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騎士見習いの思い出と


きらきらと輝く銀の髪。

美しい紫の瞳。

少年がその感情を知る日はまだ遠い。

けれど、今、自分の心がふわりと浮かんだ様な不思議な感覚。

それだけは、今、充分に理解していた。


イオ・ダンテーラは由緒正しい騎士の家に生まれた。

歴史ある騎士の家、それに誇りを持ち、家の名前を汚さぬ様に

家族たちを見習っていたが、末の弟と言う所もあり自由な立場ではあった。

由緒正しい騎士の家、そう言われていても長い歴史の中で目立った功績は長い歴史の中では最近のもので、王家に仕える騎士のひとり、騎士団長に就任したのも長い歴史の中では最近の事。

それなりの功績はあるが、爵位ではどこか軽んじられる子爵家。

いくら積み重ねた功績で侯爵程の地位があると言っても、持っている地位は今更変わらない。

いくら騎士団の中では認められていても、それらを知らない周囲からの視線はイオは苦手だった。


王都で華やかな騎士としての仕事より、辺境と言っても国を守る最前線で戦える地方で騎士というか、一人の剣士として武功を立てて国と家に貢献する方が良い。

そう思っていた頃、彼の立場が急変する事態が起きた。

目標であった長兄が実績の為に赴いた辺境にて、そこの領主の娘と恋におちた。

共に戦場を駆け抜けている間に、二人には仲間以上の絆が出来てしまい、あっという間に二人はお互いの手を取り合った。こんなにも話が合い、剣の相手が出来る人は初めてだと。

二人の決意は固く、辺境を守り国の盾として、剣として共にありたいと周囲を説得した。

それに驚いたのはイオ。

爵位を継ぐのは長兄だと思っていた為にまさかの事態が降りかかった。

だが、もう一人兄がいる為もしもの為の勉強が増えたがそれでもまだ彼はどこか安心していた。


だが、そんな彼の安心は簡単に崩れた。

領地はないが、爵位を継ぐものとして侮られない様にと勉学をより学ぶために隣国へ渡った次兄はそこで恋におちた。弓を華麗に使いこなすおとぎ話の妖精のように麗しくも強い令嬢に見事心を射抜かれた彼は、勉学も剣の腕も磨き、彼女に相応しい男となるべく努力を重ねた。

熱心に取り組むその姿は令嬢にも好意的に映り、そして……その手を取り合う仲になった。

周囲に祝福される関係となり、隣国の王家を守る騎士として二人は仕える事となった。

それら全てイオにとっても喜ばしい事だった。

だが、敬愛する二人が幸せを掴み、それぞれの道を歩き出したと言う事は家を継ぐ権利がイオが優先的になると言う事だった。爵位を継ぐ、それだけは簡単だった。

が、三代続いて騎士団長となった事が今更イオに圧し掛かって来た。

もしも自分が、なれなかったその時は、家の恥になるのでは。

いらぬ枷が、期待が、誇りが、重く圧し掛かる。

平等に接していたが、やはり二人の兄は優秀であったと思い知らされた。

二人が出来た事、それがイオにはできない。

それが悔しくてたまらなかった。

大好きな兄たちが、余計な壁として立ちふさがった。


別に騎士団長は実力で決められるのだから、そんなに気にしなくてもいい。


そんな言葉が今は、優しさとして心に響かない。

実力がなければ、選ばれない。

実力があった曾祖父、祖父、父親、そして選ばれるはずだった兄たちに比べて、お前は。

そんな捻くれた言葉の取りようしかできなくなっていた。


そんな時、父親に連れられて行った先は貴族のお茶会だった。

まだ幼いイオにはただ大人と連れてこられただけの自分と同じ子供がいるだけのつまらない場所。そうとしか思えなかった。そうとしか感じなかった。

ちいさくてきれいなお菓子が置いてあるが、それにも興味はわかない。

大人しく、父の恥にならぬ様。

変な事をいって笑われない様。

まるで人形の様に大人しくしていなければ。

今のイオは大好きな剣の稽古ですら、『家の為に』がついていた。

そんな時、イオの瞳に一人の少女が映る。


銀色の髪。

紫色の瞳。


きらきらと輝くその少女に少し褪せていた世界に色が戻った。


はた、と目が合えば少女はにこりと微笑んで近づいてきた。


『こんにちは。わたし、〇〇〇伯爵家の……』




〇〇〇




「フン、馬鹿馬鹿しい。そんなふざけた泉などあるものか。

 少し考えればわかる事だろう。

 それを鵜呑みにしてあてもなく探すなど、愚かとしか言えないな」

「いっ、いくら第二王子殿下でも、その発言、聞き捨てなりませんわぁっ!

