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転生は一人ではなかった

私の名前はオレガノ・ユリーズ。

それなりの領地を頂き、それなりに治めているそれなりの暮らしをしている伯爵だ。

賢く美しい妻に、妻に似て可愛らしいとよく言われる娘。

誰もが羨ましがる暮らしをしているが、私には退屈でしかなかった。

『俺』はオレガノなんて奴じゃない。

ただ普通に過ごしていただけのごく普通の男だ。

何せここには何もない。

ゲームもないし、漫画だってない。

文字だけの本なんてみていてもつまらないし、男だからだのとうるさいし。

贅沢な生活ができるのは最高だが勉強ばかりの日々は非常につまらない。

それに『俺』は婚約者がいて、後は流れに合わせて結婚までしていた。

まさか『俺』が結婚できるなんて驚きだが、この世界での結婚なんて愛なんてなかった。

利口で頭の回る妻は何とも面白みのない女だし、妻に似た娘もきっとつまらない女になるだろう。

元々妻の家の資金援助を受ける為の政略結婚。

愛なんて存在しない仕事の様なもの。

金の為だと、生活の為だと我慢したが、愛想もなければ世辞も言わないつまらない女への愛なんて育まれる事もなく、『俺』は他の場所で愛を育む。

刺激を求め、参加した仮面舞踏会。身分も何も関係ないその場所で出会ったのは仮面をしていても美しさを隠せていない女性だった。

魅惑的な体に魅惑的な仕草。

『俺』は彼女に目を奪われ、一目で惚れこんでしまった。

ああ。ああ。

あっという間に虜となり、何度もダンスを踊る。

妻とのダンスの回数も時間もたった一日で越えた。

ああ。ああ。

なんて楽しい時間なのだろう。

きっと、これこそ、彼女こそが私の運命の相手。

もっと早く知る事が出来れば、あんなつまらない女なんて娶らなかった。

資金援助なんて汚いやり方で妻の座に納まったあの女が憎らしくなった。

そこからは早かった。

何度も仕事だと偽って、隠れては会う。

その度に彼女は辛い境遇に晒されている事を知る。


美しいベルローズは男爵家に生まれたが、望まぬ婚姻を結ばれて家の為に子爵夫人となったが、その子爵と言うのが最悪の男で浮気を繰り返し、借金も多く、ベルローズは勝手に名を使われて「浪費妻」なんて不名誉な噂まで作られたそうだ。

子供が出来ればきっと変わると信じ、乱暴な行為にも耐えたが子供が出来ても変わらず、ついに子供にまで暴力を振るうようになって彼女はたまらず離縁を申し出て家に帰ったそうだ。

なんて事だ。

なんて可哀想に。

政略結婚は愛を育むものだろうに。

なんて勝手な男なんだ。あり得ないな。

こんな美しい女性に暴力を振るうなんて酷すぎる。

それにこんな美しい女性を妻としているのに、浮気なんてもっとあり得ない。

不誠実な男だ。

しかし、家に帰っても彼女たちに居場所はなく、見捨てられた彼女たちは貴族だと言うのに今や平民よりも貧しい生活をしていると言う。

その話を聞いて、のうのうと暮らす妻が憎らしくなった。

その生活が当たり前だと澄ました顔で暮らす妻が、意地汚く映る。

ベルローズはこんなに苦労しているのに、愚かで傲慢な女に映る。

『俺』は決めた。

あんな女を排除して、ベルローズを娶ろう。

その娘も共に迎えよう。

あんな愚かな女がいなければ、幸せにできる。

ああ。リリアはまだ小さいからきっとこれから躾ければベルローズの様になるだろう。

その為にも母親からは遠ざけよう。

そうすれば、あんなつまらない女に似る事はない。

少しずつ弱っていく妻。

ああ。ああ。上手く行っている。

これなら、予定を早めても。







「お兄様、リリアとお義姉様はとっても元気ですわ」


にこりと笑ったのは妹のパンジー。

『俺』と同じように資金援助の名目で嫁がされたはずなのにどうしてか妹はいつも笑っていた。

旦那である伯爵とも上手く行っている様で、息子も二人と恵まれていた。

リリアが生まれた時も自分の事のように喜び、自分の子供の様に娘にも接する。

娘が何をしても褒めちぎり、すっかり娘は『俺』よりもパンジーに懐いている。

折角妻を病死に見せかけて死に至らしめる様にしていたが、何かを感付いたように強引に妻と娘を療養目的に自分の屋敷に招いた。

娘は大したことでもないのに話しかけたり、正直邪魔で仕方なかったが、妻は別だ。

少しずつ毒を仕込ませて弱らせていたのに。

折角上手く行っていたのに、もしかしてバレたかとヒヤヒヤしていた。

実際どうなのかは分からない。


毒殺しようとしたことがバレれば、これを弱味に金を要求されたら?


ベルローズのことがバレたら?


妻の実家に密告でもされたら、せっかくのドレスや宝石の類が奪われるかもしれない。

売れば新しいドレスや新たな宝石の資金にしようとしていたのにそれだけは避けなければ。

その為には娘は『俺』の傍にいるべきだ。

ベルローズは同じ年ごろの娘もいるし、きっと仲の良い家族になれる。




「我が家に帰ろうリリア」



名前を呼んでも娘は首を縦に振らなかった。

何故だ。

『俺』は父親だぞ?

勝手に遊びに行っていた癖に。

子供のくせに。

お前がいないと妻の財産が私のものにならないだろう。



「お母様がいないおうちにはかえりたくない」


弱弱しい声に腹が立つ。

子供のくせに。

もう死んだ奴はどこにもいないんだ。

強引に腕を掴み、ずるずると娘を引きずりながら連れて行く。

大丈夫だこのくらい。

だってこれくらいの事、『俺』が生きていた世界だってやっていた。

聞き分けのない我儘な子供への当然のやり方。


「おやめなさい! 子供になんてことをするのですか!」


ばしりと扇ではたかれる。

思わず手をはなし、尻もちをついてしまう。

上から感じる冷たい視線は痛いくらいに感じる。

それだけじゃない。

周りからも痛いくらい感じる。


「話し合いもまだなのに無理やり連れて行くなんて。

 ユリーズ伯爵、リリアのこれからについては今から彼女に決めてもらいます。

 早く応接間に来るように!」


何でそんな事が必要なんだ。

『俺』の娘だろう?

ぽかんとしていれば、周りは勝手にひそひそと話し合うばかりだった。

なんで。

どうして。

誰に聞くこともできずに応接間にいけば、更に冷たい視線にさらされる。

痛みすら感じる程だった。


妻の実家の子爵家、妹が嫁いだ伯爵家、そして我が家の伯爵家と娘の今後を話し合う。

そんな必要はないはずだろうに。

何故、こんな事に。




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