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図書館でピックアップした本を借りることができた。
早速一通り読んでみる。
まあ、教養本としては面白いだろうか。例えばほとんどの日本人が知らないこと、ミレーの晩鐘と種まく人、どちらが宗教画でしょうかと聞かれたらほとんどの人が、晩鐘を選ぶだろう。
残念ながら、答えは外れ、種まく人が宗教画だったりする。
種はいわゆる教義、そして種をまく人とはそれを布教する宣教師なのだとか。
そして、解るかそんなもんと思われるのは祈る女の膝にじゃれる猫。これは悪魔なのだそうだ。どう考えてもただの風景画だが、祈りを妨害する悪魔の象徴として猫が書かれているらしい。
ま、確かに猫を魔女狩りで火に投げ込んだという歴史はあるけど、うーんとなってしまう。
この本には姉貴の言っていた犬と猿も書いてあり、ほぼそのまんまだった。
最後まで読了したのだが、残念ながら、参考になりそうなものを見つけることができなかった。
蝶とかの象徴は、死後の魂。個人を特定できるもんじゃねえ。
鏡は虚栄と書いてある。そして扇はなかった。
もちろん、すべての象徴が書かれているわけではないだろう。とりあえず、そういう裏の意味があるというのは本当だとわかっただけで収穫といえるような気もあるようなないような。
鏡、扇、蝶。
この三つで何が表現できるのか。あるいはこのうちどれかがはずれなのだろうか。
とりあえず、他の本を探す。もしくは二階堂の同じゼミを受けていた教授なり同期なりを当ってみるというのはどうだろう。
もしあれが暗号であるならば、それを読み取れるとしたらそのあたりを狙っていたと考えられる。
そういえば、そうした連中はどうしたんだろう。
俺は二階堂の通っていた大学の住所を確かめた。
いきなり言ってみるしかないだろう。たぶん誰かしらいるかもしれない。
俺はいろいろ焦っている。どうも警察はより多く姉貴を疑っているという話を聞いたのだ、焦らないはずがない。
何とか、同じゼミを受けていた一人を探し当てた。
ちょっと線の細い、今日見て明日忘れそうな顔をした男だった。
いわゆる灰汁のないのっぺりとした顔。それにあとちょっとで七三分けになりそうな髪型をしていた。
「ああ、二階堂ねえ」
多少の同情の視線を感じた。
「あいつ、家は金持ちだしそこそこルックスはいいしでまあ、もてたんだけどね、だけどすぐに浮気されたって言って女は別れるわけ、それを何度も繰り返せばまあ、学内であいつと付き合おうなんて女はいなくなったわ」
以外でもない私生活を教えてくれた。
「それでも、まあ、今度の事件が起こるまではそこまでひどかったのかということはわからなかったわけ。まあ教授が怒るの怒らないのってねえ」
うんうんと腕を組んで滔々と語ってくれる、彼はそれ穂とあの腐れ外道の死を悼んでいるわけではないらしい。