第一章04 ライオンの王様
草原の国、トゥーンヤーの王様は、ライオン頭のマッチョだった。名前はシントー。
草原を散歩させてもらえるようになってから、たまに見かける。
外に出て、最初は果樹の世話が仕事になった。草ぬきに水やり、袋かけに枝切りなど。
果樹の世話を仕事にしていた、リスの獣人の家族にはたくさんのことを教わった。ぶどうやみかんを育てているところより奥に行くと、「迷いの森」と呼ばれる、複雑に入り組んだ迷路のようなところがあるらしい。
ある日、リスの長男のクラークス君に、筆が欲しいとお願いした。
「何に使うんだ?」
と尋ねられ、「受粉」ということをどう言えばよいか分からなかった私は、
「くだものがたくさんとれるおまじない。」
と答えた。そうして、おしべから花粉をとって、めしべに付けていると、
「ああ、それか。そんな方法もあるのか。」
とクラークス君は驚いていた。どうやら、花を切り取って他の花にぽんぽんたたくと、くだものが実りやすい、ということはこちらの世界でも伝わっていたらしい。
そんな日々を送っていたある日、シントー様がときどき私の仕事を見に来るようになった。何かを話しかけてくるけれども、ほとんどはまだ私には難しい言葉で、
「分かりません。」
と返すことが多かった。それでもシントー様は私のことを微笑みながらながめていた。とても仕事がしづらかった。
だんだん、放牧や裁縫の仕事も手伝わされるようになった。カレンダーのようなものを渡されて、ローテーションを組んでお手伝いに行く。休日はマパのいる教会に通った。マパは喜んでくれた。お祈りをし、言葉を教えてもらい、散歩をし、心が休まる時間をマパはくれた。
どこにいても、たまにシントー様はやってきた。なんだろう。難しいことを言ってきては、にこにこ眺めてくるだけ。うーん、気味が悪い。
そんな日々が2年間過ぎた。私は流ちょうに話すことができるようになった。まだ難しい言葉は分からないが。