表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/42

二人の『ヒロイン』

『花言葉は愛を紡ぐ』それが今私が生きる世界。


剣と魔法が存在するファンタジーな世界観で、精霊に愛されたヒロインと見目麗しい男性たちとの美しい恋物語が展開される王道な乙女ゲーム。


そんな世界にわたしは生まれた。

いいえ、ちがうわ。『転生』したの。

何も知らないステラじゃなく、何でも知ってるステラとして。

これから始まるめくるめく夢の時間とそして約束された幸せの為、今日も私は偽る。

可憐で心の美しい優しい少女『ステラ』として笑顔を振りまく。


「ステラお嬢様、お勉強のお時間です」


劣悪な環境で健気に生きる『ステラ』はもういない。

何もかも手に入れた最強のヒロインとして、君臨するのよ。


栗色の髪は手入れされて、ぴかぴかつやつや。

桃色の瞳は『特別な』わたしにぴったりな二つとないもの。

究極に可愛いわたしにぴったりなヒロインの容姿はお気に入りだ。

わたしは特別なヒロイン『ステラ』。

誰より幸せになる世界でただ一人の選ばれた存在。


〇〇〇




気が付いたとき、わたしの世界は変わっていた。

皆に無視され、今日も嫌がらせの花を飾られて、わたしの世界は最悪。

でもそんな世界でもわたしは最高に輝けるものを手に入れた。

昔の友達がくれたゲーム。

いつだったか分からないけれど面白そうだと言ったらわたしに『くれた』ものだ。

埃をかぶっていたけれど、今の世界よりもずっと輝いてる世界が描かれていた。

両親を亡くし、伯父夫妻とその子供たちに使用人のように使われ、虐げられる少女・ステラ。

来る日も来る日も酷い虐めに遭うが彼女の心が折れる事はなく、そんな醜い悪意に負けない強い少女。まるで自分の様だと思う。


酷い嫌がらせにも負けないわたしと可愛いヒロインはすぐに重なった。


精霊に愛されて世界の特別なヒロインとなったステラはあれよあれよという間にお姫様のように幸せの階段を駆け上がる。

男爵の養女となり、以前救った幼い少年と姉弟となり、本当なら入る事のない王立学園に入学、そして見目麗しい攻略キャラたちと愛を育む。

蝶よ花よと大切に扱われるステラはまるで昔のわたし。

本当なら今も続いているはずの幸せなわたしの世界。

自分に魅力がなかったくせに、大騒ぎした『あいつ』さえいなければ今だって。


ううん。

そんな恨み言はやめよう。

今、私は幸せなのだ。そしてこれからもっと幸せになる。


騎士見習いで危なっかしいがとても優しい照れ屋なイオ。


闇魔法を好んで使用するからと嫌厭されているが世界の幸せの為に勉強熱心な真面目な平和を愛する青年・レン。


ステラの義弟で無垢な愛情を一途に向ける、ヤキモチ焼きでちょっと腹黒な所も可愛い少年、ショウ。


そして、この王国の第一王子で光魔法に愛された天才。見目も美しい上に、品行方正な完璧な紳士・アスター王子。


どれもこれもうっとりする程の美男子。

そんな彼らがみんなみんな、ステラの虜となるのだ。

最高の世界だ。

いっそ全員独り占めしたって、特別なステラは問題ないだろう。

この世界はぜんぶぜんぶステラの思い通り。


『ステラ、学園に行ってもわたしたちが守るからね』

『ステラを虐める奴はあたちが許さないからね』

『安心して過ごすが良い』

『あの頃のように我慢なんてしなくていいんだ。

 あの性悪ども、ステラの優しさに感謝もせず、金で売るような真似をして…!

ステラが今が幸せだからと言ったが、ワタシはまだ許してないからな』

『今度こそ幸せにしてあげる!』


「ふふ、皆ありがとう」


精霊も、攻略キャラもみんなみんなステラの味方。

あとは入学の日まで準備するだけ。

あと、二年。それまでに完璧なヒロインになるの。

そして、そのあとはシナリオ通り、ぜーんぶわたしが上手くやるだけ。

平気よ。だってわたしには知識があるもの。




〇〇〇




「まだ見つからないの。私の使用人はっ」

「そう言われましても、旦那様が許可してないのに勝手な事はできません。

 そういったことは旦那様に言って頂くと、迅速に対応してくださいますわ」


それが上手く行かないからお前たちで憂さ晴らしをしていると言うのに言い返すなんて何事だ。

伯爵なんて名ばかりな火の車な貧乏貴族なんてことは知っている。

だが、だが、私専用の使用人がいないと話がうまく進まないから言っているのだ。


「ねえ! ならあの娘を呼び戻せばいいじゃないの!

