第九話 別れとログアウト
土を踏みしめる複数の音と、風に揺れる木々のざわめきが始まりの魔森に響いている。
僕は周りをぐるりと一周見回して見る。
すると四方…全方向が同じ景色で東西南北の感覚が麻痺しそうだ。
「僕たちプレイヤーにはマップ機能があるので心配無いけど、NPCの人とかにはこの森は危険過ぎるな」
「ええ。一周回っただけで今まで向いていた方向が分からなくなるもの」
と、そんな会話をしながら僕たちは魔森を進む。
すると木々の隙間から陽の光が僕たちを差した。
どうやら魔森の開けた場所に到達したらしい。
「…よし、マップも書き足されてるからこの先はまた今度行こうか」
「分かったわ」
このゲームでは先程も述べた通りマップ機能がデフォルトでプレイヤーには搭載されている。
だがこのマップは最初から全てが分かるというシステムでは無く、自分が通ったことのある半径10mをマップに自動で書き足されるシステム。
一部のプレイヤーの中にはこの世界を歩いて全土の地図を作成し、それを売ってお金を貰っている者もいるのだとか。
「よし、後は帰るだけやね…」
僕はそう呟いて「ふあぁぁ」と大きな欠伸をした。
僕たちは少し休憩した後、再び足を動かし始めた。
レベルによる恩恵は凄まじく、体感で二時間程歩き続けたのに怠惰感の欠片も無かった。
帰り道は行きと違い心臓に悪いアクシデントは発生することは無かった。
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始まりの街に着いたのはゲーム内での夕暮れ時。
沈みかけている人工の太陽は現実のものと比べても然程の違いは無く、広大で美しい。
「それじゃあまた機会があればよろしゅうな。…ま、僕は基本一匹狼やからあんまり一緒には出来ひんかもやけど」
僕が言うと四人が「えー」と不服を顔に出した。
「…でもお兄さんに頼り切りになるのは何か違うと思うし……俺たちも四人で頑張ります!」
「そのいきやで」
僕は言い、オプション画面を開ける。
そこには多数のディスプレイが表示されており、その内の一つに『ログアウト』という欄があるのを確認した。
「今日はお世話になりました…柚子たちもまた今度な!じゃあ!」
優星君は言うと、光の粒子となって虚空に消えて行った。
今のがログアウト完了の合図。
続けて加奈子ちゃんも消え、鈴ちゃんも消えた。
「それじゃあ一足お先〜」
柚子もログアウトした。
「ほな僕ももうそろそろ落ちようかな…」
僕はログアウトをタップしてゲーム世界から離脱した。