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ヒロインの立場


あれは反省を促すためのモノだった。


口を開けばきれいごとばかりで、働くのはこっちだと言うのに。


どうしてヒロインである、この世界の主人公『ステラ』が名も無きモブの為にあちこち行って働かなくてはならないのか。何故。どうして。精霊の言いなりにならないといけないのか。そもそも精霊なんて『ステラ』に加護を与えるだけの役でしかないのに。大人しく加護を与えていればいいのに。


なのに。どうして。どうしてこんな事になるのか。


あまりにも簡単すぎてリメイクでは少しでも歯ごたえをとかいらない改変……?


なんて迷惑な話なのか。


どうしてそんな『ステラ』に不利なイベントを作るのか。酷い。

ひどい。

ひどいひどいひどい。

酷すぎる。


この世界は『ステラ』の為のもの。

それなのに、思い通りにならない。

アスター王子にすら会えないというのに。


「こんなの酷すぎる」

『本当よねえ。本当、光の精霊って傲慢で嫌な子ばっかり!

 セーラもちびのくせにそういう所は一人前でほーんと困るわよね』


そうよ。メーラの言う通り。

セーラってすぐに人を助けないと駄目だとか、なんだとか。

すぐにいい子ぶるんだもの。

『ステラ』はヒロインなの。ヒロインを働かせようとして本当に悪い子。


「みんなもそう思うでしょう。

 セーラは人を助けなさいなんて言いながら、放棄して逃げ出した。

 そんな無責任な事して、酷い精霊だって思うでしょう。

 こんな酷い事、許されるわけないわ。

 困っている人を見捨てるなんて、酷いわ……」


いいわ。

助けろなんて言う割にすぐに疲れたなんて言う怠け者。

あんな程度の力しか使えないくせに偉そうにしていて本当に迷惑だったし。

光の精霊といっても、きっともっと凄い子がいるはずよ。

『ステラ』に相応しいもっと凄い強い力を持つ精霊が。

その加護を貰えばいいだけの話。




〇〇〇



「いたたた………ステラ嬢、いつものようにお願いだよ」

「もう。しょうがないわねえ」


他よりも少しだけ見目のいい伯爵令息。

聞いたことない名前でモブだけれど、顔は良い。

だから少しだけ、ほんの少しだけ相手をしてやった。

にこりと微笑んで、親し気に話しかけて、他よりも会話をする。ただそれだけ。

それだけだが、こいつはそれだけで舞い上がった。


もぶのくせに。


名無しキャラで攻略もできないが、本来はこうあるべきなの。

『ステラ 』が微笑めば誰もがその虜になる。

天にも愛された『ステラ』は本来はこうなのだ。

今までがおかしい。

誰も相手にせず、会話どころが会うことさえない。

おかしい。

おかしすぎるのだ。

だからこそこれくらい許される。

むしろこれが始まりの一歩となるかもしれない。

遅すぎる?

