1食目 転移
なろうよ、私は帰ってきた!
あ、死なない限り( ゜Д゜)完結させます。
「なんの光っ!?」
のっけから、わけが分からないが、この状況を一番分かっていないのは間違いなく俺だ。
目が開けられないほどの光の渦の中、俺はふっきゅん、ふっきゅんと鳴きながら、この状況を豆粒のようなブレインで考察する。
が考察する材料がない事に気が付き思考を放り投げた。俺は悪くぬぇ。
手も足も出ない状況なので、自己説明でもして気を紛らわせよう。
俺の名はエルティナ・ランフォーリ・エティル。
ちょっとばっかし、おませな絶滅危惧種の白エルフガールだ。
金髪碧眼で長~い髪に眠たそうな目、そしてくそデカい長耳がトレードマーク。
現在、十二歳の俺であるが、恐ろしい事に肉体の大きさは三歳程度。
少しサイズの大きい聖衣を身に纏っている【やんちゃな聖女様】という肩書を持っていたりしなかったりする。
そんな俺が光の渦の中で、ぐりんぐりん、とそこはかとなく回転しながら、いずこかへと流れているんですわ。
どうなってるの、これ。
すたっふ~、ちょっと説明してくんない?
あと、重要なことがある。
俺の前世は【男】、そして地球出身であるという事だ。
とはいえ、前世の記憶もちぐはぐな部分があり、あまり役に立っていない。
糞しょうもない記憶が残っているだけで、使えそうな記憶は全て闇の中にどぼーん。
こんなんじゃ、勝負になんないよ~?
え~っと、え~っと、あとはなんかあったっけ? あ、そうそう……。
「えべしっ!?」
何かに激突する感触。そして、ぐき、という鈍い音と共に、俺の意識は闇の中へと不法投棄された。
「ふきゅん」
目が覚める。首がむっちゃ痛い。
頬から何かがパラパラと零れ落ちる。それは、砂であった。
つまり、俺は顔面から地面に激突したってわけだ。
ぷじゃけんなっ!
「どうなってやがんだぁ?」
きょろきょろと周囲を見渡す。
そこは、大自然に溢れるのどかな光景……ではなく、硝煙とくっさい臭いとで埋め尽くされる戦場であった。
そこかしこに転がる兵士と思わしき物体は、それが元人間かどうかも判別不能。
そして、ハチの巣にされたくそデカ金属片も発見する。
見渡す限り、死がこれでもかと自己主張していて鳴きたい。
もう本能が、さっさと逃げてどうぞ、と叫んでいたりするんですわ。
ヤヴェよ、ヤヴェよ。
「いきなり命がクライマックスなんですが?」
暢気な俺も、これは拙い、と立ち上がる。幸いにも首以外は痛くない。
というわけで、こんな場所なんて、すたこらさっさだぜ。
だが、白エルフ、圧倒的運動音痴!
走っているのに、ちっとも進んでいるように思えない!
そして、何かが俺のすぐ傍を通り抜けてゆくっ!
「にゃんだるふぁっ!?」
爆風に吹き飛ばされ、珍妙なセリフを吐きながら地面を転がりましたが俺は元気です。
いや、そうじゃない。今のは、なんだっ!?
通り過ぎていった物を確認する……が確認できず。
代わりに、いやぁん、な物を後方に認める。
それは、鋼鉄の巨人だった。
身の丈は十メートルくらいであろうか。
それが銃を構えて、ゆっくりとこちらへ向かってくる。
機体は緑色に塗装されており四つの目が印象的だ。
全体的に、ずんむりむっくりしており、相撲取りか、出来の悪い蛙のように見える。
「冷静に分析している場合じゃないだるるぉっ!?」
正気に戻った俺は、この状況を打開すべく行動に移る。
「まて、話せば……」
ズドドドドドドドドドドッ!
「問答無用で撃ってきたぁぁぁぁぁっ!?」
俺は降り注ぐ鉄の雨を気合で避ける。
……のは無理なので、蹲って芋虫のように移動を開始。
俺は小さ過ぎるので、銃撃もそうそう当たらないようだ。
とはいえ、大ピンチなのは間違いない。
おんどれぇ、人の話も聞かないで、いきなりぶっ放すとか卑怯でしょ?
ここは、スペシャルな攻撃で撃退するしかないではないかっ!
そう俺は白エルフにして……うん? 白エルフにして、なんだ?
あれれ~? 思い出せないぞ~?
「マジでヤヴぇ。名前くらいしか思い出せん」
このタイミングで、まさかの記憶喪失であることが判明。
おんどるるぁっ! タイミングというものを考えろ、おるぁん!
