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8食目 ロードダッシャー肉

 早朝の市場は賑やかである。とはいえ、もう午前十時前。


 完全に朝飯を食いそびれたじゃないですかやだ~。


「ま、仕方がないっちゃ、仕方がない」


 気を取り直して昼飯とする。

 朝食べなかった分、豪勢にしないと気が済まない。


 当然だなぁ?


 というわけで、駐機場にアインリールを停めて、お肉屋さんにレッツラご~。


「いらっしゃい。随分とちっこいお客さんだな」

「おいぃ、ちっこい言うな。今にビックになってやるから見とけよ」


 小さな町の市場という割には充実したラインナップのお肉たち。

 鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉となんでもござれだ。


 というか、なんだ、この【ロードダッシャー肉】ってのは?


「おっちゃん、このお肉は?」

「ん? あぁ、それはロードダッシャーっていうダチョウの肉だよ」

「ダチョウかぁ」

「肉は締まってるから、顎の弱い奴は敬遠するな。でも、安いから駆け出しの戦機乗りがよく買ってゆくぜ」

「そうなんだ」


 ちょいと興味をそそられた。お昼はこれでステーキと洒落込もう。


 俺はロードダッシャー肉を三百グラム購入。

 これくらいは俺に掛かれば、ぺろんちょ、だぜ。


「そうなると調味料と付け合わせだな」


 塩、コショウを探している内に八百屋を発見。

 付け合わせのジャガイモとブロッコリーを購入する。

 俺が知る食材も沢山あるので、ありがたいことだ。


 少々、気になったことがあったので、八百屋のおばちゃんにカレー味のトマトはあるかと聞いてみる。


「カレー味のトマトだって?」

「そう、置いてる?」

「そりゃあ、置いてないよ。Aランク食材の【トマカレー】は滅多に見つからないし、見つかったとしても貴族たちに売られちまうからねぇ」

「お、おう、そうなんだ」


 それを、むしゃむしゃ、してしまった俺は泣いていい。

 序盤の金策アイテムだったなんて、誰が分かるんだ? 食うだろ、普通。


 ちょっとばかりブルーになった俺は、調味料を専門に扱う店に到着。


 いろいろな調味料に目が眩み、ついつい買い込んでしまう。

 完全に予算オーバーであり、残金はなんと一万ゴドル。


 俺、だいぴんちっ! である。


「まぁ、稼げばええやん」


 と楽天的思考で、このマイナス思考を回避する。


 そして、マーカス戦機工場の隅っこホームに帰宅。

 バケツに水を汲んできて、さっそく調理開始。


「ふっきゅん、ふっきゅん」


 鼻歌を歌いつつも、肉の処理をしてゆく。

 包丁の先で筋を切りつつ、香辛料をすりすり。


「あいあいあ~ん」


 アイン君も俺の鼻歌に釣られて歌い出し、テンションはうなぎ登りとなってゆく。


 まな板を取り出し、ジャガイモをザクザクと切ってゆく。

 大きさなんて気にしない。形も気にしない。


 なんといっても食べるのは自分、気にしない気にしない。それそれ。


 この作業をおこないつつコンロでお湯を沸かし、ブロッコリーを茹でるのは大人の醍醐味。

 料理は要領なのだよ。無駄な時間は無いのだぁ。


 小さな鍋はフライパンの代わりにもなる仕組みだ。


 こいつで、下味をつけたロードダッシャー肉を焼く。


 肉屋のおっちゃんが言うには、寄生虫の心配はないらしい。

 ならば、焼き加減はレアが妥当であろう。


「そぉれ」

「あい~ん」


 鍋兼フライパンにお肉が投下された。

 油はお肉屋さんでもらった豚の脂身を使用している。


 オリーブオイルもあるにはあったが、お値段が高めなので今回は使用しない。


 小さな鍋の蓋をして、じっくりと焼き上げる。

 俺の大きな耳は焼き音の微妙な変化を聞き逃さない。


 蓋を開けて、今度は反対側を焼く。

 また蓋をしてじっくりと焼く。


 良い匂いが漂ってきた。完成の時は近い事を悟る。


 だが、慌ててはいけない。焼き上がったとしても、直ぐに食べるのはタブー。

 お肉は休ませる必要があるのだ。


「そんなわけで、ロードダッシャー肉のステーキ完成なんだぜ」

「あいあ~ん」


 中古販売店で買ったクッソ安い皿にステーキを載せ、付け合わせを盛りつければ、俺の豪華な昼食は完成となる。


 テーブルなどは勿論ないので、そこら辺に転がっていた木箱をテーブル代わりとする。


 椅子など不要らっ! ワイルドな戦機乗りは立ったまま食すぜっ!


