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冬の女王と約束の青い薔薇  作者: 霧島花代
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後編

―春の女王様と共にいた人物を見て、青薔薇は急いで季節の塔の一階へと降りていきました。


 一階には塔の入り口の扉があり、青薔薇はバンっとその扉を開きます。扉の外からギリギリでない所に立ち、真っ直ぐを見つめます。


 視線の先には大勢の人々と妖精たちに混じり、春の女王様の隣にいる人物。


「どうして…ムートが?」


その人物は愛する息子のムートでした。


 今では、すっかり中年の男性になり、チュード譲りの大地のような温かみのある茶色の髪は少し白いものが混ざり始め、顔にも今まで生きてきた分の皺が刻まれていました。


「久しぶり、母さん…春の女王様が、うちに訪ねてきて、母さんが季節の塔にこもってるせいで、冬が続いてるって言ってたんだ」


「そうなのよ、旦那さんを喪って、塔にこもっちゃった青薔薇ちゃんを見てられなくて…もしかしたら、愛する息子さんなら、あなたを説得できると思って会いに行ったの」


 春の女王様の言葉にムートはうなずき、そして、青薔薇に問いかけます


「母さんが、冬を終わらせないのって、やっぱり父さんが死んじゃったせいなの?」


「………」


「…母さん、きっと父さんもこんなこと望んでない…」


「分かっているわ…」


 そんなことくらい分かっているのです。チュードはとても優しい性格で、長く続く冬のせいで困っている人々を見たら、きっと悲しむでしょう。


それでも、


「私は、どれほど皆に迷惑をかけ、嫌われても、チュードをもうこれ以上失いたくないの!」


青薔薇は叫びます。そんな様子の彼女にムートは、


「母さん僕と勝負をしてほしい」


「…勝負?」


「春の女王様が教えてくれたんだ、季節を廻す方法じゃなくて…季節を終わらせる方法を…」


 季節を終わらせる方法、それは人が季節の塔の中に入ることです。そうすることで、冬が終わり、ずっと降り続けるこの雪も、ずっと吹き続ける冷たい風も止まるのです。


「僕がそっちへ行って塔の中へ入れば僕の勝ち。母さんは好きなだけ魔法で邪魔をして、僕が降参したら母さんの勝ちだ」


「それは、無理ではないか?」


 王様は心配そうに言います。問題は季節の塔へ入るまでの道のりなのです。多くの優れた者たちが塔に近づくことすらできなかったのですから、不安になるのも無理はありません。ここにいる一部以外の全ての者たちがそう思っていました。


しかし、


「よし、息子さん、私達の分まで、頑張ってちょうだい!」


「応援してます、頑張ってください」


 残りの一部である夏の女王様と、秋の女王様が応援し始めました。


二人の季節の女王様の応援、これには他の者達も文句が言えません。そもそも、彼に希望を託すしか方法はないようですから。


 青薔薇は、ムートと勝負するということに戸惑いを感じましたが、それでも、負けるわけにはいきませんでした。


「分かったわ…」


そうして、勝負が始まりました。


 ムートは季節の塔へ一歩一歩足を進め始めました。


 周りから見れば父親と娘にしか見えないほどに成長したムートと数十年時が経っても少女のまま変わらない青薔薇。それでも青薔薇にとっては可愛い我が子です。青薔薇はムートを吹き飛ばすほどの強風を吹かせることも、ナイフのような氷の塊を飛ばすことも、凶暴な雪の兵隊に妨害させることもできません。


 しかし、普通の人では歩くことはおろか立っていることもできない強い吹雪を吹かせ、飴玉のような丸い氷の塊を飛ばし、地面からは足を拘束するように氷の蔦を伸ばして巻き付けます。


「ぐぅ…ッ」


 これには、ムートもなかなか進めず苦戦します。何度も転び、立ち上がり、歩みが止まります。


それでも、ゆっくりと少しずつ、確実にムートは一歩ずつ進み、こちらに近づいていきます。


 それを見守る塔の周りにいる者達も人、妖精関係なく皆がムートを応援し始めました。


 一方で青薔薇は何度も転び傷つくムートの姿に心が痛み、そして、その彼を傷つけているのは自分自身であることが辛くてたまりません。


それに、まったくおかしな話なのですが、ゆっくりとこちらへ一歩ずつ進む姿に、昔、赤ちゃんだったムートが初めて何もつかまずにこちらへあんよした時のことを思い出しました。


