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7食目 邂逅

 朝が来た。俺の朝は無駄に早い。


「ふっきゅもーにんぐっ!」

「あいあ~ん!」


 と謎の雄叫びを上げて起床。

 ゴリゴリに硬い大地に抱擁されていたため、身体のあちこちが痛いが気にしない方向で処理する。


 さて、今日から本格的に行動しなくてはならない。


 残金は八万八千二百ゴドル。

 これで、まずは必要最低限の生活道具を揃えて差し上げろっ!


 そんなわけで、まずは工場の清掃から開始する。

 そういう約束なので仕方がない。


「ふっきゅん、ふっきゅん」


 箒を手にして床を掃く。

 しかし、幼女の身ではあまりにも効率が悪い。


 そこで、ティン、ときた。

 戦機を使って掃除すればいいジャマイカ。


「アインリール、きどぅっ!」

「あっい~ん!」


 ギュイン、ココココ……ブシュゥゥゥゥゥッ!


 今日も我が愛機は絶好調のもよう。

 よくよく見ると、戦機サイズの箒もあるじゃないですかやだ~。


「よっしゃ! やってやるぜ!」


 ほいほい、と箒を動かす。

 その度に、がちゃこん、がちゃこん、と小気味いい音が鳴り響いた。

 これをリズミカルにおこなうと、なんだか楽しくなってきた。


 おう、いえあっ! へい、へい、いえすっ! ふぅぅぅぅぅぅっ!


 ガチャン、ギュイン、キュムッ、ブシュゥゥゥゥゥッ!


 ココココ……ビコーン!


 アインリールのカメラアイが無駄に発光したところで、マーカスのおっさんが起きてきた。


「うるせぇぇぇぇぇぇっ! 今、何時だと思ってやがる!」

「朝」

「早朝の三時半だバカ野郎! 寝てろっ!」


 激おこなマーカスのおっさんは、ばたむ、とドアを思いっきり閉めて帰っていった。


 でも、そのピンクの寝間着は、どうかと思います、はい。


 折角、お掃除していたというのに腰を折られてしまった。

 やる気をなくしたので今日は帰宅します、探さないでください、と俺の元居た世界の文字で書置きをして活動開始。

 アインリールに乗ったまま、ガシャコンガシャコン、と道を行く。


 流石に朝早いだけあって、だぁれもいませんよ。

 お店も殆どが閉まっている。


「早起きした意味を教えてくれませんかねぇ」

「いあ~ん」


 結局、ただの散歩になってしまいましたとさ。ふぁっきゅん。






 とはいえ、俺もただ散歩していたわけではない。

 この町の主要な建物の位置を確認してきたのである。


 そうそう、この町の名前は【キアンカ】という。

 エンペラル帝国の領地であり、紛う事なき田舎である、とのこと。


 その割には結構大きな町であるようだが、これでも規模は小さいらしい。

 その内容とは、これまた奇天烈なものであり、和洋中なんでもござれという有様。


 和風居酒屋を目撃した時は、なんじゃこれ、と思わず漏らしてしまった。

 その割に西部劇のような酒場もある。

 もうなんでもかんでも詰め込んで失敗した町づくり、といったところだ。


 でも、俺はこういったものが嫌いではない。

 以前、こんな感じの町で暮らしていたからなのかもしれない。


 誰もいない公園にやってきた俺は、アインリールから降りてブランコに乗った。


 ゆっくりと漕ぎ出す。

 

