2食目 戦闘
初手は当然ながら緑蛙の方からだ。
その手に持つ銃で、こちらをハチの巣にしようとしてきやがる。
しかし、俺は綺麗な戦い方なんてしない。
ある物は全て利用して泥臭い戦いを相手に強いるのだ。
つまり、こうである。
「おりゃあっ!」
アインリールに、むんず、と無造作に土をすくわせて、おんどりゃあ、と緑蛙の顔に目掛けて投げつけた。
それは、見事に命中。
土には何か混じっていたのか、トマトのように爆ぜて、緑蛙の顔面を何か見ちゃいけない色へと変貌させる。
えらいこちゃあ。
我ながらエグイ方法であったが、生き死にが掛かった戦場で躊躇する奴は死ぬ。
直感を信じられない奴から死ぬ、ってそれ一番言われてっから。
視界を塞がれてしまった緑蛙は、あからさまに動揺した。
手に持つ銃をあらぬ方向にへと乱射する。
しかも、その銃がジャムった。
つまり、弾が詰まってしまって発砲できなくなってしまったのである。ざまぁ。
「ふっきゅんきゅんきゅん……そんなんじゃ甘いよ」
俺はこの隙に、緑蛙の背後に回り込み膝カックンをお見舞いする。
実際は、脚部の関節に蹴りを入れてやった、が正しい。
虚を突かれた緑蛙は無様にも後ろへと転倒。
その太ましい体型が災いした形だ。
「よ~し! アイン君! サッカーしようぜ!」
「あい~ん」
倒れ込んだ緑蛙の頭部目掛けて、思いっきり蹴りを叩き込む。
鈍い金属音と共に緑蛙の頭部は千切れ飛んだ。
バチバチと紫電を放ち、数度痙攣した後に緑蛙はその動きを完全に停止する。
倒れた際に動作不良にでも陥ったのだろう。
あるいは、頭部を破壊したことで止めになったのだろうか。
すると、腹の装甲が開き、中から軍服と思わしき服を着た男が慌てて飛び出してきた。
「ば、馬鹿なっ!? スチールクラスが、アイアンクラスにパワー負けするなどっ!」
「んお? アイアンクラス?」
「あい~ん……」
男は負け犬の遠吠えを残して一目散に逃げ去って行ったではないか。
「おとといきやがれ、ふぁっきゅん」
俺は、その男を仕留めることはできなかった。
心のどこかで、奴を殺せ、と叫ぶ声が聞こえたが、これを華麗にスルー。
断じて、もも……もも? 桃がどうしたって? 分からん。
「なんとかなったな。ありがとな、アイン君」
「あい~ん?」
「おまえの名前だよ」
「あいあ~ん」
鉄の塊っぽい何かは、俺の周りを、ふよふよ、と飛びながら嬉しそうな表情を見せた。
ひとまずは、なんとかなった形だ。
だが、喜んでばかりもいられない。
俺は、この状況を全く把握していないのだから。
普通、こんな豆粒サイズの幼女に発砲するか?
あり得んだろ。
「取り敢えず、ここから移動だな。どこか隠れる場所とか無いかな?」
戦場となった場所は、あまりにも硝煙と死臭が漂い過ぎている。
ハッキリ言って長時間いると、俺の奥にあるドス黒い何かが飛び出してきそうで怖い。
平地だった戦場を適当に移動する。
すると、森へと辿り着いた。
ここならば、身を隠すには打って付けである。
「いいぞぉ、これ。取り敢えずはアインリールを鎮座させて隠れておこう」
「あい~」
傷付いたアインリールを鎮座させる。
すると、上手い具合に隠れることができた。
あとは、情報の整理である。
先ほどは俺一人であったため、ろくな情報を得ることはできなかった。
しかし、今は謎の物体アイン君がいるので、ある程度の情報を得ることができるだろう。
「というわけで、情報プリーズ」
「あい~ん」
「魔力が欲しい? この卑しん坊めぇ。魔力を奢ってやろう」
そして、当然の権利のごとく魔力を要求してくるアイン君好きかも。
この世界の名は【第六精霊界】というらしい。
ということは、第一や第二もあるのかもしれない。
そして、この世界には人間族しか知的生命体はいないらしい。
つまり、俺はこの時点で【珍獣】に決定してしまったわけだ。
ぷじゃけんなっ!
