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とある昼下がり。

それは素晴らしく晴れた日だった。

ぽかぽか暖かい陽の光、緩やかな風、穏やかな良い日和だ。

学園での色々な事もひと段落したお休みの日、久しぶりにリリアとお茶会を嗜んでいた。

最近は素敵なお姉様たちとのお茶会も多いが、久しぶりに『私』とリリアだけのお茶会だ。

久しぶりすぎて贅沢だと思うくらいだ。

素敵なお姉様たちとのお茶会を眺めるのも最高だったけれど、やっぱりこの立場は特別だ。


「おかあさま! 今日はテストがあったのです。

 私、とてもドキドキして結果が分かる日が待ち遠しいです」

「ええ、ええ。リクやカイと、それから素敵なお姉様たちと頑張りましたものね」

「はい! サーシャ様からも褒められました」



相も変わらず平穏な日々は続いた。

『私』の心配をよそにリリアは学園生活を満喫していた。

何事もない事はなんて素晴らしいのだろう、そんな言葉はすぐに取り消されるなんて思ってもみなかった。


「おかあさま。『テンセーシャー』ってどんな方なんでしょうか」

「ぶふっ」


なんだって。

いま、なんて。



可愛いリリアのお口からとんでもない言葉が聞こえた気がする。

『私』は淑女であるパンジーに力を貸してもらいながら、必死に平静を装う。


「て、てんせ………。てんせい、しゃ?」


ダメだった。

ごめんパンジー。

私の狼狽え方があなたの淑女の知識すら上回ってた。

全然何もできなかった。


「そうです。『テンセーシャー』です」

「ど、ど、ど、どうしてそんないきなり。ごほんごほんっ」


狼狽えまくって言葉にも出来てない。

どうして。いきなり。まさか。ついに。


「今日、初めて会う方に『あなた、テンセーシャーでしょ』と言われたのです。

 ……わたし、『テンセーシャー』なんて方ではありませんのに。

 そんなにそっくりだったのでしょうか」

「……え、そ、それって」

「おかあさま、心当たりがあるんですか! どんな方なんです?」


きらきらと瞳を向けるリリア。なんて可愛いのかしら。

……いや、その前に。

その前に、聞かなくてはいけない事がある。

それを聞いたのは、間違いなくあのキャラだろうけど、とりあえず確認をしなくては。

え、でも、なんでいきなりテンセイ……え、まさか、転生って……ちょっとまって嘘でしょ。


「私以外にもいるというの!? 『転生者』がっ!?」

「え?」

「……え、あ……!」


思わず声に出てしまった。

淑女にあるまじき行為だ。申し訳ないパンジー。

唯一の救いはここがプランタ伯爵家の邸だった事だ。

しかし、リリアの前で大きな声を出すなんて、良くない事だな…謝らないと…。


「リリア、ごめんなさい。驚いたわよね、大丈夫。

 おかあさま、もう大丈夫取り乱したりしないから……リリア?」

「……テンセーイシャー? 『テンセーシャー』だったのはおかあさまなんですか?」

「あ、そのね、リリア、これはその……」


不味い。

ここでそうなんですって言うべきか。

そもそも意味が通っているかすら分からない。

その前に実は違う世界から死んでこっちにきた人間であなたの叔母の意識を乗っ取って数十年一緒にいました。推しの成長見られて余は満足じゃ。これからも舐めまわす様に観察するからシクヨロとか気味が悪すぎる。

不審者どころか精神を疑われるレベルだ。終わった。


「なら、わたしが似ているのは当たり前ですね!

だって、わたしのおかあさまなんですもの」

「え……」

「わたし、おかあさまと似てる……ふふ! とても嬉しい!

おかあさまの事、知っている方なんでしょうか、あの御令嬢」


どうしよう天使が微笑んでる。

そして天使がまたとんでもない事を言った気がする。


「アイローズさんと言ってましたけれど、おかあさまを褒めてくれたんですね」



ほらやっぱり出てきたよアイローズ!

