第八話 名付けと小さな戦力
「おい柚子ちょっと」
「あ、テイム出来たみたい!」
優星君の制止の声も聞かずに柚子はテイムを成功させてしまった。
「ほら皆、この子もう私に懐いたみた…って何でそんなに怒ってるの?」
優星君が一歩前に出て柚子に言う。
「一瞬前までその子は野生の魔物だったんだぞ!俺だけじゃなくて皆柚子のことを心配したんだ!」
「う…ごめん…」
柚子は普段見慣れていないのであろう優星君の怒りを露わにした顔を見て、流石に反省した様だ。
優星君の言う通り、僕も心配した。
回復ポーションはPKから落とし物として回収していたけれど、ポーションには回復できる限界がある。
それに相手は序盤に登場する魔物と言ってもこちらは初心者。つまりステータス面が心許ないのだ。
「これに懲りたら次からは勝手な行動を控えんねんで、ええな?」
僕は今だ俯いて落ち込んでいる柚子にデコピンをしてこちらを向かせる。
一人の行動が予期せぬ事態に繋がるのは良くあること。だから僕は柚子に知っていて欲しかった。
「それでその子の名前は何にするんだ?」
優星君が話を変える。
テイムと言うと、野生の敵を手懐けて自分の仲間にするという有名な特殊行動。
手懐けた時、主人となるプレイヤーはその魔物に名前を付ける権利が与えられ、それと同時に幾つかの注意事項を知らされる。
「んー……フワフワしてて真っ白だからユキなんてどうかな?」
「柚子にしては普通なネーミングね」
「でも私は可愛いと思うよ!」
「俺も鈴に同意だな」
柚子は僕の方にも向いて意見を求める。
僕は「ええんやない?」という念を込めてコクリと頷く。
すると柚子は嬉しそうにテイムモンスターを抱きしめてモフモフした。
僕たちはその光景を見てさっきまでの雰囲気はどこへやら…と思った。
「可愛らしい戦力も増えたし、今日はもうちょっとだけ先を覗いてみようか」
「さんせーい!」
欲しい物が手に入ったかの様に喜んでいる柚子は頭にユキを乗せて言う。
優星君が加奈子ちゃんと鈴ちゃん、僕に確認をする。
僕たちは頷き承諾した。
「それじゃあ行こうか」
僕たちは先程までの隊列に一匹のテイムモンスターを加えて再び歩き出した。