第七話 僕の妹は危機感に疎い
始まりの魔森の少し深い所に入った僕たちは先程に増して警戒心を強め、緊張感も持った。
「優星魔物の気配は?」
「今の所は何も…」
僕はそのやり取りを見てニコリと笑みを浮かべる。
二人のやり取りは現実から成るもの。そう分かっているからこそ僕はより二人の関係に興味を持った。
「なあなあ鈴ちゃん」
「は、はいっ…どうかしましたか、お兄さん?」
僕は近くにいた鈴ちゃんに小さな声で素朴な疑問を投げる。
「優星君と加奈子ちゃんて付き合うてんの?」
「なっ!?」
僕に質問された鈴ちゃんは少し狼狽える。
「いやね、二人ともさっきからのやり取り見てたら熟年の夫婦みたいやない?」
「た、確かに見えなくは無いです…」
この反応を見るに二人は付き合っていないのだろう。
ならば本人たちに聞けばいい。
幸い今は何も感じないし、優星君の気配感知にも反応は無いみたいだし。
「なあなあ優星君」
「ッ!…どうしました剣疾さん?」
自己紹介をしてここに来る途中で優星君は僕のことを『剣疾さん』と呼ぶようになった。
「優星君と加奈子ちゃんて付き合うてんの?」
僕が言うと優星君の後ろを歩いていた加奈子ちゃんが顔を真っ赤にして反応する。優星君の顔も赤くなっている。
ほうほう…これは…。
「な、何言ってるんですか!」
「そ、そうですよ剣疾さん!」
二人の似た反応に僕は「似た者同士やね」とからかう様にして言うと二人とも息を合わせて「そんな訳あるわけないじゃ無いですか!」と言った。
僕が二人をからかって遊んでいると、左の方から何かを感じた。
どうやら優星君もそれに気付いた様で、皆に警戒するように言う。
各々は武器をすぐに抜けるように腰を落とし、武器の持ち手に手を掛ける。
ガサガサッ
「ッ来る!」
ガサッと音を立てて林から現れたのは獰猛そうな魔物。
ではなく
「キュイ?」
ウサギの様な見た目をした魔物が、首を傾げて僕たちを見ていた。
そしてその魔物に真っ先に反応したのは他でも無い僕の妹である柚子だった。
「おい柚子!」
優星君が駆け寄る柚子に向かって制止の声を掛けるも、当の本人に声は届いていないのか足を止めない。
「見て見て!凄い可愛いでしょ!」
無邪気に笑う目の前の少女は僕の妹。
確かに可愛いが相手が魔物だということを忘れているのだろう…。
呆れた…。
「ん?何なに…この子テイム出来るらしいよ皆!」
僕たちは予想外過ぎる展開に肩を竦め合った。