出てくると思ってたよ。

分かってはいても、直接会ったのだと思うとこう、なんというかくるものがある。


「そ、それ以外に何か言われた? 平気だった?」

「それ以外、ですか?  いいえ、私は何も言われていません。

 エリザ様たちが 『図書館に行く予定だから』と手を引いてくださったので、特には」

「そう……」


素敵なお姉様ズ、なんて素晴らしいのかしら。

すぐに離してくれたのかしら。いい子たちだわ……。


「なら、いいの」


どうしよう。やっぱり話しておくべきだろうか。

しかし、『私』が勝手に決めるのは良くないだろう。

それに、知ったところで実の父親の裏切りを知るだけだ。

これ以上悲しみを知るなんて、きっと辛い。

いつか必ず直面するけれど、リリアはあの伯爵家とはもう関係ないのだけれど……。

これは相談してからにしよう。

いずれ知る事とはいえ、リリアだって知るならば信頼できる人からの方が悲しみは少しはマシかもしれないし。


「そういえば、魔力測定の日程が決まったのでしょう。楽しみね」

「はい。わたしにも、あると嬉しいです」


このゲーム、魔法と言う存在はあるものの扱いはとても低い。

ヒロインを際立たせる為とはいえ、魔法の才能を秘める者は稀であり、貴族でもレアケースという設定らしい。誰もが一応は持っているものの、とても僅かなもので長い年月をかけて目覚めるが、それがいつになるかは不明という感じで結構貴重な存在らしい。

これはゲームの設定で、生きている世界的には少し違った。

大まかな所は変わらない。


魔法は貴重で、誰もが目覚めるとは限らない。

けれど、確実に平民を含め誰もが持つ平等な力。

それに気づけるかどうかは自分次第。

魔力は気まぐれで、突然何かをきっかけに目覚める。

目覚めても、魔法の扱いはヒロインの存在を際立たせる為低い。

属性魔法に目覚めた所で、水魔法ならじょうろの代わり、炎魔法ならマッチの代わり程度だ。

それらをどうにか磨き、それ以上にするのは血のにじむ様な努力と頭が痛くなる程の勉強。

そして、それらをしたとしても、魔物なんてものは遠い昔の幻で今はどこにもいない。

一体何に活用せよというのだろうか。

そこまでしてようやくなのに、何もせずに飛び越えていくヒロインの存在に殺意湧いたりしないか?



才能は平等だかそれを生かすのも、育てるのにも本人の意志と努力と、環境がいる。

その環境は、この世界では『身分』というどうしようもない壁が阻む。

いくら優秀な魔法の才能を持つ者がいても、平民ではそれらを磨く事はできない。

扱い方を知らない者は化け物として排除されるだけ。

そんな事が無い様に、長い歴史は少しずつ変わり、貴族だけだった学園は平民にも門戸を広げているが、中々難しいようで、上手くは行っていないらしいがそれは時間がなんとかするだろう。

どうしたって身分という問題は面倒だろうが、しっかりと向き合えばきっと未来では当たり前となっていると思いたい。

……まあ、『私』は今、それよりも重要な事と向き合わねばならない。

リリアの魔法の才能とか、それはいい。

リリアに魔法の才があろうとなかろうと、愛するのは当然なのだから。


それよりも、アイローズが転生者かもしれないと言う事だ。

まだ可能性……黒よりの黒だが……。

何かおかしなことに巻き込まれないといいが、今はリリアとのこの平和な時間を楽しむ事にしよう。



「ああっ! 母上っ! 抜け駆けなんてズルイですよっ」

「母上! 酷いじゃないですかっ」

「はいはい。黙ってて悪かったわ。リクもカイも一緒にしましょうね」


バレた。

家族でのお茶会はより賑やかな形で再開した。

抜け駆けなんて言葉、どこで覚えてきたのかは後で聞こう。

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