 ジョニーは父が子供のころから、いえ、長きに渡り我がハイド子爵家に

 仕えてくれているそれは優秀な者です!

 その彼が嘘を言うなんてありえません! わたくしの探し方が悪いのですわっ!」

「ああ、そうだな。調べもせずにそのまま、なんの準備もせずに突っ込んで迷子とは。

 とても面白い結果だ。楽しませて貰った」

「わたくしの事はどうとでも言うとよろしいですわっ」


きゃんきゃんと言いあう二人はほんの少し前に知り合ったとは思えない程だった。

はあ、とため息をついて何とかとりなして、落ち着いてもらい、やっとひと段落。


「では、剣術合宿の場になりますがご案内いたします。

 そこまでは徒歩となりますが、よろしいでしょうか」

「助けて頂けるのに、そんな」

「そうですわ。わたくしたち、そんなにか弱くありませんのよ」


少しだけ不安そうだった二人は今ではすっかり明るくなり、イオは安堵する。

身近な女子は剣術に明け暮れている自分と同じ部類の者たちが多くいた為、学園では実は少数派であると知らされ、付き合い方と言うのはまだ模索中であった。

常に穏やかな笑みを浮かべ、常に物静かで、お淑やかに、と。

くるくる表情を変えて、駆け回るなんて子供のころにしか許されない、と。

そう苦笑いして言った少女が今は自由に野をかけて、笑っている。

その笑顔は、イオが頑張る為の一番の力となる。

いつの間にか守る必要もない程に強くなった大切な人の笑顔。


「おい。わざわざ歩いて行かなくても『転移石』を使えばいいだろう」

「いけません。あれは緊急事態にと渡された物です。

 仮に使ったとして、御令嬢二人だけを先に転移させてもあちらが混乱します。

 それに四人同時なんて出来るかどうかも分かりません。

 大けがをしているならば、使う事も考えますが今はその時ではありません」

「そんな貴重なもの、わざわざ使わなくてよろしいですわ。

 歩いていたら泉の情報が得られるかもしれませんし」

「まだ夢をみているのか。そんなもの、あるわけがないだろう」


ばちばちと火花が散りそうな程にらみ合う二人は、互いにそっぽを向く。

そんな二人に苦笑いをし、イオは隣の少女を見た。

銀色の髪、紫の瞳。

あの時、どこかで見た少女と似ていた。

少し違うのは、あの時の少女よりもずっと、ずっと美しい事だった。

穏やかに微笑みを浮かべた少女は、どうにも輝いて見える。

が、そんなふわふわと浮いた心をイオは戒める様にばちん、と頬を叩く。


「どうされたのですか!?」

「い、いえっ。御令嬢二人を危険なくご案内するべく気合を入れなおしただけです」



〇〇〇



そんなに遠くない道を四人で歩き、たどり着いたその場所は二人にとっては知らぬ世界だった。

剣と剣がぶつかり合う音、気合の入った叫び声、雄たけび。

知ってはいるが、いかにそれが浅い知識であった事を思い知る。


「何があったダンテーラくん!」

「はい! 報告いたします! 薬草探しをしておりましたが、その際に

 森で迷う御令嬢二人を発見いたしましたので、保護いたしました!」

「ふむ……この近く、ハイド子爵家とヤアメ子爵家……少し離れてはいるが、ロツメ侯爵家も。

 それと、ガロイジュ男爵家にバコパ子爵家、あとは……ああすまない。

 お二人とも怪我はないかな、こんな所だが森よりは安心はできるだろう。

 家の方が来るまでだが、どうかゆっくりと過ごして構わない。

 ピリカ、悪いがもしもの時の為に部屋を準備してもらえないか。

 女性騎士の者たちも集めてくれ、私よりも令嬢方が安心するだろう。

 すまないが聞き取りをしてくれ。すぐに連絡が取れる様整えてくる」

「畏まりました」


小柄な騎士が一礼をする。

その姿は二人とそう変わらないくらいの大きさにも関わらず、恰好良く映る。

きびきびと動き、その動作ひとつひとつが格好良い。


「まあ! まあ! なんて麗しいのかしら! 素敵だわ!」

「はい。とても、とても」


きらきらと目を輝かせて女性騎士を見惚れるその姿は無邪気なものだった。

そんな横顔をどこか寂しそうにイオは見つめた。

記憶のどこかに確かに存在した少女。

名前も、姿も何かかも朧気だが、確かにいたはずの少女。

どこか似た面影のある少女にそれを重ね、あまつさえ心を動かされた。

そんな浮ついた心を見せた自分をイオはまた、ばしんと戒めた。


誤字報告、ありがとうございました。

いつもお世話になっております。

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