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少し不思議で怖いショートショート集

『ネットゲームの中の男』

作者: 藍田 海辺


 「そんなにネットゲームが好きなら一生やってれば?」


 ネットゲームばかりやっていた頃、両親に嫌味たっぷりにこう言われた事がある。だが、ついにそれが現実となったのだ。


 なんと、俺は夢中になってやっていたVRMMOゲーム『ドラゴン・ファンタジー』の世界に入り込む事ができたのだ。夢の中に神様が現れ「ゲームの世界に転移したくないか?」と聞かれたのだ。


 俺の答えはもちろん決まっていた。


 翌朝、俺が目覚めたのはいつもの自室のベッドではなかった。ドラゴン・ファンタジーの舞台、アゼルディア大陸の中心都市セントローザの宿屋のベッドの上だったのだ。


 これで一生この世界で生きていける!


 俺は歓喜に打ち震えた。今までは現実の合間にネットゲームをやる生活だったが、これからは24時間ずっとネットゲームに打ち込めるのだ。

 ライバルや仲間がいない時も俺はせっせとレベルを上げ、レアアイテムを発掘しにダンジョンに向かい、ひたすら強敵を倒し続けた。


 そのおかげもあって、あっという間に俺はこのゲーム内でトッププレイヤーになることができた。24時間ずっとゲームの世界で暮らしているのだから当然だ。


 ゲーム内では睡眠も必要ない。キャラクターにそんなものは必要ないからだ。腹も減らない。ずっとゲームだけに打ち込める快適な環境だった。


 ただ、週に一度のアップデートの時だけは意識がなくなってしまう。まあ、これが睡眠のようなものだと思えばいい。


「ダークナイトさん、すごく強くなりましたね。いやあ、僕なんかもう追い付けないなあ」


 よく一緒に行動していたゲーム仲間からも羨望の眼差しで見られている。ギルド間の対抗戦でも大活躍し、仲間からの信頼も一手に集めることができた。


 俺こそがこのゲームの主人公だ。そう思うようになっていた。


 だが、少しずつ周囲に変化が現れ始める。いつも一緒に行動していた仲間がだんだんとログインしなくなってくるのだ。どうやら学業や仕事が忙しいらしい。まあ、そこが現実の身体を持つ人間の損な部分だよな、と思いながら俺はあまり気にせずゲームに打ち込む。


 やがて、ゲームの中のプレイヤーの数も少しずつ減っていった。

 さすがにこれはまずいと思い、俺は頑張って新規プレイヤーを増やそうと努めた。新しく始めたプレイヤーを見かけたら積極的に声をかけ、強い装備を渡したりするなどしてこの世界に馴染んでもらえるよう頑張ったのだ。

 だが、それも焼け石に水だった。


 それでも俺にとってはこの世界こそが全てなのだ。


 見知った仲間がいなくなり、新しいコンテンツが追加されることも少なくなったが、それでも俺はこの世界で戦い続けた。


 そして、迎えたとある日。


「あれ、ダークナイトさん。お久しぶりですね。やっぱりまだやってたんだ」


 その日はどういうわけか街が物凄い数のプレイヤーで賑わっていた。かつて共に冒険をした仲間、ボス討伐を競い合ったライバル、様々なプレイヤーがそこにはいた。


 俺の苦労が報われた。このゲームに人が戻って来たんだ。俺は泣きそうになっていた。


「ダークナイトさん。泣いてるんですか? そりゃそうですよね。僕もこのゲームが終わるって知って悲しいですよ」


――え?


「あれ、知らないんですか? このゲームは明日でサービス終了なんですよ。だから最後くらいは、って思ってみんなログインしてきてるんです」


 サービス終了。どのネットゲームにも確実に訪れる終わりの時間だ。

 そうなればキャラクターのデータは削除され、このゲームの中にあった全てのデータは消え失せる。プレイヤーはそのゲームを離れ、また別のゲームをプレイしたり、あるいはゲームを止めて現実世界で頑張ったりするのだろう。


 でも、俺にはもう現実世界なんてなかった。この世界が俺にとっての現実だからだ。


 もうすぐ日付が変わる。

 サービス終了までのカウントダウンを聞きながら、俺は一体どうなってしまうのだろう、と空を見上げていた。


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