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1.育てるおうち

 今日は休み。久しぶりに近くの家電量販店にでも行こう、と急に思い立ったあの日。


 ああ、いきなり失礼。この物語の主人公です。

 VRゲーム《育てるおうち》で遊ぶキッカケを教えろと誰かに言われた気がするので、皆さんにお伝えしていますよ。


 家電量販店にいったあの日、暇つぶしに見て回っているとVRゲーム機を見つけたのです。

 世間ではVRがかなり普及し、VRゲーム機は私でも買える価格になっていました。

 興味はあったのですが、アクションRPGは少し苦手。

 以前に体験したとき、わーっと襲ってくるモンスターが迫力あり過ぎてこわかったのです。

 レースやシューティングは上手く出来る気がしないし、VRゲーム機を買うのはまだ先かなーと思っていたのですが、運命的な出逢いがありました。


 《育てるおうち》の発売を知らせる店頭映像を見たのです。


 一瞬でその世界観の虜になりました。

 リアルなのにファンタジー感あふれる世界。

 王道な世界に自分だけのおうちを建てるというコンセプト。

 戦いも迫力重視ではなく、可愛いモンスターと対決みたいな感じでまったりと楽しめそうです。


 すぐにゲーム機を購入し、《育てるおうち》の予約受付を済ませ、ゲーム開始のその日を待ち続けたのでありました。


 ◇



 サービス開始の午前10時。

 この日のためにゲーム機の設定も済ませ、何となく部屋の片付けも済ませ、思いつく限りの用事も済ませ、買い物も済ませました。

 心置きなくゲーム開始です。


 ◇


 ログインしました。あ、デモで流れてたおうちの中だ。あったかい家って感じで良い雰囲気。

 しばらくキョロキョロとあたりを見回していると、急に声をかけられる。ビックリした。


「はじめまして。《育てるおうち》の世界へようこそ」


 なんだか丸くて白い光が語りかけてきます。応えなきゃ駄目なのかな?


「は、はじめまして。」


 緊張。


「はい、はじめまして。緊張されていますか?リラックスして下さいね」


 ……優しい。好き。


「ゲーム開始のサポーター《妖精のミミ》と申します」


 白い光が消えると、白髪で執事服のちっちゃいおじいちゃんが現れた。妖精執事とかレアですね。

 優しそうなお顔にホッとします。


「ミミさん……よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。ゲームを始めるにあたっていくつか質問があるのですが、よろしいですか?」

「はい」

 ミミさんがにっこり笑うので、思わず笑い返して答えました。


「VRゲームは初めてでしょうか?』

「はい」

「性別は……女性……でしょうか」

「はい」

「ゲームの中でのお名前を教えて頂いてもよろしいですか?」

「えーっと……ステラで」


 名前はちゃんと決めていたのです。世界観に合うような感じで。


「ステラ様……とお呼びしても?」

「はい」

「ありがとうございます。ではアバター作成をはじめましょう。アバターはゲーム内でのご自身の姿です。身体データを元に自動的に作成後、好みの容姿に変更可能となります」

「わかりました」

「では、部屋の奥に見えます鏡の前へどうぞ」


 ミミさんに案内されて鏡の前に立つ。すると鏡がぐにゃりと変化して、普通の顔の……標準とはこのことだと言うべき普通の女の子になった。


「こちらが標準的な容姿となります。最低三カ所は変更して頂かないとゲームは開始出来ません。ステラ様ご自身で変更されても良いですし、おまかせで選ぶことも出来ます」

「おまかせでお願いします」


 即答です。自分でなんて迷うに決まってる。


「分かりました」


 とミミさんが片手を上げると何もない空中からステッキが現れ、くるりと回る。

 すると標準女子が輝き出し、プラチナの髪、瞳は琥珀(光の加減で金色)のおとぎ話に出てきそうな狙ったかのような可愛らしい女の子に変更された。

 アリスとかいう名前が似合いそうだ。いやステラですけど。


「どうでしょうか?」


 ミミおじいちゃんがにっこりと笑う。私のアバターにしては可愛すぎると言いたい。

 まあゲームだしいいか。ミミさんをガッカリさせたく無いし、可愛くて何が悪い。


「ありがとうございます。とっても可愛くて気に入りました」

「そうですか。そうですか」


 ああ、孫を見るような優しいその目。私、弱いです。


「では次に武器を選びましょう。武器はモンスターに力を認めさせるために必要なものです。心に思い浮かんだものを教えて下さい」


 うーん、ポップなデフォルメ戦闘とは言え、斬ったり衝いたりするのは好みじゃないなあ。ファンタジーとくれば魔法だよ、うん。魔法の本とかどうかな?


「えーっと本です。魔導書というのかな?それが心に浮かびました」

「魔導書ですね。ございます。今、武器庫にあるのは精霊の書と白紙の書ですね。私としては白紙の書をおすすめします。やや癖の強い書ですが、お店で入手するのが難しいため精霊の書より貴重です」


 初期装備って選べるんだ?


「魔道書はどういったものなんでしょう?」

「エレメンタルと呼ばれる精霊に力を借りるための書です。精霊を呼び出すと精霊魔法が使えます。表紙の色によって呼び出す精霊の属性が変わります」


属性って火とか水とか?


「精霊の書は使いこなせるようになると強力な魔法を覚えることが出来ます」


 ひとつの武器を使い込む方がいいのかな?


