2話 知ってる天井
目を覚ますとそこは知らない…いや知ってる天井。起き上がって周りを見渡すと何故か懐かしいような見慣れた病室だった。
粗末なベッドだが寝心地は良かった。
起きあがって見ると頭痛が止まらなかった。記憶がはっきりしない…
部屋の扉が開く。
「おや、レンや目が覚めたかい。このまま目を覚まさないかと思って心配したんだよ。娘も息子同然の彼も…孫まで居なくなるかと不安だったよ…」
おばあちゃん?(自分の祖母である。父と母が居なくなる?)
祖母は一連の騒動を順を追って説明してくれた。
自分が診療所を手伝っていた時、村の境界部で騒ぎが起きた事。
それは吸血生物やロウモンスターの群れだった事。
村の自警団だった父は救助活動を行いながら応戦し、犠牲になってしまった事。
自分が診療所から飛び出して母を助けに行った事。
火事の中、玄関近くで母を見つけた時、母と自分が吹き飛ばされた事。
母は目を覚ましたが記憶喪失になってしまった事。
その後王国の援軍がなんとか魔物を退けた事。
「父さんがいなくなってしまった…」気付くと自然と涙が流れていた。
父は村の中でも二番目の強さだった。ロウモンスターを退けている時、
爆吸鬼が後方に出現、不意打ちで為すすべが無かったそうだ。
これは父との親友でよく一緒に遊んでもらった同じ自警団のアレックスさんがお見舞いに来た時、教えてくれた。彼はその事を悔やんで病室で涙を流してしまったが自分は俯くことしか出来なかった。
更に二日後、祖母からもう退院してもいいと言ってくれた。
「今は辛い時だ。まだ、気持ちに整理がつかないなら休んでいなさい」
自分は袖で涙を拭う。
「大丈夫…明日から診療所を手伝うよ!なんでも言って。とりあえず、村の周りを見てくるよ」
これは決意の表れだった。気持ちが高ぶっている。強くなれと。この想いは井上丞では無く
レノンハルト・アルベルトの強い願いだった。そしてその自我は眠りに着く。
「元々、8歳とは思えない落ち着きだったけどあんなに心の強い子は見たことが無いよ…無茶しなければ良いけどね…」
期待と不安が入り混じる祖母とは裏腹に強い覚悟と決意を固めたシンリーだった。
<補足>
吸血生物・ロウモンスターは
未知の大地ソルンから襲来する生態系不明の知能のない魔物群