2.土地探し
「まずはこの地図を見て下さい。これが世界地図です」
うん、なんか広い。どうしよう。これは絶対悩む。
無難に街に住んだ方が良いのかも。
「街はありますか?」
「ございます。が、おうちは育てられません。主に売買や交流、食事、宿泊を行う場所と考えて下さい。おうちと街の移動は自由に転移出来ますので不自由はありません」
おうちは育てるものなのね。ゲームタイトルで知ってたけどいまいち分からない。まあ、しばらく遊べば分かるか。場所については街が駄目なら、友達と近くに住みたいときはどうなるのかな?教えてミミさん。
「友達とお隣さんになりたいときはどうすれば?」
「グループ設定で村を作ることが出来ますので、村に招待して近くに住んでもらいましょう。森深くに一人で住むということも出来ますし、慣れなければ自分から引っ越せます。にぎやかなのは苦手だけどひとりは寂しいという方にはゲーム内の住人が引っ越してきてくれる場合もあるので、まずはおうちを育てることを優先しましょう」
なるほど。なかなか自由な感じになってるんだね。私はどうなっても楽しめるかな?差し当たっての問題はやっぱり場所だよね。地図を見る。
「地図で影になっているところは使用出来ない土地です。候補地は森、山、川辺、温泉、荒野、密林、砂漠、雪原と場所は様々ございますので選ぶ不自由はないかと」
でもこれだけあると、もう何が何やら。
「おまかせもございます」
「おまかせで」
ミミさんに任せれば何も問題ないんだよ。ミミさんへの信頼度MAXですよ。
「ふふ、では候補地へ下見に行きましょうか。その前にアバターとの同期をはじめましょう。目を瞑って10秒数えてください」
10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 ぱちり。
アバターが居た場所には元の鏡が置かれている。鏡には変更された姿の私。動いてみると、ふんわりとした柔らかな印象を受ける。ぎこちなく笑ってみると鏡の中のステラも笑った。
結構すごい。すごくいい。最新VRってスゴいなぁ。仕組みはよく分からないけど、色々な技術が使われてるんだろうなあ。
そんなことを考えつつ、色々なポーズをとってしばらくぼんやりと鏡を眺めていた。
忘れてた。ミミさんがいるのだった。視線をミミさんに向けると、
「可愛らしいですよステラ様。内面の魅力がちょっとした仕草で感じられてとても素敵です」
お上手ですね、この老紳士。照れるので誤摩化すように候補地出発を促しました。
「では参りましょう。転移に慣れておられない方は酔い易いので、また瞳を閉じられた方が良いかもしれません」
そう言うとミミさんが私の隣に並ぶ。羽もないのにどうやって浮いてるんだろう。謎だ。
ミミさんの合図と同時にくるくるステッキが回転し出した。回転速度がすごいですね。転移って大魔法なんですか?うっすら目を開けていると徐々に視界が白く塗りつぶされていくので慌てて目を閉じました。
◇
視界に色が戻ると一面の緑。大草原。
なだらかな丘と麓が森になっている山も見える。湖もあって川も流れているのかな?色々詰め込みましたねーこの場所。よく見えないけど、あそこのは湯煙?
「なかなか広くて良いところでしょう?ひとにはまだ発見されてない場所ですから穴場ですよ」
さらっとスゴいこと言いましたね、ミミさん。未踏の土地とか大丈夫なのか?……あれ?……やけに大きめな道らしきものも見えるんだけど?未踏の土地じゃないの?
視線をミミさんに向けると、にっこり笑いながら答えてくれた。
「ああ、気付かれました?あれは大昔にこの辺りに住んでいたものが使っていたんですよ。色々あってここも平原になってしまいましたねえ。道だけは残ったみたいですが」
色々って?
「色々ありましたねー」
ミミさん遠い目をしてる。というか、おいくつですか?あなた。
…………ま、まあいいか。本当に良い景色だ。
「ミミさん。人里離れてても大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫ですよ。転移魔法は標準装備なので。他の方がここに来るにはステラ様の招待がないと来られませんけどね」
不便はないのかな?にしてもここはどこなんだろう。
「ここは地図だと、どの辺りですか?」
「ああ、ごめんなさい。場所の説明がまだでしたね。場所はここです」
ミミさんが指し示したところは東の海。島も何もない海。えっ?
「地図には記されていないんですよ。忘れられた孤島なので。島の地図は作ってあるので出しますね」
ステッキくるり。
武器、ステッキにすれば良かったかな?ステッキが私の中で万能道具扱いになりつつある。
地図を見ると南が小さな入り江になっているのかな?
周りが山に囲まれているからカルデラの島っぽい。
もしかして火山も活動中?
これ王道RPGだと終盤に解放される隠れ里系の島だー!
「どうでしょう?」
「はい、ここに決めます」
即答でした。
「では島中央部が良いかもしれませんね。中央部ならおうち近くに果樹園や畑などを作ることも出来ますし、入り江や森などへの移動も楽になります」
なるほど。なら、あの大きな道も活用したいなあ。アイテムバックがあるみたいだから荷物の移動は心配ないんだろうけど、色んな場所を探検するのにあの道は便利そうだ。
「あの大きい道から小道を伸ばすのって大変でしょうか?」
「そうですね。ステラ様次第ですね」
「私次第?」
地道に工事するしかないのだろうか?人の手の入ってない地面って結構堅くて整備するの大変だってのは知ってる。そんな体力ないよ。うんざりした顔になっていたのだろうか?そんな私の態度を見てミミさんが首を振る。
「お考えの作業とは違いますよ。家周りの整備は割と簡単に出来ますが、どう作るかという指針と言いますか、イメージの明確化が必要なのです」
「計画書みたいなものを作る必要があるってことですか?」
「ええ、やり方は色々とあります。まずは、この眼鏡をどうぞ」
眼鏡をかける。ミミさんモノクルですか。ますます素敵執事。
「このように簡易道ツールで地図に書き込むと……」
「道が伸びた?」
「実際には伸びてません。眼鏡を外して下さい」
「あ、ほんとだ」
「実際の景色を見ながら計画が練られるのが、この眼鏡の効果です。まあメニューのオンオフでも出来ますが」
何故かけさせた。
「気分が出ますでしょう?」
あ、はい。
「メニューの地図から行う作業にも制限はございます。また他の方の土地が隣接する場合、計画を実行するときに許可が必要になります。そういうとき村を作っておけば、スムーズに承認作業が行え、一貫した村づくりがし易い訳です」
なるほど。
「この島に関しては今のところ人が居ないので、当面は好きに開拓出来ると思います。思うようにされるのが一番でしょう」
周辺環境はとりあえず置いておいて、まずはおうちだね。
「では島中央部に向かいましょうか」