ほら、ここで惨めな生活をするはずのあの女よ!

 逃げ出したあの娘を呼び戻す様にお父様に伝えなさいよ!」

「呼び戻す? まさか、リリア様を?

馬鹿な事はおやめくださいお嬢様、そんな事はもう出来ません。

 呼び戻すなんて恐れ多い、今やユリーズ伯爵家とは無縁となったのですよ。

 そんな事プランタ伯爵夫妻が許すはずありません!

 それどころか、あの子爵家に目をつけられたらユリーズ伯爵家はおしまいです!」


おかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!!!

この世界はおかしすぎる!!!

このゲームは、『アイローズ』に都合の良い世界のはず。

何もかも独り占めした神に愛されたヒロイン『アイローズ』は世界で一番の幸せ者だったはず。

でもここには、綺麗なドレスも宝石もない。

食事だって貴族が食べるとは到底思えないものばかり。

そんな、なんで、どうして。

不満ばかりが募る。

それもこれも全部、『あいつ』が、『あの女』がいないからだ。


アイローズの後ろでいつも俯いた暗いキャラ・リリア。

いつまでもいつまでも死んだ母ばかり想って、現実を見ようとしない馬鹿な女。

いつまでも私は世界で一番不幸みたいな顔をしている陰険で邪魔なキャラ。

ゲームをプレイしていると、ちょこちょこ『可哀想なキャラ』アピールをされてウザくてたまらなかった。乙女ゲームの脇キャラのくせにしゃしゃり出る邪魔でしかないキャラ。

雑音でしかない回想は実に不快でこんなのに票を入れる奴はまともな感性をしていない。

自己陶酔や自己投影する気持ちの悪い奴なのかもしれない。


気に入らないキャラだったが、今の私には必要なキャラだったのだろう。


本来なら、お姫様のような我儘放題の暮らしをするアイローズが今や貴族である事を疑うレベルの生活を送らなくてはいけないのは確実にあいつがいないからだ。


あっという間の数年間は苦しい生活だった。

アイローズの母と共に苦しい生活を耐え、伯爵令嬢となりようやく好き放題できると思ったのに!

気が付いた瞬間、ボロボロで臭い家とも言えないボロの中にいた『わたし』の気持ちが分かる?

名前を呼ばれ、見上げればけばけばしい容姿のおばさんがいたわたしの気持ちが!

アイローズと言うプレイする際には憎らしいお邪魔キャラになっていたわたしの気持ちが!

彼女の良い所と言えば、あと少し我慢すれば都合の良い駒と贅沢な生活が約束されたことだ。

ヒロインへの嫌がらせも都合の良い駒に押し付けて、捨てて逃げるのだからプレイしていた時はなんてムカつくキャラなのだと思ったが、これほど都合のいいキャラはいない。

ゲームでは逃げ出すしかなかったが、やりこんだこのゲームなのだ。

今度はヒロインより上手くやって、幸せになる事だってできるはずだ。

何せわたしは特別さでしか売り込めないヒロインとは違う。


なにもかも知っているヒロインより特別な存在なのだ。


精霊に愛されただけの空っぽヒロインより、愛されるかもと期待したのに!

したのに、あまりにも違う生活には腹が立ってしかたがない。

これではわたしが、アイローズが使用人のように働かないといけないではないか。

伯爵令嬢のはずのアイローズが!

こんなのおかしい! おかしすぎる! だからこそあの駒みたいなキャラが必要だったのか!

本当は貧乏貴族なのにそれを隠すためにリリアをぞんざいに扱い、使っていたのか。

知りたくなかった。

そして、こんな事ならなりたくなかったが、わたしの特別さは変わらない。

どうしたら攻略キャラたちの好感度を上げればいいか知っているアイローズとなったのだ。

あの二年の間に、現代チートという知識でただでさえ不便なのにこれ以下になってたまるものか。


どこかの養女となった駒を使えるくらいに、成り上がってやる。

そしてどこかで今日もぼんやり生きている運だけヒロインも叩きのめして、アイローズがヒロインとなるのだ。

精霊だけが味方のヒロインなんてわたしの推しに相応しくない。



みていろ。

本当のヒロインとは、こうあるべきだと知らしめてやる。

いじわるで、頭の悪いアイローズは今日でさよなら。

賢い上に美しいヒロインに誰も勝てるわけがないと、思い知るがいいのよ。

だって世界は全てアイローズのもの。

すべて知っているヒロイン、アイローズのものなのよ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