 振り子の原理で前後を繰り返す単純な遊具だ。

 しかし、考え事をしながら使用するのに丁度いい単調さである。


「あ、そういえば、魔法も思い出さないとなぁ」


 唯一思い出したのがファイアーボールという火属性魔法。


 しかし、俺はとある問題を抱えている。

 それは、俺が攻撃魔法を放つとその場で爆発を起こす、というものだ。


 見ようによっては自爆テロである。

 だが、悲しい事に、その通りであったりするのだ。


 俺自身の驚異的な【魔法防御力】によって、ダメージを受けないことだけが救いである。


 だが、俺が最も先に思い出さなければならない、代名詞ともいえる魔法があることは確かなのだ。

 だが、それが思い出せない。お尻の辺りがむずむずする。


「だめだぁ、思い出せん」


 おっしょい、とテイクオフ。

 ブランコから跳躍し、着地に失敗。顔面を強打する。


「いたいっしゅっ!」


「何をやっとるんじゃ、おまえさん」

「若気の至り、なんだぜ」

「って、以前会ったちびっこではないか」

「あっ、あの時の……」


 大地と熱い抱擁を交わした俺は、通りがかりのお爺さんに介抱してもらったのだが、そのお爺さんは以前、戦機協会を紹介してくれたお爺さんであった。


 名を【ガンテツ】といい、この町では割と有名なお爺さんなのらしい。


「こんな早朝に店が開いておるわけなかろう」

「ですよね~」


 というわけで、当たり前の事を言われて凹む俺。


 あぁ、しかし、俺はなんと無力なのだろうか。早くお家へ帰りたい。

 とはいえ、今あの掘立小屋に帰ってもすることが無い。


「あ、そうだ。最も先にしなきゃならんことがあった! ありがとな、ガンテツ爺さん!」

「うむ、あまり、はしゃぎ過ぎんようになぁ」


 顔面着地の衝撃が、俺のつるつるの脳みそを活性化させたらしい。

 やらなくてはならない事、それは文字を覚えることである。


 何故か言葉を理解できる俺であるが、文字を理解することはできなかった。

 なんという、不親切な異世界転移であろうか。


 これをおこなった犯人は早急にとっつ構えて、ケツの穴にミントを詰め込んでくれる。






 適当に時間を潰した俺はアインリールに乗り込み、マーカス戦機修理工場へと戻る。

 すると、ようやくマーカスのおっさんが起きていた。

 ランニングシャツにツナギ着込んで準備体操をおこなっている。


「おう、帰ったか。もう掃除しちゃっていいぞ」

「そうさせてもらうんだぜ」


 というわけでアインリールを使用し、ちゃちゃっと掃除を終わらせる。

 俺も今日はすることが盛りだくさんなので、掃除に時間を掛けてはいられないのだ。


「おぉ、やりゃあできるんじゃねぇか」

「ふっきゅんきゅんきゅん、アイン君はできる子」

「あっい~ん」


 掃除も終わったところで、エリンちゃんもツナギを着て降りてきた。


 今日は学校がないのであろうか?

 であるなら、文字を教えてくれないか交渉してみよう。


「おはよ~! エルティナちゃんはお掃除かな?」

「おはようなんだぜ。掃除はもう終わらせたぞ」

「早いね~。戦機の扱いが上手なんだ」

「そ、それほどでもない」


 だって、実際に動かしているのはアイン君だしな。

 俺は何もしていないも同然。悲しいなぁ。


 いや、それよりも交渉だ。


「エリンちゃんは今日、学校はお休み?」

「うん、休みだよ~。これから、仕事を少し手伝うけど、午後は空いてるかなぁ?」

「それは好都合。特に予定がないなら俺に文字を教えてはくれまいか?」

「え? 文字を?」

「うん」


 エリンちゃんは不思議そうな顔をした。どうしてであろうか?


「何か変だったか?」

「うん、文字が分からないのに、戦機を自由自在に動かしているんだもの。普通はマニュアルを読んだって、動かすのには四苦八苦するんだよ?」

「そ、そーなのかー」


 だらだら、といやぁんな汗を流す俺は適当な返事を返してお茶を濁す。


「ま、いいよ。その代わり、エルティナちゃんの話を聞きたいな」

「ふきゅん? 俺の話?」

「うん、なんでもいいよ。知っていること、話せる範囲でいいからさ」


 俺はこの条件を飲んで、午後からエリンちゃんの授業を受けることになった。

 隠すことなどほとんどないしな。


 そもそもが、記憶が殆ど失われてしまっている。

 話すとしても、これまでの経緯くらいなものであろう。






 ということで、午前中にやるべきことを全て終わらせるために奔走する。


 向かった先は中古販売店。この残金で新品を買うなど愚の骨頂。

 ひとまずは最低品質でもいいので家財道具を一通り揃えるのが優先である。


 特に調理道具は優先して買う。

 俺は食材だけでは満たされない、という衝撃の事実が判明してしまっている。


 それに、アインリールの装甲を削ってまで作った調理道具は、あの一件で木端微塵となってしまっている。


 悲しいなぁ。


「したがって、俺は料理を作ることを強いられているんだ!」


 謎の集中線を炸裂させ、中古販売店の中心で叫んだ俺に対し、速やかに店員さんが駆け寄ってきた。


 俺は悪くぬぇ。


「お嬢ちゃん、調理道具を探してるのかな?」

「うん、一番安いの」

「だったら、この調理キットはどうかな? 引退した戦機乗りが売りに来たものだけど、手入れもしっかりしているから十分に使えるよ?」

「どれどれ?」


 俺は一般的な枕サイズの手持ちケースを渡され、それを開いた。


 中には小さなプラスチック製のまな板、短い包丁にお玉、小さな鍋に、小型のコンロとガスボンベ、スプーンとフォークといったセットになっている。


 これは戦機乗りが遠征に向かう際に携帯する調理道具なのだろう。

 一人分の料理を作るには都合のいいサイズとなっていた。


「これは良いものだ。お値段ぷり~ず」

「一万五千ゴドルのところを一万ゴドルでいかがですか?」

「買った。あと他にも……」


 俺は店員さんに事情を話し、残金で寝袋と洗面道具を購入する。

 衣服も何着か買購入。勿論、おパンツも買ったぞ。


 衣服だが、このピンク色のツナギ一着では活動しにくいので他のツナギも購入した。

 子供用のツナギが置いてあったのでそれを何着かチョイス。

 色がバラバラになってしまったが、青系統の色が多いもよう。


 流石に歯ブラシは新品を買う予定なので、ここでは買わない。


「ありやとやしたー!」


 店員さんに荷物をアインリールにまで運んでもらい、中古販売店を後にする。

 ここは品揃えが良いから贔屓にしてもいいかもしれない。


「残金は四万ゴドル。意外に残ったなぁ」


 当然ながら、こんな金額では戦機用の装備は買えない。

 したがって、これは生活費に充てる。当然だなぁ?


「取り敢えずは、朝飯用の食材を買って帰るか」


 俺はアインリールを市場へと向かわせるのであった。

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