 というか、木箱は意外に大きいので、立った状態の高さが丁度いいという。


「いただきま~す」


 食材へ惜しみの無い感謝を捧げてナイフを入れる。


 筋をしっかり切っておいたお陰で、すんなりとナイフが入った。

 それをフォークでもって口に運ぶ。


「もきゅもきゅ……」


 なるほど、凄まじいばかりの弾力だ。

 下手をすればゴムを噛んでいるのと変わらない。


 しかし、きちんと処理をしていれば歯で噛み千切れるようだ。

 また、噛めば噛むほどに肉汁が溢れ出てくるのも高評価である。


「味は淡白だなぁ。塩コショウよりもソースの方が合うかも」


 だが、この肉の魅力は何と言ってもその安さだ。

 三百グラムも購入して、たったの三百ゴドル。やっす!


 それでいて、十分に美味しいのだから文句を言うべきではない。

 それに、付け合わせを食べつつ肉を食べれば、新しい味に変化する。

 十分過ぎる程に、立派なごちそうだ。


 合わせるのであれば、米よりもパンが合うだろうか。

 いや、これらを食べるくらいなら肉の量を増やすべきか。


「ごちそうさまでした! げふぅ」


 うん、満たされた。やはり、調理した物には満腹感が得られるもよう。


 食事も終わったので後片付けに入る。

 ここまで終わらせて調理は完了なのだよ。


「こうなると、携帯用のテーブルと椅子も欲しいな」


 それらは実際に中古販売店に売っていた。

 戦機乗りの必須アイテムだそうな。


 こうして調理して食事をすると、その意味も分かる。


 戦機乗りは冒険者的な生活なのだろう。

 単独で僻地に赴き、任務をこなしてくる。


 その際に、こういった携帯アイテムたちは大活躍をするに違いなかった。


 だが、今の俺は金が無い。早急に稼ぐ必要が生じている。

 エリンちゃんに文字を教えてもらったら、戦機協会に行ってみよう。


「あ、エルティナちゃん。ご飯食べたの?」

「おっす、エリンちゃん。今、ロードダッシャー肉のステーキを、むしゃ、ったところだぁ」

「え? あんな、硬い肉を!? よく食べれたねぇ」

「丁寧な下準備が全てを決めるんだぜ」

「そうなんだぁ。今度ごちそうしてよ、授業料としてさ」

「いいぞ」

「やった」


 というわけで、文字のお勉強へと洒落込む。

 お勉強場所はエリンちゃんのお部屋。


 女の子らしい部屋かと思いきや、壁の至る場所に銃器が掛けられており、サツバツっ、いぇあっ! なすんばらしいお部屋でありました。


「ちょっと銃弾が転がってるけど気にしないでね」

「あっはい、おまかいなく」


 ちょっとばかし返事がおかしくなりましたが俺は元気です。


 というわけで、エリンちゃんの机に座らされてお勉強開始。

 ボーイッシュな女学生家庭教師に指導される珍獣の図をご堪能ください。


「覚えるの早いね、エルティナちゃん」

「こう見えても俺は……ふきゅん?」


 なんだっけ? 思い出せん。


 よく、この決め台詞を言っていたはずなのに。


「どうかしたの?」

「いや、なんでもないんだぜ。これは、なんて読むんだぁ?」

「えっと、これはね……」


 お勉強は一時間程度おこなわれた。

 あまり詰め込み過ぎても覚えられないし、エリンちゃんの貴重な時間を奪うわけにもいかないからだ。


 それでも簡単な文字は、ほぼマスター。

 コツさえ分かれば、意外と難しいものでもなかった。


 俺って、意外と頭がよかった?


「凄いねぇ。たった一時間で文字を読めるようになるなんて」

「書く方は不安が残るんだぜ」

「そっちは何度も書いていれば覚えると思うよ」


 俺はエリンちゃんにお礼を言って部屋を後にした。

 慌ただしいことだが、俺は借金返済のために労働しなくてはならないのだよ。


「戦機協会にユクゾっ!」

「あい~ん」


 こうして、ある程度、読み書きができるようになった俺は、仕事を求めて戦機協会に向かうのであった。

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