「白紙の書は助けてくれるモノが決まっていません。そのため効果がランダムで安定しないのですが、使いこなせれば非常に頼もしい書となるでしょう」


ギャンブラー感ありますね。どちらの書を選んだとしてもじっくりと使うことが重要そう。


「武器は成長するのですか?」

「そうですね。武器は持ち主の経験により成長します。また武器屋や個人で改造が可能です。自分好みに見た目や能力にアレンジすることが出来ますよ。色々と試すのなら店売りのものを別に購入されたら良いかもしれません」

「ああ、なるほど。お店で入手出来るんですね。で、あるなら入手難な白紙の書の方が良いと」

「ええ。ただ……扱いにくさと初期能力が低いというデメリットが白紙の書にはありますね。精霊の書を選んだ場合には白紙の書と価値が釣り合うように2冊進呈しますので、これらを踏まえた上で、ユニーク武器を選ぶか即戦力となる武器を選ぶか決めてください。ちなみに武器追加購入はそこそこお値段が張ります。」


 うーん悩む。


「精霊の書は相棒を決める。白紙の書は友達をたくさん作るみたいなイメージでしょうか。装備の変更は戦闘中でも行えます。」


 堅実にいくなら精霊の書だけど、使ってて楽しそうなのは白紙の書だなあ。ミミさんのおすすめでもあるし、うん白紙の書で。


「白紙の書でお願いします」

「白紙の書でございますね。かしこまりました」


 ミミさんがステッキをくるりと回すと、アバター女の子の手に白紙の書が現れた。革張りで高価そうな本に見える。表紙には細かな宝飾が付いていて綺麗だ。


「最初のページにお名前の記入をお願いします」


 白く輝く羽ペンをミミさんに渡される。


「ステラと書けばよいですか?」

「はい」


 ス テ ラ と書いた。すると書はふわっと光りながら浮かび、高速でページが開かれていく。

 お、おうファンタジー。やがて光は収まりパタンと閉じられると、革張りの表紙がプラチナ色に染め上がっていた。


「綺麗な星色に染まりましたね。ステラ様の御髪と同じ色です。白紙の書は《ステラの書》ステラ様専用魔導書となりました」


 専用っていいね。剣とか槍とか選んだ人はどんな風に変わるんだろう。気になるね。


「次は防具です。防具はお好みのものを着ることが出来ます。防御力を気にせず、気分によって変更を楽しめます。お金はかかってしまいますが……」

「自分の好きな服で遊べるってことですか?」

「はい。どの防具を選んでもほとんど性能差はありません。代わりに様々なパッシブスキル……自動で発動する能力が付与されています。防具製作者ならば、ほぼ自由にパッシブスキルの付け替えが出来ます」


 好きな服が着られるって言うのはいいな。スキルの付け替えというのはよく分からないけど、服を自分で作ればそれも自由に出来るのかな?聞いてみよう。


「防具は自分でも作れますか?スキルも自由に?」


「はい。防具はご自身で製作することも出来ます。スキルはランダム付与ですが、使う素材によりある程度の傾向はございます。製作はすべて手作業で作らずとも、オートで実行後に手作業でアレンジなんてことも可能ですよ。そのアレンジの項目にスキル付け替えがあります。ただ今回はこちらのカタログから選んでもらう形となるので、すぐには行えませんが」


 ミミさんのステッキくるりで分厚いカタログが現れます。

 カタログ見るのは楽しそうだけど、こういうのはゆっくり見たいなあ。なんて考えながら悩み顔を浮かべるとミミさんが、


「おまかせもございます」

「おまかせで」


 ミミさんに丸投げです。


 ステッキくるり。


 すると、アバターの姿が標準服から、赤ずきんちゃん的なフードの付いたかわいい洋服に。濃紺と白が組合わさった落ち着いた色。髪色が映えるように考えてくれたのかな?


「素敵です。ミミさんありがとう」

「いえいえ。気に入って下さって良かった。パッシブスキルは《幸運》となっております。追加で2着だけですが、カタログで無料注文が出来るのでお時間のあるときにどうぞ」


 ほっほう、替えの服も用意してくれるなんて、わかってるねゲームメーカーさん。ファンになります。


「そう言えばパッシブスキルって?」

「生産や冒険を助けてくれるものと考えてください。このゲームにはレベルの概念がございません。一般的にステータスと呼ばれる力や素早さなどの値も廃しております」


 強さが分からないってゲームでは不便じゃないのかな?そんな考えを読み取ったのかミミさんが話を続ける。


「武器がアクティブスキル:任意発動の技や魔法、防具がパッシブスキル:常時発動の能力となるのですが、これらは使用することで鍛えられます。装備を変更しても鍛えた強さは受け継がれますが、装備にスキルが付いていないとそれらは使えません。アレンジのスキル付け替えはここで必要になるわけですね」


 付け替え重要だな。忘れたら駄目だぞ私。


「スキルをマスターした場合、アクセサリー化や透明装飾化が出来ますので、付け替えするのをよく忘れるという方にはこちらがおすすめです」


 み、見抜いておられる。


 「装備固有のスペシャルスキルというものも例外としてございます」


 スキルというのは技術を鍛える感じなのかな?スペシャルスキルはその道具がないと使えない特別な技術……的な?

 ステータスがないのは納得した。まあ人間、普通に生活していて腕力や器用さが大幅に変わるなんてないもんね。

 でもそれで強いモンスターと出会ったとき大丈夫なのかな?ちょっと不安。


「モンスターの強さはどうなっているんですか?」

「強いですよ。倒せないくらい」


 えっ?


「じゃあ、どうすれば?」

「追い払う、体力を一定以上減らす、説得する、友達になる、仲間にするなど様々です。戦いが主のゲームではありませんので、倒すことだけを目的としておりません。すぐに逃げるモンスター、力を示さないと交渉に応じないモンスターなど様々ですので、スキルの選択が重要となります」


 なるほど。モンスター勝負はスキルで大きく変わりそうだ。まあ遊んでいれば分かるだろう。


「分かりました。次、お願いします」

「では、いよいよこのゲームのメインコンテンツ。おうち育成をはじめます」


 待ってました。

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