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リリア・ユリーズはとある物語の脇役だった。

ヒロインよりも劣悪な家庭環境に身を置きながらも、それを救済される事もないし、ある程度の幸せさえも見込めない末路しかないそんな可哀想な脇役だった。

だが、彼女は誰よりも優しくて清らかな心を持つ、ヒロインよりヒロインらしいと言われるキャラだった。人気投票でもそれなりの票が入るが、脇役の彼女の末路は変わる事はなかった。

ファンが自分への救済として細々と二次創作を上げるだけで、彼女はずっと幸せにならなかった。ほんの少し、本当にほんの少しだけ運命が変わっていれば、リリアはきっと幸せになれていたはず。

そう願うばかりだったが、『私』はようやく彼女を幸せにできる事になった。


「ああ。本当に、本当だ……」


手入れの行き届いた庭園のテラスで美しい所作でお茶を嗜む輝く様な少女を私は見つめる。

銀の糸の様に煌めく髪に、淡い水色のシンプルだがリリアの美しさを完璧に見せるドレス。そして、紫の宝石の様に輝く瞳。

なんて、なんて美しいのかしら。

はた、と目が合えば、彼女は一気に顔をほころばせて、こちらに視線を向ける。


「叔母様!」


明るい声でそう呼ばれて、体中が沸き立つ。


「叔母様、嬉しいです! また会いに来てくれたのですね!」

「ええ、ええ! もちろんですよリリア!

このおばさまがリリアに会いにきましたのですわ!」

「うふふ! 叔母様ったらおかしいの。

 ふふ、私を笑わせる為にそんな言葉をつかって」


にこにこと笑う天使の様に愛らしい私の姪となったリリアに思わず言動がおかしくなる。ある日突然なんだか分からない内に敵意を買っていたらしい私は階段から突き落とされ、そのまま死んだらしいがその転生先がこんな幸せな光景なんて、たとえパソコンやタブレット端末に残してきた数々の『リリアたんをしあわせにし隊』の活動の数々を見られても、もう構わない。

だって向こうの私は死んでるし、家族の嘆きも聞こえないもの。

親不孝者になったとしても、推し不孝者にはなりたくないのです父さん母さん。


リリアの叔母となった私はまだ物語の始まる十年も前にリリアに会う事ができた。物語ではここから五年後リリアの母の葬儀に初めて現れる叔母で役目は『リリアが可哀想だわ!』とただ一言いうだけでそれ以降は特に出てこないが、出てこないなら最大限利用しようじゃないか。

その台詞を、立場を。

物語が変わらない程度に、彼女を幸せにしようじゃないか。

脇役の彼女をほんの少し幸せにする程度、物語が破綻する訳ないしきっと平気だろう。

大きな瞳できらきらとした笑顔を向ける天使を私は抱きしめる。


「叔母様?」


きょとんとした声が聞こえる。

ああ、そんな声も、そんな感情も、愛おしい。


大丈夫。

貴方を必ず、幸せにしてみせる。



お読み頂きありがとうございます。

ちまちまと完結を目指します

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