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犠牲行為によって計画される道徳は半野蛮的階級の道徳である。

 理想に燃える若き青年は、善戦するも敗れて膝を突いた。その身体に無事な所は何一つない。右手を肩から失い、左手は魔法で黒焦げに変わり果て、顔の半分は戦鎚によって潰れていて原型を留めてはいない。その損傷で在りながら、青年は未だ倒れずに穴のあいた肺で息をしようともがいており、呼吸に合わせて腸と脳漿が体外へと漏れ出していた。

 一二人から九人に減った将校の中でもっとも若い者が、そんな状態の青年へと近づくと及び腰の格好で蹴りを入れた。青年の身体は抵抗することなく倒れ、僅かに痙攣するだけで呼吸がようやく停まった。

 一瞬の静寂の後、誰かが溜息を漏らした。


「惜しい人を失いましたね」


 魔術の乱用で汗みずくの聖女が言った。その言葉は果てた将校へ向けてではなく、青年に向けられたものであった。その武勇と知略は彼の師匠の若かりし頃にも匹敵しただろう。順当に行けば歴史に名を残す軍人になったに違いない。

 だが、世間を知らず、経験が足りなかった。

 自分の優秀さを当然と考え、弱い者達は『頑張っていない』『本気じゃあない』『手を抜いている』と思っている節があった。誰だって、時間さえかければ自分と同じことが成せると本気で信じていた。


「残念です」

「…………死体はどうしますか?」

「彼も含めて、全員綺麗に整えて埋葬します。敵の敗残兵が眠っていた彼等を襲ったことにしましょう。この尊き犠牲により、我々の正義はより強固なモノとなるでしょう」

「なるほど。口の堅い部下を呼んできます」


 幸いにも聖女の結界により、この騒ぎは外に漏れてはいない。

 強く逞しく誠実であった青年が卑怯な刃に倒れたとなれば、軍の士気も上がるだろう。

 だが、直ぐにその必要はなくなった。

 やって来た兵士が悲惨な青年の死体に近づき、その身体に触れた瞬間――彼の首が宙を舞った。


「!?」


 青年の凄惨な死体から、白銀の毛皮を纏った獣の肢が飛び出して兵士の首を斬り飛ばしたのだ。混乱する会議室の面々の心情を表すように、青年の身体から無造作に獣の部位が生え出し、混沌とした姿へと変容していく。


「っく! 魔王に落ちるか!」


 聖女がその正体を呟くと同時、おぞましい混沌の獣が死を想起させる声で吠えた。

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