あの時は、他の子どもよりも歩くのが遅かったムートが初めて一人で歩いた瞬間で、あまりの嬉しさにチュードと二人で手を取り合って喜びました。


思い出されることはそれだけでなく、様々なことが思い出されていきます。


 結婚したチュードとデートとして満点の星空を見に行ったこと。青薔薇が作った温かいシチューで食卓を囲んだこと。ムートがお宝としてセミの抜け殻をプレゼントしてきたので、思わず悲鳴を上げてしまったこと。初めてチュードとケンカして、初めて彼が嫌いになったこと、それでもやっぱり彼が好きだから、お互いに謝って仲直りしたこと。


それら、様々な思い出がムートが近づくたびにどんどんと頭に浮かんできます。


「………ッ」


目からは涙が滲み始め、今にもこぼれてしまいそうです。


 気が付くと、ムートはすぐ側までやってきていました。


全力を出せない青薔薇が勝てるわけがなかったのです。


「母さん…」


 そう言ってムートは、最後の一歩を踏み出し塔の中へ入り、青薔薇の両方の手を握りました。


 その瞬間、全ての魔法が解け、季節の塔を覆っていた氷が砕け散り、雪と風が止まりました。


「おぉ、雪が止んだぞ!」


「やっと、冬が終わったのね…」


「万歳!!」


塔の周りにいた人々は歓声を挙げます。皆がおめでたい雰囲気に包まれるなか、


「…あぁ…」


呆然と青薔薇は呟きました。


 春になればチュードの体は腐り、消えてしまう。


「チュードが…チュードが…本当にいなくなっちゃう…」


青薔薇はボロボロと涙をこぼし泣き始めました。そんな彼女の手を握っていたムートは口を開きました。


「母さん…父さんは死ぬ前にね、僕たち家族に母さんとの思い出をたくさん話してくれたんだ…」


「え…?」


「それで、その時に、“これで、母さんをそばで見守ることができる”って笑ってたんだ…」


青薔薇はその言葉に目を見開きます。


「父さんは、自分が死んだら、その体は土に返って、草や花、他の動物の一部になるだろうって…その時に、草や花の目、動物の目を通して、ずっと見守っているからって………母さん覚えてる?これは、父さんが小さい頃に、母さんが話してくれた、命の輪の話だよ」


 命の輪、それは、動物や植物などの命あるものは皆、何かの命を頂くことで生きて、そして、いずれ自分も他の命を生かすための糧になり、自分を糧にしたその命もまた、他の命を生かすための糧になり、それがずっと終わりなく続くという一連の流れのことです。そして、その様子が、まるで輪のようにつながっているということで、命の輪と呼ばれています。


 その話を幼いチュードにすると好奇心旺盛だった彼は、『心はどうなるのか』と質問してきて、青薔薇は返答に困りとっさに思いつきで『自分を栄養にした植物や動物の目を借りて、ずっと大切な人を側で見守ってる』と答えたのでした。


「そんな、昔のことを…覚えていたの…」


もう、数十年も前のことで、言った本人の青薔薇も忘れていました。


「父さんはね、母さんは、周りから冷たいとか恐いとか言われてるけど、本当はとても優しくて、さびしがり屋で泣き虫だから、自分が死んだら悲しむだろうって……だから、もし、さびしい時に妖精の森でタンポポを見たら、あのタンポポの花は、父さんの命をもらって咲いたタンポポの種がここまで飛んできて咲いたのかもしれない……他にも、もし、季節の塔で渡り鳥を見たら、同じように父さんの命をもらって実った木の実を食べた鳥かもしれない……そして、タンポポの花も渡り鳥も、その目を通して父さんが母さんを見守っている…そう考えてほしいって」


『それにね』とムートは続けます。


「植物や動物だけじゃなくて、僕のなかにも父さんがいて、それに母さんまでいるんだ」


ムートは青薔薇の手を握りなおして


「父さん譲りの茶色の髪に、母さん譲りの青い瞳持つ、二人の子供の僕の中にはいつだって父さんと母さんがいる…もちろん僕の子ども達も、彼らの子ども達も、そのまた子ども達も、遠い未来の子どもたちだって…たとえどんなに父さんや母さんに似ていなくても、みんなの中に二人はずっといるんだよ……」


それはつまり、チュードがこの世界にいた証がずっと残り、命の輪のなかでは、彼は世界中にいる。彼は形を変えて青薔薇のすぐそばにいるということです。


青薔薇は顔をくしゃりと歪めました。


「……私は、本当にダメね…いつも自分のことばかりで、そんな風に考えようともしなかった………チュードに普通の人としての幸せすらあげられなかったのに…こんなことまでして…」


 妖精と結婚したために、冬の間しかそばにいることができず、子育ても任せっきりにしてしまった。しまいには、一方的に別れて、たくさんのいらぬ苦労をかけてしまった。そんな自分の身勝手に振り回されたチュードの人生はとても幸せとは思えませんでした。


