第一章17 鱗が生える少年
ソーンのトップは頭が鳥だった。
「はじめまして、知恵の悪魔。はっはっは。私はヌックです。どうぞよろしく。」
何がおかしいのかはわからない。でも、愉快そうに笑うので、思わずこっちも微笑んでしまう。見晴らしのよい丘の上に建つ館に案内された。その館の玄関前で一人の少年がたたずんでいた。
「どなたかな?」
シントー様の疑問にヌックが答える。
「彼はガロト。オセアノから遊びにきているんだ。」
オセアノが何かわからなかった。地名だろうか。後でシントー様かタニヨンにきいてみよう。
「よろしく。」
近付くとガロトは笑って挨拶してくれた。その首に鱗が生えている。ぎょっとしてしまった。それに気付いたのか、ガロトは語りかけてきた。
「知恵の悪魔はあなたですよね?オセアノ人はあまり知らないんですか?」
「ええ。オセアノが何かもわからないの。」
ガロトは驚いた表情を見せた。
「この国、トゥーンヤーの他に、4つの国があります。隣はルハボンでしょう?」
ガロトはタニヨンを手で示した。タニヨンを見るとウインクしてくる。
「反対隣はフォルストです。」
クラークスのことを思い返して、少しさみしくなった。
「ルハボンの奥にあるのがオセアノです。オセアノの人は大人になるにつれ、皮膚に鱗が生えるんですよ。」
そこで私たちは大きな部屋に到着し、席に着くよう促された。自然と会話も終わる。もうちょっと地理のことを聞きたかったのだが、仕方がない。
風通しがよい家だった。大きな掃き出し窓にすだれのようなものがかかっている。その上にランマがある。廊下や他の部屋に続く壁にもランマがあり、そこから風が入ってくる。潮の匂いがした。
「もう聞いているかもしれませんが、少年が次から次へといなくなっているんです。」
ヌックはさすがに笑みを浮かべていなかった。
「初めは3人ほど。ここでもだいぶやんちゃで元気のよい3人組でした。ふふふ、そこの窓はですね、その3人にやぶられたんですよ。」
すだれがふわっと風で浮くと、そこには窓がなかった。
「次に2人。3人組とも仲が良かった男の子と女の子。3人組が行きそうなところを探していたそうです。そのまま帰ってこなかった。」
ガロトがしかめ面をした。もしかしたらその2人はガロトとも仲が良かったのかもしれないと思った。
「最後にもう1人。よく海辺で釣りをしていた青年がいなくなってしまいました。」
全部で6人いなくなってしまったのか。思ったより多い。
初めの3人組がいなくなったのは1か月ほど前。水着を持って出掛けたらしい。川なのか海なのか、どこに行くのか、誰も家族には伝えていなかった。よく3人が遊んでいた川の周りにも、泳ぐことができる海辺やそこから流れ着く先にも、3人はいなかった。いなくなってから1週間が経った日に、「海に贈り物をする儀式」をしたらしい。3人の失踪は海での事故として扱われ、海で人身事故が起こったときにするその儀式を催したということだ。
次の2人いなくなったのはその儀式の次の日。「事故のはずがない」と主張する2人は、3人を探すため、様々な道具を持って出掛けたらしい。浮き袋も身に着けており、おぼれるとはあまり考えられない。しかし、そのまま帰ってこなかった。3人組と同じところを捜索したが、見付からなかった。今回は海で事故が起こったのか、違うのではないのかという議論が起こった。しかし、2週間が経ち、「海に贈り物をする儀式」を行うこととした。
最後の青年は河口付近でよく釣りをしていた。ここ2か月ほど、釣れる魚が変わってきているとぼやいていたらしい。行方不明になった日も、いつも通り釣りに出掛けた。彼も、そのまま帰ってこず、煙のように消えてしまった。
「みんなその川の近くでいなくなっているんでしょう?じゃあ、みんなそこで流されちゃってるんじゃないの?」
タニヨンがいつものハスキーボイスよりさらに低い声で尋ねた。
「この、ソーンには半島があるんです。海の行方不明者の多くはそこに流れ着くんです。だから、そこに催事場があり、『海に贈り物をする儀式』を行うんです。」
ヌックは両羽を重ね合わせ、肘を机に付き、大きくため息をついた。
「海での事故が多いから、儀式を行うのよね。」
タニヨンは言いづらそうに話す。彼女は事故だと考えているようだ。
「まず、事故に遭う頻度が普段より多いんだ。多くて月に一人くらいかな。大きな船が転覆し、大人数が海の贈り物になることもあるが、人数も多い。どうだろう、知恵の悪魔、この行方不明のこと、何かわかりそうかな。」
期待の目が集まる。
「まあ、予想でいいなら、話しましょうか。」




