4食目 戦機協会
さて、一言にお金を稼ぐ、といっても簡単なことではない。
現在の俺は、自分にどのような力が備わっているのか綺麗さっぱり忘れてしまっている。
分かっているのは自分の名と、白エルフという珍種であることだ。
あと、魔力なるものが内包されていることも理解している。
そして、この魔力を有効活用できない事を先ほど思い知った。
なんで、爆発するんや。そりゃないで。
「ううむ、どうやって稼ぐべきか」
可能性としてはアインリールが直ったら借金して傭兵家業を営む、辺りであろうか。
あるいは、そこら辺の店に飛び込んでバイトをするかだ。
前者はどれほど稼げるかは不明。
後者は危険は少ないものの、低賃金であることが容易に想像できる。
俺としては、こんな世界には長居したくはないので、デカく稼ぎたいところだ。
そんなわけで、一般通行人Aをひっ捕らえて尋問開始。
「じっちゃん、デカく金を稼ぐにはどうしたらいい?」
「うん? なんじゃ、おまえさん。金が欲しいのか?」
「そうだぁ、世の中、金だぁ」
俺の暗黒微笑にビビった中々イケメンな爺様は、ほいほいと情報をゲロリアンし始めた。
どうやら、【傭兵組合】と【戦機協会】なるものが存在しており、そのどちらかに所属すると仕事を斡旋してもらえるらしい。
加入条件は戦機を所有していること。
俺は偶然にも拾ったアインリールがあるので加入条件は満たしている。
問題は、どちらに加入するかだ。
「お勧めは断然、戦機協会じゃな。規模がデカいし国が後ろ盾に付いているし、拠点も全国に存在する」
「傭兵組合は?」
「あれはチンピラの溜まり場みたいなもんじゃよ。基本的には関わらない方が身のためじゃぞ」
「そうなんだ?」
「あぁ、戦機協会から追放されたロクデナシが最後に流れ着く場でもあるからのう」
「ふきゅん、分かった。ありがとな、じっちゃん」
気の良いじっちゃんは、貴重な情報を気前よく渡して立ち去っていった。
どうやら、戦機協会に所属しておけば、取り敢えずは問題ないらしい。
であるなら、工場のおっちゃんに事情を説明して、修理費の支払いを先伸ばししてもらうのが賢いだろう。
というわけで、修理工場へと戻り事情を説明する。
「話は分かった」
「じゃあ……」
「この書類にサインしろ。字は書けるか?」
「……なんて書いてあるんだぁ?」
「書けねぇか。名前の書き方を教えてやるから覚えろ」
おっちゃんは、エルティナ、というこの世界の文字を教えてくれた。
そして、それを書類に書くことを要求する。
これは恐らく借用書であろう。
「えるてぃな、っと。これでいいか?」
「あぁ、OKだ。これでお前は借金五十万ゴドルを背負ったわけだ」
「それは大金なのか?」
「ん~、戦機乗りにとっては大した額ではないな。出費もデカいが、報酬もデカい」
「要は、戦機を壊すなってことか」
「そういうこった。ようこそ、ロクデナシたちの世界へっ!」
工場のおっちゃんは【マーカス】という名らしい。
また、この修理工場の持ち主でもある。
マーカス戦機工場にて修復されたアインリールに乗り込み、戦機協会へと向かう。
戦機は基本的に、専用の通路を歩行しなければならないようだ。
要は車と同じである。
同じように専用の通路を行く戦機の後をついて行く。
行き先が同じだったのか、やがて戦機協会と思しき建物が見えてきた。
「ふきゅん、でっけぇ」
そこは協会の建物、というよりかは要塞に近いものがあった。
当たり前のように砲台が設置されているのは、万が一の際に戦うことを想定しているからだろう。
「こちらへどうぞ~!」
誘導員であろうか、旗を手にした男性が戦機を誘導し、駐車場ならぬ駐機場へと戦機を誘導している。
俺も彼らに倣い、駐機場へと進み、アインリールを鎮座させた。
もちろん、鎮座する前に俺は機体から降りている。
コクピットハッチが開いたまま無人で動くアインリールに、誘導員は、ぽかーん、とした表情を見せていたのは言うまでもない。
戦機から降りた俺に、誘導員はカードらしき物を手渡してきた。
それは、プラスチック製であり、駐機場と同じ番号が振られている。
「戦機協会へ登録する場合は、それが戦機所持の証となりますよ」
「ふきゅん、そうなんだ」
「というか……まさか、お嬢ちゃんが戦機を操っていたとはねぇ」
「尊敬してもいいぞぉ」
「はは、確かに尊敬に値するよ」
まぁ、見た目が三歳児の幼女が戦機を操縦していたら驚くだろうな。
誘導員の男性に笑顔で見送られた俺は、てくてく、と受付所へと向かう。
戦機協会のロビーは広く、まるで区役所のように整然としていた。
そこの職員は一様にビシッとしたスーツを着込んで、ならず者のような風貌の戦機乗りたちの受付を処理している。
中には本当に世紀末ヒャッハーどものようなルックスの戦機乗りがいた。