「あい~ん」
「んで、おまえは【精霊】というわけかぁ」
この灰色の饅頭みたいなアイン君は【鉄の精霊】なのだそうな。
そして、この精霊を組み込んで動かす戦闘兵器が【戦機】と呼称される物らしい。
このアインリールも、その中の一つとなる。
戦機には幾つかのクラスが存在し、アインリールは下から数えた方が早い【アイアンクラス】という階級に属すそうだ。
つまり、クッソ弱い雑兵ということになる。
だが、生身では立ち向かえないことは一目瞭然。
仮に先ほどの銃で撃たれ、万が一、命中しようものならミンチ待ったなしである。
先ほどコクピットに乗っていた悲惨な遺体も、銃弾を直撃して爆ぜたのであろう。
コクピットハッチが無かったのは、銃弾によるものか、それ以外なのかは不明だ。
だって、ハッチ自体が無いんだから当然だなぁ?
んでもって、このアインリールが所属しているのは【エンペラル帝国】という軍事国家らしい。
そして、先ほどの、ふぁっきゅんフロッガーは、【ドワルイン王国】という、いかにも悪そうな王様がいそうな国名の軍に所属しているんだそうな。
もちろん、どちらにも関わるつもりはない。
「俺の目的は記憶を取り戻す事。あとはその後に考える」
「あいあ~ん」
目標は決まった。
あとは、それを達成できるように行動するのみだ。
まず、最優先することは……食料の確保である。
「くっそ腹減った。何か食う物を探さにゃ」
「いあ~ん」
アイン君とは違い、俺は魔力で腹いっぱいにはならない。
何か、美味しいものを口にしなければ、飢えと渇きでとんでもないことになる予感。
じゃけん、森を捜索しましょうね~。
「アイン君、アインリールを操作できるかね?」
「あい」
できるらしい。
というわけで、アインリールの手の上に載せてもらい、コクピットから地面へと降り立つ。
これができなければ、いちいちアインリールを寝っ転がせることになって面倒臭いところであった。
「んじゃ、捜索開始だぁ」
「あい~」
森の中をガンガン進む俺は飢えた珍獣だ。
目に飛び込んでくる食材は容赦なく、むしゃり、だぜぇ。
はい、第一食材発見です。
見た目はトマト。しかして、その味はカレー。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁっ!?」
コレジャナイ感がウルトラマックスでした。完食したけどな。
その後も森を捜索。
わけの分からない食材たちを、むしゃむしゃ、と食いまくる。
が腹は膨れるどころか減る一方。
俺は、このまま飢え死にしてしまうのであろうか。
「……けて~助けて~」
ばたり、と倒れる。もう腹が減って動けん。
「あい~ん! あい~ん!」
「ふきゅん、アイン君、許せ。何を食っても腹が満たされん」
ぐごりゅるるっぽん、とわけの分からない音を立てる腹の虫たちは、現在、武装蜂起に余念がない。
このままでは、いけない何かが飛び出てきてしまう。
俺は最後まで足掻こう、と手を伸ばす。
その手の先に温かな桃色の輝き。
それは、やがて凝縮されてゆき形を成した。
「……桃?」
それは桃となって地面に落ちて、ころころ、と俺の下に転がってきたではないか。
食べ物であれば、なんだっていい。俺は、それを口にする。
シャリ、という小気味いい音を立てて、果肉が瑞々しい果汁を解き放つ。
それは、清廉な水のごとく、さらさらしているのに、ねっとりと舌に絡みついてきた。
そして、この世のものとは思えないほどの甘さを与えてくれたではないか。
それは間違いようがないほどの活力。
そして、満たされる空腹。
俺の欠けていたパーツがハマるかのような感覚に、忘れていた記憶の一部が蘇る。
それは、金髪で赤い瞳を持つ、美しい女性の豊満なおっぱいであった。
「なんで、真っ先にそれを思い出した、俺っ!?」
「あい~んっ!?」
俺の咆哮は青い空へと吸い込まれ、一羽の黒い鳥が「あほ~」と鳴きながら飛び立っていった。
ふぁっきゅん。