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改悪と改変と


ありえない。

ありえない。

ありえない。


こんなのおかしい。ありえない!

いつからこんなにおかしなことになったの。

どうして、なんで、何が、こんなにもおかしくさせているのよ。


「『アイローズ』が婚約者のはずでしょう!? なのに、なんで、なんで、別の女なんかにっ」


イオ・ダンテーラの婚約者として確固たる地位をもつ『アイローズ』のはずの私。

物語ではわかりやすい意地悪をするが全て失敗する残念なキャラ。

今ではそんな事はありえない伯爵家を持ち直させた才媛の、はず。

そう。私によって『アイローズ』はただの残念な意地悪令嬢ではないはずなのに。

それなのに、それなのに。

イオの婚約者ですらないなんて、どういう事なのか訳がわからない。

暫く様子見をしていても、一切関わってくる気のない意気地なしに会いに行ってやったのに、返って来たのは何が何だか分からないという様子には呆れ果てた。

役割を放棄するなんて、一体どういうことなのか。

呆れて言葉が出ないのはこちらだというのに、なんて体たらくなのか。

仕方がないから、わかるように丁寧に教えてやったのに。

なのに、あいつと来たら。


『失礼ですが自分には既に婚約者がいて、それは貴方ではない』


なんて、言いやがる。

おっと、なんて汚い言葉なのかしら。

宣いやがったのよ。なんてことなのかしらっ。


一体どうやっているの。

やっぱりあの女が転生者であるから、物語がおかしくなっているという事なの?

あの、リリアが婚約者で、まさか、イオを狙って……?

なんて事なの。

物語を狂わせるなんて、なんて面倒な事をしてくれてるの!?


全く、ここに来て面倒な事になったわ。

イオとは婚約があるからと後回しにしていたのに。

これじゃあ優秀な『アイローズ』は一体誰と婚約しろというの。

未だに『勇者サマ』なんて半笑いで言われるのに。

ああ腹が立つ!



〇〇〇



「……なんて事がありましたの。

 酷いと思いませんか、お父様、お母様」


しくしくとこれ見よがしに泣いて見せた。

出来るだけ可哀想な女の子に見える様に、悲しそうにくすんくすんと泣く仕草で。

ほら、こうすれば『アイローズ』に甘い二人はきっとあのリリアの皮を被った転生者を憎む。

元々お邪魔キャラでしかないのだから、憎さは倍になるはずだわ。


「きっと、プランタ伯爵家が私に嫌がらせをして婚約話を奪い取ったのですわ。

 お父様、どうにかしてくださいませ」

「………どうにかといわれても、アイローズは優秀なのだから、

 わざわざあんな古臭いだけが取り柄の貧乏子爵家なんかに嫁ぐ理由がないじゃないか。

 そもそもあいつらは歴史だけが取り柄だと言う、剣しか能のない家だろう?

 逆に婿にするにしても、剣しか能のない奴ではなあ……」

「は……? 剣、しか、できない……?」


なに言ってるの、この人。

剣しかって、ダンテーラ子爵家と言えば子爵と言ってもそれは褒美を望まないからで、

功績だけでも侯爵になっててもおかしくない家なのよ?

今のところ三代続いて騎士団長として王国に仕えている凄い家なのよ?

なに言ってるの?

古臭いって、何、なに言ってるの?

お父様、本当に貴族? 『アイローズ』より年上なのよね?


「帰ってきてすぐに何を言うかと思ったら……。

 あなたねえ、こんなにも沢山の釣書を家柄がとか、忙しいだとかで

 文句や無視しかしてこなかったでしょうにいきなり何を言い出すのかしら。

 それこそ興味がないものかとばかり思ってたのよ?

 なのにどうしてわざわざ私たちが用意しなければならないの。

 大体あなたは伯爵さまの血はないから、婿なんて取れないし本当に何を考えているの?」

 「……え……でも、だって、わたしは、『アイローズ』は、伯爵令嬢で」


なに言ってるの。

だって、『アイローズ』は、私によってすっかり素敵な伯爵令嬢になって、

ヒロインの立場を奪い取る、そんな素敵な。

イオどころか、他の攻略キャラだって。


「ええ、今のところは『伯爵令嬢』よ。

 お前は私の前の旦那である男爵の子供だったけれど、ここの養女として

 学園に通っているから伯爵令嬢を名乗れるのよ」


養女?

どういう事?

『アイローズ』は養女?

そんな、おかしいじゃないの。

リリアの立場を奪い取っているはずでしょう?

だから、『アイローズ』がこのユリーズ伯爵家の娘で、あいつはただの小間使いのはずで。


「旦那様とも相談したんだけれど、お前は既にユリーズ伯爵家を盛り立てている一人。

 初めは子供の案で商売なんて上手く行くはずがないと思っていたけれど、

 ただ席について会話を楽しむというだけでこれだけの金を作り上げたのだから、

 わざわざ伯爵家の娘と偽ることなく、堂々と生きていればいいのよ。

 何も恥ずかしい事ではないでしょう?

 お前には才能があるのだから、これからもバンバン働いてもらうわよ。

 それに、この伯爵家の事なら心配しなくても、後継者ならばすぐに会えるわ。

 これからも期待しているわよ」

「……は……?」


なに言ってるの?

『アイローズ』に働け、って何?

『アイローズ』は、私は、貴族で、何も困らずに生活できるはずでしょう?

偽る? 何言ってるの?

『アイローズ』は、伯爵令嬢でしょ?

ドレスをきて、何もしなくてもよくて。全部全部あいつに押し付けて、遊んでいるだけで良いはずの。

それに後継者?

なにしてるのよバカじゃないの?

じゃあ、『アイローズ』は?

『アイローズ』は、どうなるのよ。




こんなのおかしいわ。

だって、『アイローズ』は。



頭が痛い。

殴られていないのに、何故だかガンガンと響く。

なんで、どうして。

どうしたらいいの。

これから、『アイローズ』は、どうしたら。


全部全部あいつがいけないの。

物語から逃げ出して、役割を果たさないから。

物語がおかしくなっているのは、あいつの皮を被った転生者のせいだわ。

折角『アイローズ』が幸せになる様にしてきたのに、なんで邪魔するのよ。

お前は、泣いて泣いて泣いてそれだけしかできない無能のくせに。


どうしてツツジ様の近くにいるのよ。

どうして関係のないモブ共とつるんでいるのよ。

どうして、どうして、どうして。




どうしてこんな事になっているのよ。


どうしたら、改悪の手から守れるの?


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