第一章03 知りたい
犬美人は、ときどき部屋をたずねてくれた。そのたびに言葉を教えてくれた。分からない言葉とその言葉を表す絵や動作をしてくれて、覚えていった。だんだん、文のつくりも理解していった。日本語は述語が文の最後だけれど、英語は述語は主語の後。でも、この世界の言葉は主語によって異なるみたい。難しくて最初はよく分からなかった。
最後はいつも祈りの言葉だった。犬美人と私をつなぐ言葉。なんとなく、私と家族をつないでいるようにも思えた。
犬美人の名前はマパだった。マパは元の世界で言う、教会のシスターだった。
マパに、私の名前がエミだという話をすると、なんと「エミリノラ教団」という宗教の人らしく、
「運命だ!」
と喜んでいた。
この大陸は、大きく5つの国に分かれるみたい。海の向こうからやって来る人の話もしてくれた。多分、この国は航海技術がそんなに発展していなくて、他の大陸を見つけられていないんじゃないかと推測した。
ここは、草原の国「トゥーンヤー」。さまざまな種類の獣人が住む国らしい。
獣人たちは平穏に暮らしたいが、土地がらほかの国に攻められることが多く、武力を多くもつ国になったのだとか。
昔、トゥーンヤーに、海の向こうから悪魔がやってきた。悪魔はたくさんの知恵を民にもたらした。しかし、疫病ももたらし、多くの人の命を奪った。
その悪魔がもたらした一つが、召喚の儀式。別の世界から人を呼ぶ方法。昔のトゥーンヤーの王様は、知恵と労力を求めて、召喚を行っていたらしい。しかし、その度に流行り病が起こった。そうしてこの儀式は、禁じられたそうだ。
召喚されて、おそらく3か月ほど経ったある日、外に出してもらえた。その景色は今でも忘れない。見晴るかす地平線。放牧しているのだろう、馬や羊たちの鳴き声が聞こえる。テントにような家からは、にぎやかな声が聞こえてきた。
ここは、本当に異世界なのだろうか。
この空の続くどこかに、家族がいる日本があるのではないだろうか。
異世界だとしても、戻る方法がきっとある。
調べたい。もっと知りたい。
なんとか生き抜いてやろう、と意志が固まった。