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ゾンビ先生は美脚がお好き  作者: 改 鋭一
三日目 「花嫁」
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取り引き

その後も報道関係と思われるヘリは時々飛んでくるが、救助のヘリは一向に現れない。


葵の両親も陽奈の母親も、その他にもいろいろな人が動いてくれてるはずなんだが……先ほどの119番の反応などから考えると、かなり上の方からストップがかかっているようだ。そうとしか思えない。


黄色い防護服の連中はきっとまた来るだろう。アップグレードして。


そうなったらいかにゾンビたちに守られているといってもかなりヤバイ


どうしよう……


その時、葵の携帯が鳴った。少し受け答えをして俺の所に持って来る。


「放送局の記者さんから、あなたに電話インタビューしたいって……ヘンなことしゃべっちゃダメよ」


葵は俺に電話を手渡した後も、横でジッと俺を睨んでいる。監視しておくつもりだな。


「ああ、山野先生、昨夜お話させてもらった折原です……」


昨夜、初めてきちんと話を聞いてくれた放送局の報道記者さんだ。ちゃんとヘリも寄こしてくれたんだから礼を言わないとな。


「ああ折原さん、お疲れ様です。ヘリを出して下さってありがとうございました。ちゃんと『絵に』なったでしょ?」


「ばっちりです。私自身がヘリに乗って行ってたんですが、先生、狼煙を上げて下さってたでしょ? あれですぐに場所が分かりました。SOSの字もよく見えましたし、すごく絵になりました」


「そりゃ良かった。視聴者の反響はどうですか?」


「それがもう、ものすごい反響ですよ。うちの局にも問い合わせが殺到してますし、何で早く救助を出さないんだって消防や救急にもすごい電話がかかってるらしいです」


ああ、だからさっきみたいな119番の対応になったんだな。ちょっと納得がいった。


「政府の方でもようやっと事態を認めざるを得なくなったようで、緊急対策本部を作るとか、そういう話が出てきてるみたいです」


当局としては、できれば生存者ごと全て闇に葬りたかっただろう。


ところが思いも寄らずSOSの映像がマスメディアで大々的に流れてしまい、生存者がいることが世間に広くリークされてしまったので、仕方なく形だけでも対策本部を……そんなところだろうか。


「先生、これからテープを回しますので、私の質問に簡単にお答下さい。もちろん答えにくいものはそのようにおっしゃっていただいて結構です。後で編集して11時半から放送の報道バラエティの中で使わせていただきます」


「ええ、了解です。何でも訊いて下さい」



**********



「……質問は以上です。先生、ご協力ありがとうございました」


「あ、折原さん、ちょっと訊きたいことがあるんですがいいですか?」


「もちろんです。どうぞ」


俺は記者の質問に答えながら思いついたことを訊いてみた。


「思い出したんですが、民間のヘリ会社でも山岳救助なんかで活躍してる所がありますよね」


「ああ、ありますよ」


「そういう会社の連絡先って分かりますか? 119番も110番も全く相手にしてくれませんし、素人が連絡して自衛隊が動いてくれるとも思えません。こうなったらもう民間に救助要請を出すしかないと思うんです」


「ああ、なるほど! 分かりました。とりあえずうちの局がチャーターしてるヘリ会社の方に問い合わせてみます。ただ、先生……」


担当記者は急に声のトーンを落とした。


「何ですか?」


「ひょっとしたら警察や救急の動きが悪いのは、上の方から何かブレーキがかかってるのかもしれません。となると当然、民間にも何らかの圧力がかかってるでしょう」


「それはそうでしょうね」


「実は、ここだけの話ですが……」


記者はさらに声を落としてひそひそ声になった。


「うちの局にも既にいろいろ圧力がかかってるようで、先生の先ほどのインタビューもそのまま流せるかどうか、本当は微妙なんです」


確かにあり得る話だ。政府としては極力情報を制限したいだろうからな。




しかしその時また俺の頭にヘンなアイデアが浮かんだ。


「折原さん、今の時点で直接インタビューを受けたのは折原さんの局だけです。もし何だったら今後、別の所から依頼があっても断ることにします。だから私のインタビューは『独占インタビュー』ということにしてもらって、会社の上層部の横やりが入りそうだったらそれを材料に取引してもらえませんか」


「先生、大丈夫です。番組ディレクターも正義に熱い男ですし、私とディレクターの独断で、もう全部流してしまうつもりです。政府批判の部分も含めて。だって、あまりにもひどい話ですからね」


「ありがとう、折原さん。恩に着ます。あ、そうだ、救助して欲しいのは女性二人なんですが、この二人が、とびきりの美女と美少女なんです。お礼にこの二人の独占インタビュー権も付けましょう。それこそ絵になりますよ」


睨んでる……横から葵が、すごい怖い顔で。


「ははは、先生、そりゃありがとうございます。いずれにせよ私も報道記者の端くれ、男として、啓蒙大の一OBとして権力に屈しないことを約束します」


「おお、あなたもここの大学のOBなんだ」


「そうです。私もOBとして母校の窮状を救うためできるだけのことをさせていただきます。じゃあ、今は時間がないので、とりあえず救助要請に応えてくれるヘリ会社を探しますね。また連絡します」


「ありがとう。本当にありがとう」


礼を言って電話を切るなり葵に噛みつかれた。


「また勝手なこと言って! 誰の独占インタビュー権よ!」


いいんだよ、これぐらいで。


地獄の沙汰も情報次第。情報イコール金だ。


そして情報に『独占』というプレミアをつければその値段は跳ね上がる。そしてそれが『絵になる』情報となればその価値はさらに何十倍にもなる。


民放であれば、それぐらいの金銭的価値があれば、多少の圧力があっても思い切って放送くれるだろう。




「もうあなたには携帯貸さないから!」


ご立腹の葵をなだめるのには時間がかかった。


そうこうするうち時計は正午を回った。


俺たちはいったん研究室に戻った。


今頃、俺の電話インタビューがお昼の情報番組で流れているのだろう。ここではそれを見ることはできない。何か変な気分だ。


葵は都内の別の大学病院に連絡をしている。もしヘリが迎えに来てくれても、行き先がないと飛べない。しかも到着後、念のためしばらくは隔離が必要だ。その辺の市中病院では対応できない。


葵は電話で、収容人数は「三人です」とまだ言っている。是が非でも俺を連れて行くつもりだ。


しかし俺は絶対に行けない。ぼちぼち話をはっきりさせないといけないな。


それと、陽奈の母親からまた電話があり、隔離壁の外側がすごい騒ぎになっていることを教えてくれた。


家族や知人の救助を求める人たち、隔離壁を維持せよと主張する人たち、いろいろな立場の人たちがぶつかり合い、俺達のSOSの映像が流れてからそれがいっそう激しくなってしまったらしい。


しかしそうなるとおそらく、銃を持った連中は動きにくくなるはずだ。人前でバンバン発砲することはできないはずだからな。


黄色い防護服の連中も動きが鈍ってくれると良いんだが。




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