きっかけ
ある放課後の夕方。
校舎裏の桜の木の下で。
『あ、有島さん!キミが好きなんだ!ぼ、僕と付き合ってください!!』
流れるような黒髪。
すらっと伸びる腕と足。
学年1の人気を誇る有島カリンに僕は告白した。
有島さんは困ったような表情でクスリと笑う。
『ごめんね、鹿島くん。まだあなたのことはよくわからないから。その普通にクラスメイトとしてならお付き合いはじめてもいいけど・・・・。』
『そ、そうだよね。ごめんよ、困らせてしまったよね。』
僕は締まりのない弛んだ腹をさらに緩ませるようにしながら、肩を落とす。
『じゃあいいかしら。私、帰らないといけないから。』
『あ、うん。ごめんね。』
有島さんは腰まで伸びる黒髪を手の甲で、肩の後ろに払い、その場を立ち去った。
僕にしては頑張ったはずだ。
今まで好きな人がいても、この体型を気にして告白なんてしなかった。
『鹿島、思いは伝えないと。』
親友の真島に言われた言葉だ。真島はいつも僕の背中を押してくれる。唯一無二の親友だ。
真島にチャットする。
『お前のおかげで一歩踏み出せたぜ。』
いつも通り、既読がつくがすぐに返事はない。
ああなんて晴れ晴れした気持ちなんだろうか。
僕は今、最高の気分だ。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
翌朝、教室に入る。
廊下の外から聞こえていたガヤついたクラスは、僕が入ると一斉に静かになる。
クラスの隅っこには、有島さんがいた。複数の女子に囲まれていた。様子がおかしいのは、有島さんが両手で顔を覆い、泣いていることだった。
真島が近づく。
腹に一発。拳が入る。
『がはっ!』
『おい、鹿島。てめえ、有島さんに何しやがった。』
腹パンで床に両ひざから崩れ落ちる。
『は、はい?』
『何てめえ、女の子泣かせてんだよ、糞やろうがあっ!!』
僕の腹に蹴りを何度もいれてくる、真島。
(な、何があった・・・・?)
教室の扉が開かれる。
『よお、ケイちゃん、聞いてくれよ。鹿島の奴がさ、有島にさ・・・・。』
『ま、真島くん、やめてっ!!』
有島が泣きながら、叫ぶ。
『わ、悪りぃ。』
『ぐすっ、ごめんね、真島君は私をその守ってくれるつもりなんだけど、、まだ、ごめん。』
『な、何があったの?』
ケイちゃんは僕に近づく。
『うわああああああん!!!』
有島の泣き声が大きくなる。
僕を抱き抱えようとするケイちゃんの手を払う。
唇で伝えた。
(今は、有島さんの味方をした方がいい。)
ケイちゃんは一瞬、目を丸くしたが、少し頷き有島さんの元に駆け寄る。
『有島さん、ちょっと教室出ようか。』
ケイちゃんが有島さんを連れていく。
その日は僕も自宅に帰されることになった。