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ダイイングメッセージというものは、その場で解かれては意味がない、しかし後で解けなければ意味がない。
おそらく大学の専門用語みたいなもので、犯人にはわからなかったが、後で死体の状況を見ればわかってもらえると思っていたのではないだろうか。
だとすればたぶん姉貴の言っていた寓意というものが鍵だろう。
「というわけで、ひたすらググれ」
引き籠っているならそれで多少は建設的なことをしてもらおう。
「俺は図書館で調べ物をしてくる」
そして思い出す。
「扇を見たことあるんだ、どんな蝶だった?」
「たぶん、胡蝶図みたいな特定の蝶とはちょっと違う?」
紋白蝶とか揚羽蝶などではなかったようだ。
自分の部屋で、そういう関連の本のタイトルを確認する。
参考になりそうな本のタイトルをメモしてから、まずは一休みだ。
今んとこ親は頼りになりそうにないので祖父さんが手配してくれた弁護士の電話番号をスマホに登録する。
弁護士は山田さんというまあ、あの一番の特徴はサザエさんに出てくるお父さんのような髪型だろう。
さらに丸い鼻眼鏡に丸い団子鼻の下にちょび髭まで蓄えている。もはや目指したとしか思えない。
山田さんは資料をまとめながら、俺の顔を見てため息をついた。
「警察の心証はかなり蝶子さんに不利になっているようんんだ」
扇谷誠、扇を握って死んでいたということで真っ先に容疑者になりそうな相手なのだが、この女の人間性によって容疑を免れそうなのだ。
つまり二階堂の同類。男関係が特にだらしなくさらに金にもだらしない。
二階堂が複数の女をひっかけて遊び惚けていたのを承知で付き合っていた。むろんのこと扇谷も複数の男と関係を持っていた。
まあ、そういう女なのだ。
扇谷にとって恋愛はあくまで遊び、真剣にやるもんじゃない。
金で人を殺すことはあっても愛で人を殺すことは決してない女。
金銭トラブルなら真っ先に容疑者になりそうだが、恋愛トラブルならどうだろうという。
「まったく同類なら同類同士でいればいいのに」
山田さんがため息をつく。
「姉は自分が騙されていたことをやっこさんの死亡宣告を受けるまで知らなかったと言っていますが」
「悪魔の証明ってやつだ。知っていたことより知らなかったことのほうが証明することが難しい」
「あの扇って、殺した後に握らせたもんじゃないんですか?」
「いや、その可能性は薄いようだ、かなりしっかりつかんでいたらしい」
山田さんの言葉に俺は少し頷いた。
やはりおかしい。