だが、それに相反するかのように背広を身に纏う戦機乗りもいるのだから面白い。
きっと、戦機乗りは自分の実力の範囲内で自由なのだろう。
「受付をされる方は、こちらの列へ並んでくださ~い」
黒髪ショートカットの美人受付嬢がご丁寧に誘導してくれた。
だが、俺はあまりの小ささに受付を待つ列にすら並ぶことができなかったではないか。
並んでも俺の前に割り込んできやがるクソったれ共の群れ。
これは許されざる事案っ。断固として抗議せざるを得ないっ。
「おいぃ、順番は守れ」
「あ? ガキが何言ってやがる。とっとと帰れ」
割り込んできた戦機乗りの言葉に、大笑いする他の戦機乗りたち。
よろしい、ならば戦争だ。
「上等だ、おるるぁん!」
「ぶはは! 表に出ろってか?」
「爆ぜろ」
というわけで、あらよっと、と爆発してみました。俺は悪くない。
「ふきゅん、手加減したら大した爆発じゃなかったな」
とはいえ、俺の周囲三メートルにいた阿呆は、黒焦げになってケツプリ土下座状態となっている。
なので、俺は奇妙なポージングを取ってこう言うのだ。
「おまえ……調子ぶっこいた結果だよ? 反省するべき、そうするべき」
これで、俺を舐めるヤツはいなくなった。
ぎろり、と威圧の眼差しを送ると、負け犬のごとく視線を逸らす戦機乗りが多数。
このヘタレどもが。ぺっ。
「ねーちゃん、戦機協会に登録したいんだが?」
「はい、では、この書類にサインを」
そして、この黒髪の受付嬢である。
こういう荒事は日常茶飯事であるのだろうか。
まったく気にもせずに淡々と事務処理してゆく様は、なるほど恐ろしいものがあった。
「ここにサインしていただければ結構ですよ」
「ここ?」
「そう、ここよ」
早速、先ほどマーカスのおっさんに教えてもらった名前を書き込む。
うむ、綺麗なのか汚いのか分からない文字だぁ。
「はい、これで結構です。あとは、これを確認課に回して受理されれば、正式に戦機協会に加入となります」
「やったぜ」
「この番号札を持っておいてね。順番が来たら、呼ぶから」
「分かったんだぜ」
というわけで、短い黒髪のバリバリに働く受付嬢に番号札を渡され、呼ばれるまでの間、無意味に戦機協会をうろちょろする。
そして、発見する食堂。
だが、悲しい事に俺は無一文。しかも借金持ち。
ふきゅん、とその場を後にする。
俺……金が溜まったら、ここで飯食うんだ。
「三十四番の方、エルティナさん、どうぞ~!」
「おっと、俺だ」
「あい~ん」
食堂で飯を食うことができずに、しょぼくれていた俺は、呼び出されたのを良い機会とし、ふっきゅんしゅ、と気合を入れ直した。
「はい、これが協会の会員証です」
「おぉ、結構、立派なカード」
大きさは普通自動車の免許証程度のサイズだ。
その一覧には俺の名前、と他にも書き込んであるが全く読めない。
「初回は無料ですが、紛失等なされますと、次回からは千ゴドルを支払っていただきます」
「おおぅ、地味に高い」
「はい、ですから大切になさってくださいね。あと、それは身分証明にも利用できますよ」
「へぇ」
その後は、受付嬢から簡単な説明を受ける。
戦機協会は基本的に会員費は発生しない。
しかし、戦機協会は緊急時に会員を招集することがあり、これを不当に断ると脱会させられることがあるらしい。
また、ここでは仕事の斡旋も行っており、その成果によっては会員のグレードが上がってゆき、受けられる特典が増えてゆく仕組みであるようだ。
現在の俺は一番下のグレードのE。駆け出しの新人という事だ。
グレードは下からE、D、C、B、Aと高くなってゆく。
このグレード枠を【ソルジャーランク】と呼び、この上に更にグレード枠がある。
これを【ナイトランク】と呼称し、そこに所属する者たちは【騎士】と名乗ることが許された。
また、戦機にもグレードがあるらしく、緑蛙のパイロットが吐き捨てた言葉を思い出す。
基本的に戦機はグレードの上昇はないらしい。
それは機体のコアに使用している金属が、ランクを決定付ける事が大半であるからだ。
戦機のランクの最下位は安価な青銅を用いたブロンズ。そして鉄を使用したアイアン。
スチール合金を用いたスチールに、ミスリルという希少な金属を用いたミスリルクラスと続き、最後にミスリルを上回る希少な金属を用いた特別な戦機が【ゴッズ】というクラスに分類される。
「ふきゅん、騎士かぁ」
俺は騎士に対して特別な思いを持っていた。
しかし、このクソザコナメクジの白エルフの身体では、騎士など夢のまた夢。
当の昔に諦めていた野望が再燃し始めたのを感じ取る。
ふっきゅんきゅんきゅん……やってみようではないか、ナイトランクへの到達。
そして、俺は騎士を名乗る。
俺は協会カードを掲げ、不気味に笑いまくるのであった。