第一章25 学生
「ピサテ様でしたね。こんにちは。楽しんでいますか?」
水の国の少年とスア夫人が一緒にやってきた。
「ええ。草原の国は日差しが暖かいのですね。金の国はずっと寒いから、うらやましいです。」
お世辞笑いを浮かべる。
「僕はガロトと言います。建造物について学びにきているので、金の国の技術をどのように生かせるか、興味があります。もしよろしければ教えていただけますか?」
水の国オセアノには大きな学び舎がある。森の国フォルスト以外のどの国からも、王族・貴族が集まり、学びを深めている。どうやら、「どんな人にも学びの機会は与えられるべきだ」という考えをもっているらしく、たまに王族・貴族以外の庶民も入学するらしいが、ほとんどは卒業せず辞めてしまうらしい。
この少年もオセアノ人らしく、学ぶことが好きなのだろう。しかし、オセアノ人は手先が器用ではない。だのに、建築家を目指しているのか、と疑問をもってしまった。そもそも手がない私が物書きのようなことをしているのだから人のことを言えないのに。
ガラス・鉄・青銅の鋳造以外にも、金の国ゾルテでは製紙も盛んである。ゾルテの家々には紙も使われる。青銅の像もよく作られる。そんな話をすると、ガロト少年は喜んだ。しかし、その喜び方はどこか学者とは異なるように思えた。そう、学者は研究していることしか目に入らず、知恵の悪魔のような動きをすることが多いように思える。
「ガロト君は、建築のことだけを学んでいるの?」
他に目的があるのではないか。ガロト少年は目を丸くして答えた。
「そりゃあ、それだけではありませんよ。他国のことも学んでいます。今はトゥーンヤーに住み暮らし、その環境・風土を学んでいますし、あなたから金の国ゾルテのことを教えてもらえるのも私の学びです。」
つまり、外交について学んでいるのか。この少年は位の高い貴族なのかもしれない。
「ふふふ。ガロト君はほんとうにいろいろなことを学習しているのよね。」
スア夫人が口を開いた。
「さっき私が話した、この館の昔話も教えてあげたらいいんじゃない?」
ガロト少年はしかめ面をする。
「何ですか?それ。気になります。」
話題をつなげたかった。
なぜこの館が王族の館として選ばれたのか。それは、王族が約束したからだ。
草原には風の神が住んでいた。
風に従って進み、風に乗って動く。定住せず、テントを動かしながら生きていく。
神と共に過ごしていると、神は私たちに笑いかけてくれた。
そんな中、とある獅子が館を建てた。
森の国からもらった木を使い、火の国に力を借り、水の国に知識を得て、金の国の技術を生かして作った。
他の国との友好の証。しかしそこには風の神は加わっていなかった。
風の神は泣いた。突風が吹きすさび、草原の国の民は飛ばされてしまう。
獅子は館で風の神に謝った。
どうか気持ちを落ち着けてください。私はいろいろな人と仲良くしたいのです。それはあなたも同じです。
みんなでいっしょに暮らしましょう。
みんなでいっしょに遊びましょう。
わたしといっしょに踊りましょう。
一晩中、獅子は風の神と踊り明かした。
風の神は楽しくて楽しくて仕方がなくて、ずっと獅子のそばにいようと考えました。
風の神はこの館の壁に潜んでいるそうです。
たまに、そっと、すきまからこちらを覗いているのだとか。
話を聞き終わった瞬間、一陣の風が吹いてきた。
風の吹いてきた方向、館の2階には、トミヤ姫が顔を出していた。




