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お茶会のおわり


「なによ、それ。

 わたくしの大切な親友は特別でなんでも出来る最高の令嬢なのよっ。

 早くその言葉を取り消して!」

「……え……も、モモナ?」


想いかげない言葉にキツバは頭を上げた。

そこにはいつも通りに可愛らしく頬を膨らませて怒るモモナ。


「キツバ。いくらあなたの言葉でもその言葉だけは許せないわ。

 わたくしの親友キツバはね、なんでも出来ちゃうとっても凄い子なの。

 いつまでもわたくしの先を行く、目標で憧れなのよ。

 そんな貴方を貴方が卑下するなんて、わたくしが許さないわ。

 ……いつの日かあなたがわたくしに言ってくれた言葉の受け売りよ。

 覚えているかしら」

「…も、モモナ…怒らないの? 私、あなた達の想いを、あんなに心配してくれたのに」


戸惑いを隠さないキツバをモモナは抱きしめる。


「ええ、あいつの事は気に入らない。

 今だって大嫌いだし、キツバに酷い事言ったのは許せないわ。

 でも、それとキツバの想いは別よ。

 それがあなたの本当の気持ちなんでしょう?

 わたくしが信じるのはキツバ、貴方なの。

 でも今度酷い事言われたり、されたらすぐに言って欲しい。

 そして今度こそわたくしが貴方を守るわ」

「も、モモナっ。ありがとう。

 私、あなたの善意を無駄にしたのに、心配して、くれたのに」

「いいの、いいのよ。わたくしが悩んだり、傷ついた時、支えてくれたのは貴方よ。

 次は当然わたくしの番でしょう?」


ぱちりと可愛らしく片目を閉じる。

その仕草はお茶目で、今の雰囲気には似つかわしくはない。

けれどキツバには温かな彼女の優しさに感じた。


「もちろん私もヤアメ子爵令嬢の味方だ。

 あの学び舎のクラス皆、君を心配しているよ。

 だから、大丈夫だ。

 もし何かあっても、君を悪しき様に言う事はないよ」

「……皆さま、本当に、ありがとう。

 私の個人的な事なんて、本当なら関係ないというのに」


キツバが深く頭を下げる。

もうそこに悲しみで俯いている少女はいない。

涙で曇った瞳に、輝きが戻る。

それは自分の信じた人をもう一度信じる。

そう決めた決意の瞳。

今より傷つくかもしれないが、キツバはそう決めた。


「私、もう一度話の機会がないか聞いてみるわ。

 いいえ、それが出来るまで何度でもお手紙を送るわ。

 それでも無視をされたら、その時は、その時に決めます」

「さあ、キツバの元気も出たし今度こそケーキとお茶を楽しんでくださいな」


やっとお茶会らしく和気あいあいとした雰囲気が広がる。

様々な話題が飛び交い、何でもない話で笑いあう。

そんな穏やかな時間はあっという間に過ぎ去る。




〇〇〇




「今日はありがとう、リリアねえさま」



夜のこと。

ハイド子爵家により用意された部屋で髪を梳かしていた時にリリアはモモナにそう言われた。

可愛らしい寝巻姿のモモナは寝具に寝転がりながら、ぼんやりと灯る明かりを見ながら言う。


「わたくし、余計な事を言ってしまってキツバを傷つけてしまったの。

 わたくしが余計な事を言わなかったら、きっとあんなに泣いたりしていないわ。

 でも、でも、許せなかったの。

 キツバに対して酷い扱いをするあの男爵令息が、許せなかった。

 だから、せめて、元気づけることができればと思ったのだけど、

 どうして傷ついているかもわたくしには分からなかった。

 親友失格だわ。

 リリアねえさまがああやって話しかけてくれなかったら、

 わたくしは本当にキツバの悲しみに気づけなかったわ。

 それで、ねえさまにもごめんなさいと言えてなかったわ。

 だから今、言わせてほしいの。ごめんなさい」


