私のスイッチ
私の胸にはひとつのスイッチがある。
それは心臓と同じようにドクドクと脈を打っている。触ってみると少し温かい。けれどずっと触っていると落ち着かない気持ちになる。少し強く押してみるとびっくりするくらい痛い。
周りの人を見てみても、胸にスイッチがある人は居ない。
みんなは物珍しそうに私のスイッチをジロジロと見た。時にはスイッチを押して私の反応を楽しむ人もいた。私は痛くて声も出ず、その人は満足そうに笑ってどこかへ消えた。
涙を堪えていると、別の人が大丈夫かと声をかけ背中を優しく撫でてくれた。
けれどその人の目は私のスイッチをじっと見ていた。
ある日、みんなが私のスイッチを指さして可哀想と呟いた。可哀想という言葉が聞こえる度、私のスイッチの脈は早くなっていく。誰もスイッチに触ってないのに、何故だか痛みを感じる。
スイッチがあると可哀想なんだと、その日分かった。
私はスイッチが嫌いじゃない。けれど、みんなは私のスイッチがとても嫌いなんだそうだ。
誰にも迷惑をかけてないのに、ただ私の胸にそっとあるだけなのに。この温かくて、かわいくて、愛おしいスイッチは存在してはいけないものなんだって。
まるで私の為だと言わんばかりに、それが正義であるかのように、それが救いであるかのように。
私のスイッチは、みんなの手によって、私の胸から引きちぎられた。
良かったね、そう言ってみんな笑った。誰の目にも、私の胸から流れる赤色の液体は見えてなかった。私の流す涙は、嬉し涙だと思っているようだった。
私の胸にはひとつのスイッチがあった。それは確かに私の胸にあった。温かくて優しくて脆くて弱くて、愛おしい私のスイッチ。
今はもう冷たくなって動かない、私のスイッチ。
私のスイッチは無くなってしまったけれど、もしあなたが同じようなものをまだ持っているなら、大切にしてください。
Twitter(@R_xRR_xR)に私のスイッチのイラストを載せています。宜しければ見てください。