6食目 ロクデナシの世界へようこそ
住む場所ができたなら、食い扶持を稼ぐに決まっているんだよなぁ。
というわけで、戦機を用いたお仕事を探しに戦機協会にレッツラご~。
そして、俺は今、アインリールで客の戦機を洗浄している。
そう、ここが俺の戦場だったのだ!
「ぷじゃけんな! おんどるるぁ!」
コクピットで咆える珍獣。だが無意味だ。
というか、実はこれ、なかなかに美味しいお仕事だったりする。
一時間で三万。超破格ぅ!
受付のお姉さんが、俺を超新米であることを理由に、この仕事を回してくれたのだ。
戦機協会には洗車場ならぬ洗機場が設けられており、そこでは人力や戦機を用いての洗浄が行われている。
こだわりがある者は自分で愛機を洗浄しているが、そこまでこだわらない者は洗浄を委託する場合が多い。
俺の場合は戦機を用いての洗浄となる。
この場合、相当な技術力が必要となるのだが、そこはアイン君に丸投げすることでカバーした。
アイン君は鉄の精霊だ。言わばアインリールは彼の身体同然。
息をするかのように手足を動かせるアイン君に掛かれば、戦機の隅々までピカピカにするなど容易い事。
そんなわけで、俺はジッとコクピットに座って魔力を供給していればいいのだ。
でも、暇やねんな。漫画の本でもあればよかったのだが。
そして、アイン君のお掃除が丁寧、且つ、手早いという事で俺たちの下に長蛇の列。
でも、このお仕事は時間制なので、あまり来なくてもいいです、というか帰れ。
「こりゃあ、大変だぁ。アイン君、大丈夫か?」
「あい~ん!」
アイン君は問題ないらしい。
俺が常に魔力を垂れ流しているお陰で、元気モリモリだそうな。
魔力と言えば、こちらでは魔力の事を光素と呼ぶらしい。
しかし、俺には別のものに見えてしまう。
それは気のせいであろうか。
「考えても分からんな。アイン君が喜んでいるし、魔力でも光素でも、どっちでもいいや」
そんなわけで、退屈ながらも日が暮れるまでバイトに精を出し、九万円……もとい九万ゴドルを獲得したのであった。
やったぜ。
そして、俺は九万ゴドルを片手に、戦機乗りが集う、という酒場に殴り込みをかける。
勿論、戦機からは降りた。借金はもういらないです。
西部劇のような扉をひら……かないで下を通り抜ける。
潜った方が早かったりするんだな、これが。
「あん? なんだのガキ」
「おい、嬢ちゃん。ここは子供が来る場所じゃねぇぞ」
「喧しい、ふぁっきゅんども。俺はこう見えても戦機乗りだ」
残念な頭と顔をしたThe・モブキャラたちに、戦機協会の会員証を見せつける。
「うをっ!? マジかよ。悪かったな」
「Eランク4649位か。まぁ、死なん程度に頑張れ」
「なぬ? 順位なんてあるのか」
初耳である。
というのも、俺はこの世界の文字が読めない。
したがって、マーカスのおっさんが教えてくれたエルティナという文字しか読み書きできないのである。
「なんてこったぁ。俺はそんなに順位が低かったのかぁ」
「ば~か、所属したてなら、みんなこんなもんさ」
ぎゃはは、と下品に笑うモヒカンにーちゃんと、スキンヘッドのおっさんはビールジョッキを掲げ、愉快そうに乾杯の音頭を取った。
「新しいロクデナシに乾杯っ!」
「精々、生き残んな!」
俺は先輩のロクデナシに、ぺこり、と頭を下げた後にカウンターへと向かう。
気合を入れて椅子に上る、とそこに正座をした。
普通に座るとカウンターに目線があっちまうんだよ、ふぁっきゅん。
「お勧めの食事とミルク」
「ガキに飲ませるビー……って最後まで言わせろよ」
ノリのいい厳ついバーテンダーは、お勧めだというビーフステーキと濃厚なミルクを提供してくれた。
ビーフステーキは極厚で食べ応え十分。
焼き加減はレア。それ以外は認めない、というこだわりであった。
そして、ソースは一切ない。
軽く塩コショウだけで仕上げている。
余程肉に自信があるのであろうか。楽しみだ。
「いただきまぁす」
俺の血肉になってくれる食材に圧倒的な感謝を捧げ、極厚あつあつのステーキにがぶりんちょ。
溢れる肉汁は、振り掛けられた塩コショウを良い塩梅に溶かし、口の中でハーモニーを奏でた。
口の中が美味しさの洪水やでぇ、というフレーズが再生される。
「うんまぁい!」
「はっはっは、うちの肉は格別だろ?」
厳ついバーテンダーは夢中で食べ進める俺に笑顔を見せた。
合間に飲むミルクも格別だ。とにかく濃厚。それに尽きる。
このおかげで、パンや、ご飯は必要ない、と断言できた。
そして、ステーキを完食。
「ごちそうさまでしたっ!」
「おう、全部食べれたか。戦機乗りは体力が資本だからな。いっぱい食べて、大きくなんな」
「分かったんだぜ」
周りのロクデナシからは、おっぱいとケツを中心にでかくな、とヤジを飛ばしてくる。
まったくもって、良いロクデナシどもだ。
食後、オレンジジュースを注文し、情報を収集。
駆け出しの戦機乗りが、どのような仕事を受けているかをモヒカン兄貴に聞く。
「そうだなぁ……俺の場合は配達だったな」
「配達?」
「そう、配達。戦機を買って間もないと武器が貧弱だろ? だから、報酬は少ないが安全な仕事を受けるのが確実に強くなる秘訣さ」
モヒカン兄貴は世紀末なルックスとは違い、親切で真面目な性格であった。
人は外見では判断できないんやなって。
「そうそう、俺も駆け出しの頃は苦労したもんさ」
「あぁ、分かる。我慢できなかった奴らの大半は、もう会えなくなっちまった」
「まずはここで、ふるいに掛けられるよなぁ」
うんうん、と昔を懐かしむロクデナシども。
やはり、どの世界、職種でも最初が肝心のもよう。
「そっかぁ。やっぱり、地道なのが一番なのか」
「そういうこった。若いんだから、じっくりと攻めてゆきな」
貴重な情報を得た俺はロクデナシの酒場を後にする。
食事代は千八百ゴドル。
あれだけ食べて、このお値段はビックリだ。
今後とも贔屓にさせてもらおう。
マーカス戦機修理工場の隅っこにある自宅へと戻る。
その頃にはすっかり日も暮れて、真っ暗になってしまっていた。
しか~し、白エルフには暗視能力があるので暗くてもへっちゃらである。
物音を立てないように自宅傍にアインリールを鎮座させて帰宅。
そして、布団も何も買っていないことを思い出し、ふきゅん、と鳴く羽目になった。
えぇ、地べたリアン致しました。痛かったです。