仕方ないのでダンゴムシのごとく転がって逃走。
これが走るよりも早い、という情けなさ。
「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」
身体が痛いも、今はそのようなことを言っている場合ではない。
なんとしても生き残り、ふぁっきゅんフロッガーに仕返しをしなければ。
べちっ!
「あだぴゃっ!?」
背中に激痛。あまりの痛さに悶絶する。
もっと幼女には優しくしてください、お願いします。
でも、そのお陰でちょっぴり記憶の一部がカムバックしたもよう。
その殆どが、絶望的に己がへなちょこである。という情報なのだが。
激痛走る背中を擦りながら……手が届かねぇ。
痛みの原因を作った物を確認。
それは鉄っぽい何かだった。
「足?」
俺の背中に大ダメージを与えたのは鉄の足であった。
見上げると、ふぁっきゅんフロッガーとは違うタイプのロボットであることが判明する。
灰色の装甲で妙に角ばっている機体であり、大きさ的には蛙野郎と同じ十メートル弱といったところであろうか。
ロボットアニメに登場する量産機のような野暮ったいデザインあり、でも玄人受けするような男臭い魅力が漂うそれは腹の部分が開いており、よくよく見ると、そこから赤い何かが流れている。
パイロットが負傷しているのであろうか。
直感的に俺は、その量が致死量であると感じ取った。
「ありゃあ、拙いかもな」
いやぁな予感しかしないが、声を掛けてみよう。
「おいぃ! 息してる?」
反応はない。よって死亡確認っ!
じゃけん、このロボットは有効活用させてもらいましょうね~。
「運が向いてきたな」
がしかし、操縦席にまで到達できそうにない件について。
そう、状況は振出しに戻ったのだ。誰か助けてっ!
「きて~、早く来て~」
仕方がないので、ダメ元でロボットに懇願してみた。
すると、ロボットが、ギギギ、と音を立てぎこちなく動い出したではないかっ!
俺の想いが通じたのであろうか、それともパイロットが生きていた?
やはり、祈りは力なんやなって。
「来たっ! これで勝つる……あ、違う」
そう、俺の想いではなく、ただ単にロボットがこっちに倒れ込んできただけであった。
俺は速やかに白目痙攣状態となり硬直する。
回避? できるわけねぇだろいいかげんにしろ。
「ぬ、ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
盛大な音を立て、ロボットは俺に覆いかぶさってきた。
残念! 俺の人生は、ここで終わってしまった!
「と思ったが、なんともなかったぜ」
幸運にも、俺が立っていた場所は、操縦席の入り口に重なった。
極めて危険な状態であったが、なんとかコクピットへと潜りこむことに成功する。
とはいえ、事態が解決したわけではない。
案の定、パイロットは事切れていた。
こりゃあ、ミンチよりもひでぇや。なんまんだぶ、なんまんだぶ。
「仏さんを見ても、なんとも思わない? いや、慣れているのか?」
思わずゲロっちまうような悲惨な肉塊にも、吐瀉物はせり上がってこない。
不思議な感覚だった。常人のそれではない、と理解する。
「いや、今はそれよりも、こいつだ」
ふっきゅんしゅ、とコクピットをよじ登る。
うつぶせに倒れているので、よじ登るのも一苦労だ。
そして。パイロットを固定しているシートベルトを外す。
すると、モザイクの塊となったパイロットは地面に真っ逆さまとなる。
本当に済まないと思うが、俺は謝らない。
「ごめんな」
もう謝ってるじゃないですかやだ~。
とセルフツッコミをしている場合ではない。
座席には座れないのでコンソールに腰を掛ける状態で調査開始。
果たして、このロボットは生きているのか。
仮に生きているとして俺に動かせるのか。
コクピットは、それはもうわけの分からない機器で埋め尽くされていた。
そして、その大半がバチバチ言っている件について。
これ、完全に壊れてんじゃないのか?
でも今更、降りるわけにはいかないんだよなぁ。
なので、ダメ元で色々弄ってみる。
「エンジンが切れてるのか? 明かりもなんも付いちゃいねぇ」
というか、どこを弄れば起動するか分かりゃしねぇ。
もう既に積んでいる状態? ここは鉄の棺桶?
「冗談じゃぬぇ!」
バシンと血に塗れたコンソールを叩く。
実際は、ぺちっ、であるが。
すると、コクピットに明かりが灯り、駆動音が聞こえてきたではないか。
昭和時代の家電用品かな?
