想定外な事態。②
鼻息を荒くしたファンゴさん。と俺。
ちなみに俺はというと、これ以上飛び移った木が倒れていくのを見ていて申し訳なくなり、兎跳で空中にとどまっている。
「捕獲、だよなぁ…」
その場で大きな鼻をフゴフゴ鳴らし、その場で地をかいて俺に狙いを定めている。
ファンゴさんはたいそうお怒りのようだ、これじゃ軽いダメージじゃ無理だな。
興奮状態では痛みや衝撃に鈍く、気絶させるにはなかなか手間取るのだ。
しかしある程度の威力の衝撃を与えるとしても、俺手加減苦手だからどうなるか…。
はぁ、とひとつため息。
……キールめ、覚えてろ。
「とりあえず、キールの見学したいし、さっさと終わらそう。…んー…」
どうして捕まえようか考えてみる。そして脳内シミュレーション。
……ヨシ、これで行こう。
キールから軽く指示されていた、同詠唱の効果応用のもの。
一応前回は成功していたので、それで行こう。
俺は空より降りつつ、先ほどのように手のひらに集中。
「大地の恵みよその恵みを以て我に力を貸さん…―地烈撃!」
言い終わり、手のひらに集中した魔力を地に放つと、俺を中心に地面に亀裂が入る。
そこに俺に向かい突進してくるファンゴ、の前方に向かうとファンゴより早く、そこに大きな穴が出来た。
亀裂が入っていたのもあり、ファンゴは穴の中へ、そしてもう一発。
「っと、強化――兎撃!」
脳天に、蹴りを喰らわす。
先ほどより使用していた兎跳は足元に風の力を生み出し、地や木などを蹴り衝撃を与えることで跳躍を強化し、後にそのまま生じた風で全身を包むのだが。
名前のままではとても可愛らしいが…対象を同じく風で保護しているとはいえ、人体に通常以上の跳躍を施すほどの力を、対象を風で保護せずバネのように上に流すのではなくその場でとどめるとすると…
―ズウゥ・・・ン…
この巨体のファンゴとはいえ、おそらく一撃で気絶はさせられる。
重い音をたてて、穴の中で崩れ落ちるように倒れた。
俺は穴の前に立つと、大きい体躯を見て口笛を鳴らす。
気絶とはいえやはりこの大きさがある。いつ起きて暴れられても困るので早めの拘束をしないと。
えっとロープ…って。
「あ」
ロープ持ってるの、キールじゃん。
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丁度その時、キールは先ほどの川の行き着く先であり、本来の目的地であろう湖に来ていた。
そこへダイアウルフの咆哮が水面を揺らす。衝撃波のようにキールへ向けられるが、体に纏わせるように宙に待っているミストによりかき消される。
低く喉を鳴らしながら、湖に姿を映す。
怒りで毛も逆立ち、大きいからだがより一層大きく見え、その瞳はまっすぐにキールを捉えており、攻撃のチャンスを狙っている。
「んー…セランと逆がよかったかな?」
キールが持つ水の力は、その二つ名“水癒の魔術師”の通り、治癒や防衛の術が多く、あまり攻撃性の物はない。
しかも攻撃性であっても大してダメージを与えるものでもない。
『ガゥッ!』
苦笑するキールの元へ大口を開けて迫るダイアウルフ。
流石群れをまとめる存在、一蹴でかなりの距離をつめてくる。
すれすれでキールは避け、ダイアウルフはすぐ後ろに立っていた樹を砕くように噛み千切った。
その牙の強さにひゅーと唇を鳴らすキール。
大きい身体なのに、似合わない程の素早さ。
「どうしたもんかなー…」
それにはつい小声で呟く。
また再度突っ込んでくるダイアウルフにキールは樹に飛び乗り、そのまま枝を伝い湖のすぐ淵に着地。
それを追って突っ込んでくるダイアウルフ。
「―水槍!
紡ぎて水の精霊よ、共生の為に力を化さんと命ず、―水面の制裁!」
そう言い放った、途端、湖の水面が上昇し、その中から槍のように形を変えた水がダイアウルフに襲い掛かり、そして貫く。
その上から上昇した水面がまるで津波のように襲い、ダイアウルフを覆い隠す。
大半が水面へ戻る中、ダイアウルフを包むようにとどまる水の塊が宙に浮いている。
水の塊の中必死にもがくダイアウルフだったが、一時を過ぎると力が抜け、それと一緒に地にぐったりと倒れこんだ。
津波が発生する前に樹の上に避難したキールは、その下に横たわったダイアウルフを見下ろした。
見たところ、もう生きてはいないようだ。
軽く音をたて地に足を着ける。
「…そういえばファンゴの残りのやつらは…?」
そもそも、セランと合流した際にダイアウルフの長とファンゴ特大を引き連れてきた理由。
セランを追っていった他に残っていた群れと長。
その群れを川の下流へ攻め、そこで相手をしていたのだが、湖のすぐ近くにファンゴの巣があったらしく、戦闘中に突っ込んでいったやつらにより、何匹か乱入。
そのまま一緒に相手をしていたのだが、ダイアウルフが他の種族と協力できるわけもなく、途中でファンゴを襲い始めてしまったのだ。
すると流石に出てきたのが今度はファンゴの長、という訳なのだ。
湖の周りにはそのときの名残としてところどころにファンゴの無残な残骸。
食べるなら残さず綺麗に食べてほしいものだ。
「おそらくこの辺に…」
首を傾げながら足を進めるキール。向かうのはファンゴが出てきた草むら。
ここから出てきたということは、この先に巣がある筈…と、慎重一歩一歩静かに足を進めるキールだが…
「…………あ」
目の前に広がるのはダイアウルフにやられたのであろう、先ほどあったようなファンゴの無残な姿たち。
あちゃーとキールは頭を抱える。
「こっちまでは気が回らなかった…」
捕獲。依頼内容は出来るだけ生きたまま。
惨状は生死以前に、形すら把握できない。
…これは、無理か…
そう思い、また湖の方へ歩き出す。
―と。
どこからか、大きな音…地鳴りに近い、そんな音が耳に入った。
だんだん近づいてくる音。
「…なんだ?」
身構えつつ、ゆっくりと進んで行く。
…………見間違えだろうか。
いや、見間違えであってほしい。
目を凝らした先に、何かが、前方から走ってくる。
そう、
セランが。
「ちくしょーあいつドコまで行ってンだよ!あーもー超重ぇーーーーー!」
セランが生成したロープ代わりのモノで先ほど倒したファンゴを拘束し、そして天翔を使いまくりキールを探して暫く…。
いくら生成したからといっても、一応きちんと具現化になってるもんだから手にマメはできるのである。
しかも天翔つかってるから勢いもつよく、つぶれかけてるから大分痛いようだ。
「キールゥゥゥ!!!」
「…おれ、今出て行かないほうがいい気がする…」




