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ゾンビ先生は美脚がお好き  作者: 改 鋭一
三日目 「花嫁」
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ハッピーエンド

ローター音を響かせ、葵と陽奈を収容したヘリは高度を上げた。大きく旋回して目的地の方角に機首を向けるや、前のめりになって速度を上げ、どんどん遠ざかって行った。


周囲は静かになった。


女神たちが天に戻って行ったのを見届け、俺は脱力してコンクリに座り込んだ。


間に合った。どうにか間に合った。


妹を助けることはできなかった俺だが、葵と陽奈、二人のヒロインは助けることはできた。


バイオテロ、ゾンビパニックを防ぐことはできなかったが、事の顛末をいろいろな関係機関に告発すべく、ノートパソコンも葵に託した。テロリストの連中を封じるのには役立つはずだ。


残っていた危険なウイルスは全部処分した。


自らマスメディアのインタビューを受け、このバイオテロの裏で妙な組織が動いていることも暴くことができた。


もうドジでダメなヒーローの俺にやるべきことはない……ないよな。


どこかの未来から来たアンドロイドのように、自分の存在を消すため溶鉱炉に飛び込む必要もない。放っておけばそのうち勝手に死ぬんだ。


この屋上で大の字に寝そべったまま死を待とうかな。それとも研究室に戻ってソファーに寝っ転がって死んでいこうか。


後どのくらい理性は保つのかな。


それにしても俺と葵の子供か……男の子だろうか、女の子だろうか。


いきなり母子家庭にさせてしまって誠に申し訳ない……ただ葵はお嬢様だし、実家のご両親がいろいろ手伝ってはくれるだろう。




そんなことを考えながらぼーっとしていた時だ。


タタタタタタタ


うおおおおおおおお!


まただ。建物の下から銃声とゾンビたちの声が響いてきた。ガバッと起き上がって下をのぞき込む。


この建物の前にまで来た装甲車は、まだその場に停まったままだ。周りはゾンビに囲まれてる。防護服の奴ら、ビビってなかなか車外に出てくることができなかったのが、ようやっとお出ましか。


タタタタタタタ


装甲車のハッチを開けて出てきた防護服がサブマシンガンを撃ち、周囲のゾンビがばたばた倒れていく。


くっそお。だからゾンビに罪は無いって言ってるだろう。なんでそんな好き放題撃ちまくるんだ。


見ているとまた猛然と腹が立ってきた。思わず近くに落ちていた一斗缶を振り上げ、防護服に向かって投げ下ろす。


ガーン! ガラーン!


命中! やった! 見事に防護服にぶち当たった。


もちろん、野郎もそれぐらいでは死なない。ヘルメットの頭をさすりながら、どこから一斗缶が飛んできたのか、キョロキョロ探してやがる。ざまあみろ馬鹿野郎。クソ野郎。


いったん縁から身体を引っ込め、もう一つ一斗缶を放り投げる。


ガラーン! ガランガラン……


やった! もう1回命中。あの野郎、サブマシンガンを取り落としやがった。




その時、俺は気付いた。


そうだ。まだ俺にはやることがあった。


俺はゾンビの一人として、他のゾンビたちと一緒に、この傍若無人な防護服の連中と戦わなきゃいけない。こいつらは絶対に許せん。


ゾンビたちは、たまたまかもしれないが、こいつらを足止めして、葵と陽奈を救助してもらうための時間を稼いでくれた。今度は俺が加勢する番だ。


葵にはくどいぐらい「死んだらダメよ」と言われたが……ゾンビ仲間が戦ってるのに、ひどい目に遭ってるのに、知らん顔なんてできない。俺もゾンビの一員だ。


どうせ放っておいても今日か明日には死んでしまうんだ。それなら仲間と一緒に戦って死のう。


葵、すまない。


俺はやっぱり、誰かがひどい目に遭ってるのを放っておくことはできない。それがネズミだろうとゾンビだろうと。俺はそういう奴なんだ。馬鹿なんだ。


行くぞ、ゾンビたち。俺も戦うぞ。


そう決意すると、俺の身体のどこにそんなエネルギーが残っていたのかと不思議なぐらい闘志と力がみなぎってきた。


よし、行っけー! おらおらおら!


俺は立てかけてあったモップをつかんで建物の中に飛び込み、転がり転がり階段を下りて建物の入り口付近まで走って行った。




そこで防護服相手に大暴れしていたのは……そうだ、青い制服の元警備員だ。


おっさん、生きてたか!


あ、いや、生きてはいないな。動いてたか!


ありがとう、おっさん!


俺はおっさんの横に駆け込み、建物に入ってこようとしている防護服野郎の頭にモップを叩きつけた。おっさんも負けじと突き技を繰り出す。


俺たちの勢いに押されて防護服はマシンガンを構えることもできず後ずさっている。ざまあ!


おっさんはちらっとこっちを見た。


白く濁った目と俺の目が合った。


おっさんは一瞬、物干し竿を振り回す手を止め、俺に向かって親指を立てた。笑顔になった。


俺も親指を立てて笑顔で応えた。


俺たちゾンビ仲間。そしてカップ麺仲間。


ヘイ、ブラザー! 脳みそが吹き飛び、腐った身体がバラバラになるまで、大暴れしてやろうじゃないか。


モップの柄をしっかり握り直し、防護服野郎をぶん殴る。ぶん殴る。


俺の理性は恍惚の中に溶けて行った。


みんな勝手にゾンビを哀れんでるが、ゾンビになるって、結構気持ち良いじゃないか。


元警備員のおっさんも、大学生たちも楽しそうに暴れ回ってる。みんなハッピーだ。俺もハッピーだ。


こんなハッピーエンドなら大歓迎だ。


ゾンビ最高! サイコー!


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