なんにせよ、第一関門は突破。
あとは、こいつをどう動かすかだ。
「レバーっぽいのはあるが、どうすりゃいいんだ?」
ま、適当に動かせば、なんとかなるに違いない。
「おぉん!」
そして、子供の身体では片方のレバーにしか触れない件について。
片方になら、身体を伸ばせばなんとか触れるが、いかんせん俺の身体は三歳児と同程度。
座席から逸脱する姿勢は辛い、というかモニター画面も見えませんゾ!
「どないせいちゅうねん」
いっちもさっちも行かないこの状況。
やはり、最後に頼るのは祈りの力。
むっはぁ! 届け、俺の祈りっ! 奇跡とか起こったり起こらなかったりしろ!
「あいあ~ん」
「ふきゅん?」
奇跡っぽいのは起こった。
コクピットのコンソールから、にゅるん、と飛び出てきた灰色の球体。
そいつは、小豆大の黒いおめめが、ちょこん、と付いた奇妙な奴だった。
「おまえは、いったい、何者だぁ?」
「てっつ~」
猪口才にも言葉を操るようだが意味は分からない。
だが、なんとなくではあるが、こいつが何をしてほしいのかは理解できる。
今のこいつは腹ペコなのだ。
お腹が減ってどうしようもないところに俺がひょっこりポップしたものだから、これ幸いと飛び出てきたのだろう。
物体をすり抜けることができる様子から、こいつは何かしらの【精霊】なんだろうと推測。
でも確認は後回し。
取り敢えず、彼を満たして協力を仰いで差し上げろっ!
精霊の好物はだいたい魔力と相場が決まっている。
魔力とは世界に満ちる不思議パワーの事だ。
詳しく説明すると説明文が二十文字以上になるので割愛させていただく。
「魔力が欲しいのかぁ? ならば、ごちそうしてやろう」
「あい~ん」
灰色の塊君の頭に手を置いて、もりもり魔力を流し込む。
俺は超一級の白エルフ。魔力は有り余っていることをさっきのショックで思い出した。
でも、それを有効に使うことができないこともだ。
悲しいなぁ。
「あ~い~あ~ん!」
素晴らしく元気になったお饅頭君はぴょこぴょことコンソールの上で飛び跳ねた。
「お、おう。やる気がマックスなのは理解した。でも、この状況、どうするんだぁ?」
「あ~い」
どうにも、この鉄っぽい塊君は、レバーに向けて魔力を流せ、と言っているようだ。
はて、どうして、はっきりと言っている意味が分かるんですかねぇ?
「まぁいい、やらなきゃどの道、死ぬだけぞ」
俺は座席の両脇にあるレバーにそれぞれ対応した手をかざし、それに目掛けて魔力を放つ。
すると、青白い輝きが伸びてレバーと俺とを繋いだ。
それを認めたお饅頭君が俺の頭の上に落ち着いた瞬間、俺はロボットと一体化したかのような感覚に陥る。
否、俺と鋼鉄の塊は、正しくつながったのだろう。
一瞬にして、半壊した戦闘ロボットの情報が頭の中に流れ込んできたではないか。
「【TAS‐056‐アインリール】。それが、おまえの名か!」
「あい~ん」
俺はアインリールに立ち上がるように命じた。
正しくは立ちたいと思った、だ。
それは魔力の紐を介してアインリールに伝わった。
遂に鋼鉄の巨人は重々しい音を立てて立ち上がった。
それに合わせて、俺はコンソールから座席シートへと転がる。
シートが柔らかくなかったら、後頭部を強かに打っていたところだぁ。
視界が高い、機体のカメラが俺の視界と同期する。
これが、巨人の視点なのだろう。
「おぉ、未体験の高さだな」
しかし、悠長に景色を眺めていられるわけではない。
ふぁっきゅんフロッガーが銃口を向けて接近しているのだ。
「さっきはやりたい放題やってくれたな。もう許さねぇぞ、おい」
武器は……無い。あるのは機体のみ。
しかも、左腕は機能していないという有様。
それでも、やらねばやられる。
「ふはは、こんなピンチ、何度も体験したりしなかったりするような……ま、ええわ」
やることなんて、一つしかねぇんだよ!
「行くぞ、アインリール!」
「あいあ~ん!」
鋼鉄の巨人が胸のダクトから排気をおこない、ツインアイカメラを輝かせた。
問答無用で襲い掛かってくる緑蛙を撃退するために、俺は灰色の巨人を操る。
生き残るための戦いが、ここに始まった。
2020/11/22 改01