始めた。
「おお、これは便利だな」
「うにゃ~ん」
猫丸は気持ちよさそうに泳ぐ。
「よしよし。いい子だ」
俺は猫まるの頭を撫でる。
猫まるは目を細め、幸せそうにしている。
「うにゃあん」
「このまま、海に慣れてもらうぞ」
「にゃにゃ」
俺は猫まると一緒に、海で練習を続けていく。
「カエデ、それに猫まるよ。我も乗せてはくれぬか?」
「ん? 別に構わないけど。猫まるもいいよな?」
「にゃ~ん」
猫まるは了承してくれたようだ。
「うむ。感謝する」
ユーリが猫まるに飛び乗ってくる。
猫まるは大きな猫だが、さすがに俺とユーリの2人が乗るとなるとやや狭い。
「ちょっと窮屈だな」
「我慢せい。ほれ、こうすれば問題なかろう」
ユーリが体を俺に密着させてくる。
彼女の胸が俺の背中に押し当てられる。
柔らかい感触だ。
「お、おい……」
「気にせずとも構わん」
「いや、しかし……」
そんなことを話しているうちにも、猫まるは海を泳いでいく。
「にゃー!」
猫まるは楽しそうに泳いでいる。
そして、猫まるに乗っている俺たちはというと……。
「おい。離れてくれよ……」
「断る。この方が安定しておろう?」
「いやまぁ……そうだけどさ」
こんな感じで密着していたのだ。
なんだか落ち着かない。
彼女の胸の柔らかい感触が心地いい。
そんな感じで、猫まるとの練習は終了した。
これなら、海の上でも戦えそうだ。
巨大なサメ……ビッグ・ジョーとやらを狩らせてもらうことにしよう。