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22

聞こえた声に視線を上げる。

そこには、少し困った顔をしたウィリアムがいた。


「待ってください。先ほどから一体何の話をしているやら

 私にはさっぱりです。

 それに、申し訳ないですがそろそろ本題に行ってもいいですか」

「ああ、申し訳ない。 

 ついうれしくてね、『転生者』に会えるなんて思ってもみなかった。

 それに彼女は私と同じだと感じたんだ。

 このまま上手くすれば、きっと互いに上手く共にあれると思ったんだ」

「……え……」


何の話をしているかわからないのは『私』だった。


「勝手に話をつけて、付いてきてもらったのにすまない。

 トアル侯爵令息は、君と同じ『転生』をしたらしいと聞いてね。

 そして目覚ましい活躍は知っているだろう。

 この世界では恐れられるほどの目覚ましい発展をさせた彼ならば、

 もしかしたら君の力になるかもと思ったんだ。

 同じ『転生』をした者ならば、君の聞きたい事を聞けるのではと思ったんだ。

 ずっと、気になっていたんだろう。その体、パンジーの事を。

 私も聞きたい。今、彼女の心はどこにあるのか」

「わた、わたし……」


涙が落ちる。

だって、『私』は。

この体を、転生者だと言って。

今、自覚させられて、ようやく物語を改変する転生者と変わりないことを突き付けられて。そして、ようやく好き勝手していた罰を受けるものだと。

いやこれから受けるかもしれない。

だって、別にこれだって、ただ妻の、パンジーのことだけを心配しているのだろうけれど。

だけど、パンジーはただのモブなんかじゃない。

もう一度、それを教えられた。

こんな素敵な人がいるのに、それを『私』は。


「……いいかな。話しても」


少し困った顔で尋ねたのはトアル侯爵令息だった。

こくり、とうなづけば咳払いを一つ。


「……では、話そうか。この私……いや僕たちの傑作と共に」



〇〇〇



目の前に置かれたのは丸く磨かれた美しい珠。

光を反射して輝くそれは、見覚えがあった。

それは、手をかざして『見えます』と言いながらやる、占い師の、あの。


「水晶……」

「いいやこれは『ミエマスの珠』。

 異なる魔力を持つものを感知して、映し出す。

 元はトアルと話すために作ったんだ。

 彼と話すのは魔法の憧れを遠慮なく話せる相手だからね。

 話せば話すほど、彼は体への執着がなくてね……。

 むしろ魂だけの存在ならば不老不死のようにずっと研究できると

 早く依り代を用意しろというのだけれど、それはそれで何だか……ね。

 彼がそれでいいならば、叶えたいが……ご両親を思うと、わかるだろう…?」


少し困ったように笑うが内容は笑えるものではなかった。

あちらも相当な困ったさんの様だ。

『私』が言える義理でもないけれど。


「ともかく、一度見てもらった方がいいね。

 ミエマス、ミエマス……トアルよ、聞いていただろう。

 リク君のご両親だ。そして、女性の方は『僕』と同じ転生者だよ」


珠を撫でながらそう話しかけると、珠自体から光輝いてきた。

そうして、まるでラジオのチューニングを合わせるように雑音が絞られていく。

ざあざあとした音が減っていくと、聞こえてくるのは少し退屈そうにしていた声。


「はあ。やっとこっちに話を振ってくれたね、トオル。

 ようやくお会いすることができましたね、プランタ伯爵夫妻。

 私にリクという友を出会わせてくれて、なんという礼をしたらいいか

 ずっと考えていました。

 しかし、今、ようやくそのお力になれる時がやってきたのですね。

 私はご存じの通り魔術などが大好きでこのように変わった同居人もいます。

 プランタ伯爵夫人……今はそうお呼びしましょう。

 きっと、あなたも良き同居人となれる事でしょう。

 トオル、失礼なんてしないでくれよ。

 リクともトオルともこれからも良き友人でいたい。トオルも同じだろう。

 ……あっ、おい、かっ……てに……る……』


ぷつり。

弱まる光と共に声は聞こえなくなっていった。

輝きを失った珠からはなにも聞こえない。


「……えっ」

「あの、これは」

「……いっただろう。異なる魔力を感知して、映し出す。

 これはこの体にある異なる存在を映し出す魔道装置だよ。

 今しゃべっていたのがトアル。

 そして、わ……『僕』はトオル。もっときちんと名乗るつもり、でした」


目の前で起きたことはまるでマジック。いや、魔法。

これが、本当に目の前で。

これがあれば、パンジーとも。

でも。

あんなに好き勝手していたのに、本当は。

本当は、そうでなかったら。

あのセリフは本心ではなかった、なんて。

だって、パンジーは。


「プランタ伯爵夫人、怖いのは当然だ。

 けれど、君を助けていたのは間違いなくまた『プランタ伯爵夫人』だ。

 何も今でなくとも構わない。

 同じ立場の友人としていつでも融通する。時間も作る。

 今でなくとも良いんだ」

「理由も告げずにつれてきたのは私です。

 私の我儘に付き合わせた。今日そんな道具があるとは知らなかった。

 知らなかったんだ……」