寝転がっていた姿勢を正し、起き上がるとモモナは頭を下げた。

リリアは慌てて同じように姿勢を正し、同じく頭を下げる。


「そんな、そんなのいいんです。

 それに、モモナさまはすごいです。

 素敵なお友達がいて、婚約者がいて、誰かの為に一生懸命になれて。

 とても素敵で格好良いですよ。

 わたしには、そんな風に誰かの為に頑張ったりなんて、まだ出来ないですし」

「まあ、うふふ。

 ええ、キツバもクロも、みんなみんな私の宝物ですから当然ですけれど!

 リリアねえさまはもう出来ていますわ。

 ただ無自覚なだけで、それにいつか気づいて誰かにそう振る舞えたら、

 その方はきっと幸せ者ですわ」


可愛らしく笑うモモナにリリアも釣られる。


「そ、そうでしょうか。

 いつか、誰かのために何かできたら、わたしも嬉しいです」

「ええ、ええ。いつかきっと、必ず出会えますわ。

 わたくしが出会えたように、リリアねえさまにだってきっと。

 もしかしたらもう近くにいて、幸せにしているかもしれませんわ。

 それで、その方もねえさまの幸せを願って頑張っているかもしれませんわね」


穏やかな会話と空間。

ゆっくりと流れる時間とふかふかの寝具。

リリアとモモナは、たっぷりと会話を楽しんだ後に眠りにつく。

明日もまた、楽しいものを見つける為に。





ふわりとした感触にリリアは目覚めた。

確かに眠りについたはずなのに。

優しく手を添えられ、頭を撫でられると心が安らぐ。


『リリア、リリア』


懐かしい声が聞こえた。

もう会いたいと願っても会えない、大好きな人。


『この領地の東の外れの森の中に清き泉があるの。

 その泉には、不思議な力が宿っていて病や怪我にとても効くのよ』


声の主の名を呼ぶ前に、声は響いた。

怪我、その言葉にリリアはカイの足の怪我を思い浮かべる。

光魔法でも痛みを和らげることしかできず、

お医者様でも、すぐには治せない捻挫。

軽いといっていたものの、歩くたびに苦しそうでリリアは胸が痛かった。

どこか寂しそうに窓を見つめては俯いていたた大好きな兄。

その泉の水がもし、足の怪我に効くのならあんなくらい顔なんて吹き飛んでいくのでは。

自分のせいだと泣いていた同じく大好きな姉の様なミリアの心も晴れるのでは。

これももしかして、母のお告げなのでは。

リリアにはそうとしか感じなかった。

 

「お母様、まって。森の中って、一体……」


そう聞こうとした瞬間、眩しい光が一気に弾けた。

余りの眩しさに目を閉じ、そして、ゆっくりと開いた時には。





「おはようございます、ねえさま。良く寝れましたか?」



モモナの声。

ほんの少しはねた桃色の髪が目に飛び込んできた。

周りを見渡しても、そこは夜に楽しくお喋りしながら眠りに落ちた部屋。


「ゆめ、だったの……」


ほんの少しリリアは残念だった。

よく考えればそんな都合の良い泉、あればきっと皆に知れ渡っている。

夢。

あれは、夢。

なんて寂しい夢なんだろう。

母に会えたと喜んで、これで兄の役に立てると、

あんな悲しい顔をしていた人を励ませると嬉しかったのに。


「夢、ですの?」

「はい…折角、素敵な夢だと思ったのに

 夢は、夢でした……」

「ねえさま……どんな夢を見られたのですか……?」


夢は夢。

あんなに都合の良いもの、ありえない。

だけど。



リリアは信じたかった。

母の告げた言葉が、母の声で言われた言葉が、嘘だと、夢だと。

嘘ではないと、夢ではないと信じたかった。


「東の外れの、森の中の、泉……」


リリアはぽつりとつぶやいた。


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