第一章26 羽ばか
「どうして『羽ばか』が本を読んでいるんだ?」
私が本を読んでいたら言われた言葉だ。
金の国ゾルトは地表は森林に覆われ、多くの民は地下で暮らしている。地下といっても、洞窟のように、山を掘って家としている。ゾルトの陸地はほぼ山なのだ。斜面では人が住みづらく、ゾルトの歴史は地下の民でつづられている。羽をもつ「羽有人」には歴史がない。地下の民が制圧した民として歴史書には書かれていた。しかし、それは当然のことだった。羽有人には、地下の民がもっているような器用に動く指がついている手がないのだ。その代わり、小柄な体躯を空に浮かすための大きな羽と大きな胸をもっている。つまり、字を書くことができなかったのだ。羽有人の多くは話すことでコミュニケーションを取る。そのため、いわゆる民話は残っているが、日記をつづるような習慣は誰ももたなかったのだろう。
そんな地下の民と羽有人によってつくられた金の国ゾルトでは、知識あること・技術を要することは地下の民が受け持つこととなり、政治はほぼ地下の民が担うこととなる。羽有人は元々、空を飛ぶために羽と胸以外の体がとても小さい。羽有人の多くは、ダンサーや歌手、観光客の誘致を目指す街の運営として勤めている。輸送業を営む人が少しいるくらいか。その結果、「羽ばか」という蔑称で呼ばれる人種となっている。そう、頭が悪いのである。
私は「めだまやきひめ」が大好きだった。「めだまやきひめ」は絵本だ。羽有人に口伝で広まっていた昔話を描いた一作である。明るく天真爛漫なお姫様が冒険する。特に、雲の上の国に行くエピソードが大好きだ。
羽有人が本を読むのは珍しい。手をもつ民に読み聞かせしてもらうこともまれである。でも、私は「めだまやきひめ」が読みたかった。だから足を使った。何度も何度も足で「めだまやきひめ」を読んだ。親から注意を受けてもやめなかった。初めはページをめくるのが難しくて、私が繰り返し読んだ「めだまやきひめ」はくしゃくしゃになってしまっている。でも、読んだ。気付くと、私は空を飛べなくなっていた。その代わり、足でペンを持ったり、服を縫ったりすることができるようになってきた。そんな私が珍しかったのだろう、隣国である水の国オセアノの貴族に誘われ、私はオセアノで暮らすようになる。
そこで出会った地下の民に言われたのが、「どうして『羽ばか』が本を読んでいるんだ?」である。やめるように言われることはあっても、理由を問われることはなかった。私は答えに詰まってしまった。
なぜ私は本を読んでいるのだろうか。言われてから考えるようになったが、答えは出ない。ただ、好きなだけ。いや、本当に好きなのか?「めだまやきひめ」は好きだったが、他の本は惰性で読んでいなかったか?空が飛べなくなってしまったことから、自暴自棄になって足を使うようになっただけではないか?それは本当に好きと言えるのか?私はどうして本を読むのだろうか。
今思えば、青かったのだなあ、と恥ずかしくなる。私は「めだまやきひめ」が好きだったことから、流れで今にいたる。そこで悩んだって仕方がない。ただ、若い時分は悩んでしまうものなのだろう。
トミヤ姫は気付くと姿を消していた。