いいや。

ここで知ろうとしなければ、きっとまた。


リリアはきっと今も知らないことを知るために努力をしているはずだ。

今、ここで知ろうとしないのは。


「使わせていただけますか、トアル侯爵令息」

「……いいのですか、プランタ伯爵夫人」

「……ええ。そして、私は井原です。い、は、ら。

 私もあとでちゃんと名乗らせてください」





息を吸って、吐く。

それを何度か繰り返し、そっと触れた珠はひんやり冷たい。


「み、えま、す、み、ミエ……ミエマス、ミエマス。

 ……パンジーさん……、きこえ、ますか……」


声が震えた。

光がともる。ほんの少しだけ見えた光が、どんどん大きくなって。

そして、同じようにざあざあと雑音と共に、声が聞こえてくる。


「……よ……や……あ……。

 あ、ああ……きこえてきた。あなたの声……。

 ようやく、会えた。いはら、さん」



〇〇〇




世界がくらりと回った。

それほどの衝撃を与えたのは人によってはただの文字。

『こどもがうまれた』

ただそれだけ。

それだけなのに、たったそれだけなのに、体はまるで自由がなくなった。

膨大な知らない記憶が流れ込んできた。

しらない言葉たちの勢いに飲まれ、どんどんと『わたし』は。

『わたし』は。




「まあっ。なんてかわいらしいの。

 ああなんて愛らしいのかしら。リクとカイとも仲良くなれそうね」


お義姉様によく似たかわいらしい女の子。

まるで天使の様に愛らしかった。

それを自分の事のように喜ぶ自分がいた。

はて、これはどうしたことか。


「毒、ですって」



「えっ」


お義姉様…? 毒?


気が付けば、それはまるで、演劇を見ているようだった。

お義姉様が毒に侵され、冷遇される可愛い女の子リリア。

『可哀想に』

そう、見ているだけしかできない『わたし』

お兄様は何をしているの。



えっ。

うそよ。


そんな、そんなひどいことを……?


「おにい、さま…? あれが、嘘よ……あんな事、言ったりしない……!」


乱暴な態度で、言葉で、ぐいぐいと小さな手を、腕を引っ張る。

信じられない。

幼い『わたし』をいつも優しくしてくれたあのお兄様が、あんなに目を吊り上げて。

なんて恐ろしいお顔。

あんなのお兄様なんかではない。

やめて。

やめて。

誰か。

あんな小さな子に手を上げないで。

だってあの子は、『わたし』にとっても大切な子なの。


『リリアが可哀想だわっ』


何故か覚えがあった言葉。

何度も何度も何度も言ったような、そんな不思議な気分になる言葉。

でも、ただ、それだけでしかない言葉。

けれど、『私』は違った。

『わたし』はきっとああは言えない。

あんなに堂々と。

けれど、「しきい」とは何かしら。

『わたし』にはしらない言葉だわ。





一人はちょうどいい劇場に取り残された『わたし』はそこからずっと見ていた。

リクもカイもどんどん大きくなって、凛々しくなって。

ああ。なんて立派に、大きく……。

リリアもより愛らしくなっていく。

ああ。なんて仲がいいのかしら。

なんて素敵な。


けれど、寂しい。


近くで、もっと近くでその成長を見たかった。

もっと二人の力になってあげたかった。

『私』も頑張っているけれど、『わたし』だって。

ああ。いけないわ。

『私』だって頑張っているのに。


ああ。

お義母様、最後まで『わたし』を心配してくれていたのね。

『わたし』をちゃんと見ていてくれたのね。

ちゃんとお礼を言いたかった。

何もできない『わたし』をいつも励ましてくれた優しい人。


そのあとも『私』は頑張っていた。

『わたし』とは違う。

まるでなんでも知っているような、そんな馬鹿な。

けれど、すこし頼もしいような。


『わたし』とは違う関わり方。

『わたし』とは違う。

リクもカイも。そしてリリアも。

きっと『私』では。




「ウィリアムは、わたしを」


でも、彼は。

ずっと共にいたはずの、彼は。



『君はまたこんなところに隠れていたのかい』




「パンジーは何処だい」



やっぱり。

『わたし』をみつけてくれた。



〇〇〇


「ずっと、ずっと見ていたわ。

 あなた、本当にリリアのことが大好きなのね。

 リリアだけじゃなくて、リクもカイも愛してくれてありがとう」

「……あなたが、パンジー……さん……」


これが、ほんとうの、パンジーの『声』

『私』とはちがう、凛々しくてずっと、ずっと大人な声。

これが貴族として育てられた淑女の声。

なんだかかっこいい。


「あなたの事、今までの事、そしてこれからの事。

 話せるかしら。

 でも、その前に、ウィリアム……ウィル……ありがとう。

 わたしのこと、見つけてくれたのね」


ああ。

これは。


伯爵夫人のパンジーじゃなくて、ただ一人のパンジーとしての愛の声。





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― 新着の感想 ―
元のパンジーも結構な根性だなあ
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