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レクリエーションは『バグ』だらけ ③


「だれかあ! だれかいないのお!?」


そう大きな声で叫んでも、聞こえるのは風の吹く音と鳥の鳴き声。

そして遠くで呑気にこのイベントを楽しむ人の声。

このイベントは『ステラ』の為のものなのに、『ステラ』よりも楽しむなんて。

どういう事なの。

これは間違いなく『ステラ』の、この物語のヒロインの『ステラ』の為に作られたイベントであるはずなのに。今の状況は最悪だ。へそ曲がりで意地悪な精霊が余計な事をするから『ステラ』が本来楽しむはずのイベントは滅茶苦茶になってしまった。

いつも傍にいる精霊たちの声は聞こえなくなり、その力も感じなくなった。

『お友達』になるはずの小さな精霊たちはあれから姿も声も見せなくなった。

更に最悪な事に滑って転んだ拍子に、足を痛めて動けなくなった。

滑り落ちた先は泥だらけの場所で、制服も、何もかも台無し!


セーラがいれば、あんな意地悪をされなければ、すぐに立ち上がれるのに。

それもできない。

助けを呼ぶにも、転がり落ちた拍子に救助要請の笛はどこかになくなってしまった。

こんな、こんな酷い目に遭うなんて、ありえない。

足を痛めるのはイオルートで、それを癒すのが『ステラ』なのに。

これでは、逆の立場どころか、助けを求めるにも一苦労。

これでは、他のキャラに会いに行くどころか。


「このまま、見つけてもらえなくて、おばあちゃんになるまで、ここで……」


薄暗い森の中、誰にも見つけられずに老婆になるまで、ここで。

嫌! 嫌よ!

そんなの絶対にお断りなんだから。

『ステラ』は皆に愛されて、その愛を独り占めするの。

それだけのことが出来る世界で一番のヒロインなのに。

誰もが認める特別な存在であるはずなのに。

だというのに、あんなへそ曲がり精霊たちのせいで全て台無し。

もうこれは『バグ』以外の何者でもない。


「きっと誰かが物語をおかしくしているのよ。

 誰かか、そのキャラの役割をちゃんとしないからいけないのよ。

 だから、物語がおかしくなっているのよ。

 そうでなきゃ、こんな事、おかしいもの」


そうでなきゃここまで攻略キャラに会えないなんて事あるわけないもの。

あの精霊たちの態度だっておかしいわ。

『ステラ』は特別な存在なの。

精霊たちに愛され、その加護を一身に受けた特別な存在。

そんな『ステラ』にあんな態度、おかしいわ。

物語を狂わせるなんて、愛のない人なんだわ。

その物語に必要な役割を放棄して、幸せになろうなんて酷い性格の人がいるものね。

……ぜったい、ぜったいに見つけ出して問いただして、分からせてやらないと。

そう、そうしないと。

……でも、その為には。



「だれかあ! 誰かたすけてえええぇぇ」


ここから、誰かに助けて貰わないと。

可憐なヒロインが助けを求めているのよ?

ここで出てくるのが攻略キャラの務めでしょう?



がさり、久々の物音に胸が弾む。

ふふん、やっぱり『ステラ』はヒロインね。

望めばその展開がすぐにやってくるのだから。

ここで弱々しい姿を見せれば、イベント補正で爆上がり間違いなしね!


「お前、噂の新入生か?

 こんな所で何をしているんだ」


………誰、こいつ。

ふわふわというかボサボサした金髪があちこちはねて、

そんなにはっきりとしない水色の瞳は輝きがなくて、

こっちをじろじろ見てくる、こんな奴、しらないわ。

モブね、モブ。

大きな声を出して損したわ。

………仕方ないわね。こんな状況じゃ贅沢言ってられないわ。

助けるという大役だけあげて、働いてもらおう。

そうして、助けられた後でまた考えればいいわ。


「た、助けて。足を痛めて動けないの。

 このままじゃわたし、ここでおばあちゃんになるまで、

 誰にも見つけて貰えないと思ってた。

 良かった、来てくれて」


特別サービスよ。

これくらい言ったんだから、早く助けてよ。


「………何を言っているんだ?

 誰かに助けを求めなくても、笛を吹けば助けは呼べるだろう?」

「そ、それは転んだ時に、どこかに…」

「それに、そもそもグループで行動するというのが基本だろう?

 俺でさえ、一応従った決まりを何で破っている?

 勝手に単独で行動して、怪我して、笛を無くす?

 馬鹿なのか?」


ば、馬鹿?

なんて失礼なのかしら。

怪我した女の子に言う台詞じゃないわっ。

そんなのより早く助けてよ。


「セマム殿下、その人って噂の精霊に愛された人でしょう?

 だったら、助けを求めなくても怪我なんてチョチョイのチョイで

 治せるはずですよお。……あれ? じゃあなんでこんな所で??」

「そういえば……もしかしてセマム殿下と一緒に行きたくてそんな演技を?」

「さっすがセマム殿下ァ。噂の新入生には真の魅力が分かるんですねえ」


セマム、殿下?

誰よ、それ。王子って呼ばれるのはアスター王子だけでしょ?

それ以外にいるのは、たしか、一応用意されているバッドエンドの、第二王子?

分かりやすい媚ね……人望まるでなしのバッドエンド用のモブに誰がそんな事するのよ。

いいから助けてよ!


「……なら、そのままここに置いておいても大丈夫だろう。

 行くぞ。ザッソ男爵令息、カワバ子爵令息」

「えっセマム殿下!」

「ちょ、ちょ! どこいくのよっ」


思わず声が出た。

ありえない。ありえないわっ。

こんな可愛い『ステラ』を見捨てていくなんて。

所詮はモブのくせになんて事をするのよ、身の程知らずすぎるわ。


「……精霊に愛された、特別な存在。

 それがお前だろう、ステラ・ガロイジュ男爵令嬢。

 そんな恵まれた奴が何を困る振りをすることがある。

 愛してもらっている精霊の力を使えばいいだろう。

 ……まさか、出来ないなんて言わないよな?

 その程度の力もないなんて所詮はお伽話に過ぎないのだな。

 そうで無いなら、さっさと治して立ち上がればいいだけだ」


立ち上がれない『ステラ』を見下ろして、そう言ったモブ王子はスタスタと歩いて行った。

酷く冷たく見下した声。

慌ててモブ王子を追いかけた男子生徒二人も遠ざかり、それを見送る事しかできない。


「そ、そ、そんな……!

 困っている女の子をそんな理由で放置するなんて」


だからアイツはモブ王子なのだっ。

これがアスター王子ならばきっと手を差し出して、救い出してくれるのに。

なんで、こんな目に遭わなければならないの。

こんな、こんなはずじゃ……。






しばらく経って現れたのは、あのエリザとかいう女生徒とその取り巻きたち。

女の子たちに助けられてもなんにも得なんてないイベントなのよっ。

てきぱきと手当をされて、笛を貸してもらい『ステラ』はリタイアとなった。

迷子でリタイアになった子よりは……マシだけど……。

こんなはずじゃなかったのに。

どうして、こんな事になったのかしら。

ようやく解放された皆が慰めの言葉をくれるけれど、誰のせいでこんな目にあったと思っているのかしら。たかが二人の力に負けているのに、何を呑気に…!

みてなさいよ。

勝手が出来るのは、今のうちだけなんだからっ。

とにかく、こんな事今だけなの。

こんな情けない事、もう絶対にありえないんだからっ。

ヒロインの世界を必ず取り戻さないと!

残念街道まっしぐらすぎて会話内に留めようとしたヒロインでした。

本編はもうしばらくお待ちください。

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