いいえ。今までは『ステラ』の魅力が有り余る為のハンディー。

あげすぎていたかしら。

ほんのすこしのかすり傷、さっさっと治して次こそイオとの出会いを繋げてもらうんだから。


「すぐによくなるわ。痛いの、いたいの………」


いつものように。

セーラがいなくても、加護はあるんだもの。

だって『ステラ』は精霊たちに愛された特別な子だもの。





「あれ……なん、で」


いつもなら。

いつもなら、いつもなら光がふわりと包み込むのに。

ちっとも光らない。

ひからない。

ひからない。

ひからない。



ひ か ら な い。




「おいおい。どうしたんだいステラ嬢。

 俺とそんなに一緒にいたいのかな。

 俺は、いいけどさあ……」


そんなわけあるかこのうぬぼれ野郎が。

お前がイオとよく稽古をするからと言うから、相手をしてやっているのに。

負けて怪我ばかりしているのに、それでも相手をしているのは会わせてもらう為なのに。何を勘違いしているんだ。『ステラ』はお前なんて、お前なんて。

相手になんてしている暇はないのに。


「どうして、だって、昨日までは」


昨日までは、どんなに使っても光はなくならなかった。

どんなに使っても。

なのに、今日はこんなかすり傷を治すこともできない。

そんな、うそだ。


「………まあ俺もいつまでも油を売っていると叱られるからな。

 今日はさっさっと戻る事にするよ。

 俺は男だ。こんな傷なんて唾をつけておけば平気さ」


へらへら笑って伯爵令息は部屋を出て行った。

我慢できるなら来るな。

『ステラ』はそんな事言わないが、つい出てきてしまう不満。

そんなおかしい。

だって『ステラ』にはセーラの加護があって、愛されているはずなのに。


「火を灯して」


その声に反応して燭台に火が灯る。

指先に力をこめれば、蝋燭の様に火がゆらりと燃え上がる。


「花を咲かせて」


何もない所から花がふわりと落ちてくる。

枯れてしまった花瓶の花が生き生きと色を取り戻した様に花が開いた。

ほら。

できるじゃない。

『ステラ』はなんでも、出来る。

なのに、どうして。




〇〇〇


「では今日は光魔法について学びましょう。

 我が国において魔法とは選ばれた者だけが持つ才能。

 そう思われていました。

 ですが近年は魔法研究が急速に進み、簡易な魔法ならば……」


ああ。つまらない。

なんにも聞こえない。

光魔法が癒しの力をもち、希少な存在である事なんて『ステラ』を見たらすぐにわかる事なのに。なのに何を長々と説明しているのか。

簡易な魔法なんて何を馬鹿なことをいっているの。

ヒロインである『ステラ』には到底及ばないくせに。


「……このように、僅かな魔力で癒しの力を使うことができるのです。

 今日はこの応急処置の魔道具の使い方を……」

「ちょっと待ってください。

 そんな道具を使うなんて安全を考慮していないと思います」


手を上げて発言する『ステラ』


「わけの分からないものを使われる人の身になってください。

 わずかな魔力で使えるなんてありえない。

 魔法は奇跡の力です。それを皆が使えたら奇跡じゃない!」


そうよ。あんなわけの分からない道具に頼るなんてありえない。


「そんなものよりも魔力で、魔法の力で治す方がずっと。

 ずっとありがたみがあるじゃありませんか」


そうよ。あんなのより『ステラ』の方が。


「あんなおかしな道具を皆が使えたら、今まで魔法で治してた人は。

 お医者様は、どうなるというのですか。

 お医者様だって、私だって、立場がなくなってしまうわ」


そうよ。私の方が。


「あんなものよりも、私の方がずっと優れていて!

 魔力のない人よりもずっと、ずっと……っ!」


ほら。

みんな『ステラ』を。

わたしを、みている。




「………ガロイジュ男爵令嬢。

 貴方のように魔法の才に恵まれた者ばかりではありません。

 これは貴方の様に魔力がなくとも傷を癒せる。

 それだけ多くの方の命を救えるかもしれない画期的な物。

 才能をひけらかし、邪魔をするだけならば静かにしていて頂けますか」

「っ!? な、な、じゃ、邪魔!?」


誰だか分からない人が言う。

邪魔。

静かにしていろ。

なに、何様のつもりなの。

『ステラ』は誰よりも。


「そうよ。この前から思っていたけど、いつもいつも手当の邪魔ばかりするし」

「こっちが真面目に消毒したり、包帯巻いたりしているのに。

 見せつける様に魔法をつかって、ちっとも覚えないじゃない」

「魔法で治すのは良いって言ってるのに魔道具はダメなんて無茶苦茶よ」

「なにがお医者様はどうなるの、よ。魔法で治す方が良いっていうのに」


なに、これ。

『ステラ』は皆に愛されるはずなのに。

なんで、こんな。

まるでこの部屋すべてが敵の様に感じる。


こんなの、ひどい。

『ステラ』はこの世界のヒロインなのに


「皆さん落ち着いてください。

 この場所でそんな争いを始めるなんて良くありません。

 講義を続けますよ。

 これ以上そんな事を続けると言うのならばご自由に。

 ただし罰を受けて頂きますのでご理解くださいね。

 ……ではまず魔力を……」

「わたしがやりますっ」

「が、ガロイジュ男爵令嬢! 座りなさい! 席に戻りなさいっ」


あんな事を言われて黙って座るなんてしてやるものか。

観たらいい。

『ステラ』は特別なのだ。

誰よりも、ずっと。


それで立場を思い知るといい。


ヒロインとモブの決定的な立場の違いを。


いつものように力をこめる。

そうすれば、いつものように。










「ねえ、きいた? ガロイジュ男爵令嬢のこと」

「きいたきいた。体調不良で帰ったんでしょ。

 なんでも、魔道具が反応しなかったんでしょ。

 あの魔道具、僅かな魔力でもため込んでおける優れものなのに」

「ふふ。あの時の顔、酷かったわよ。

 本当に精霊に愛されたって存在なのかしら、幻滅しちゃったわ」








「……セーラが、いないから?」


そんなはず、ない。

『ステラ』は特別なのだ。

誰にでも愛されて、なんでも出来る世界に愛されたヒロイン。

そのはず。

それなのに。


「どうしてっ、なんで……? セーラがいない、それだけなのにっ」


ぐらぐら揺れる馬車の中。

『ステラ』の声がぽつりと漏れた。


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