 しかし、ムートは首を横に振ります。


「それは違うよ、父さんは…幸せだった」


「うそ…」


「嘘じゃない…父さんは言ってた……自分の人生を振り返ると、母さんがたくさんのものをくれたって……初めての恋も、苦しい時に誰かが支えてくれる温もりも、守りたいと思える愛しい家族も、好きな人と愛し合う喜びも、……それだけじゃなくて、愛する人と分かり合えない悲しみも、子育ての苦労も、会えない寂しさも…だから、父さんは世界一の幸せ者だって笑ってた………誰も愛さないで、悲しむことも苦しむこともない人生より…誰かを愛することで、悲しむことも苦しむこともできる人生の方が、きっと、ずっと幸せなんじゃないかな……」


そう言って、ムートは青薔薇の左手を自身の右手に軽く乗せるようにして、もう片方の手で懐から何かを取り出しました。


「それは…」


それは、プロポーズの時にチュードから贈られたあの指輪でした。


数十年の時が過ぎても記憶の中と変わらない、青いバラの花が彫られた木の指輪。二人と別れた時に手紙と共に置いて行ったはずの指輪。


ムートはその指輪を青薔薇の左手の薬指にはめます。


「父さんは、昔からよく言ってた………冬が好きだって」


「……ッ」


―冬の太陽の光も、大地を包む雪も、澄んだ空気も好きだし…あと青薔薇に出会えた季節だからっていうのもあるけど………やっぱり、静かで綺麗で、一見冷たいように思えるけど、本当はとても優しくて、あたたかい……そんな青薔薇みたいな冬が好きなんだ―


―プロポーズの時にね、青薔薇が教えてくれたんだ…冬の女王が幸せを感じると、雪が降るって…―


―だから、僕が好きな冬に降る雪が、いつだって、大好きな彼女の幸せの雪だったらいいのにって…―


「だから、母さん……どうか父さんが好きだった冬を、嫌われ者にしないで」


その瞬間、青薔薇は泣き崩れました。


「チュードッ…チュード…あぁ…!」


何度も彼の名前を呼びながら、左手の指輪に縋りつきます。


そんな母親を息子のムートは、そっと背中をさすります。


そんな娘と父親にしか見えないはずの二人。それでもその姿は確かに母親と息子でした。そんな親子をずっと黙って見守っていた、春の女王は口を開きました、


「青薔薇ちゃん、ずっと頑張ってたのね…今から私が、塔に入って春を呼ぶわ」


「春の女王…いっぱい迷惑をかけたわね……ごめんなさい…」


そう言って青薔薇は、塔から出て、代わりに春の女王が塔の中へ入ります。


その瞬間、暖かい風が吹き、柔らかな太陽の光が国を照らし始めました。


―やっとこの国に春がやってきたのです。


「うわぁ、あったかい…」


「春だ!」


「これで、もう安心だ」


「……でも」


皆が春が廻ってきたことに喜びましたが、気まずそうに青薔薇を見ました。


今まで冷たく恐ろしいと思っていた、あの冬の女王様が涙を流し、しかも青薔薇という名前があり、結婚して子どもまでいたのですから。皆が戸惑いを隠せません。


「我々は、ひどく誤解をしていたのかもしれない…」


人の国の王様は言いました。それは、皆が思ったことでしょう。今までのイメージとは違い実際の冬の女王様は、愛する人を喪い傷つき涙を流す普通の一人の女性でした。


そういった皆の考えが青薔薇に伝わってきました、


「みなさん、大変ご迷惑をおかけしました…本当にごめんなさい…」


そう言って頭を下げましたが、皆がさらに戸惑います。


「謝るのは、きっと私達の方だわ、あなたを理解していなかった…」


「そうです、あなたが、辛い時に何もできなかった」


夏の女王様と秋の女王様が青薔薇へ近寄ります。


「あなたが真面目だからって、勝手に一人で大丈夫だと思っていた…悲しみを一人で抱え込ませてしまったわね」


「本当は、あなたが冷たくないことも、別に何も恐ろしくないことも知っていたのに……あなたは心が強いのだと勝手に思い込んで、それを訂正することもしませんでした…」


二人は悲しそうに言います。そして、二人の後ろから、


「冬の女王様…いいえ、青薔薇さま…」


おずおずと青薔薇の臣下の冬の妖精たちがやってきました。その顔は皆がこわばっていましたが、彼女への恐怖は感じません。


「長年、勝手に勘違いして大変申し訳ありませんでした…」


一斉に頭を下げます。


「あなたは、真面目で努力家だと知っていたのに、それに目を背けていました…本当にすいません………きちんとあなたに歩み寄ってたなら、きっとこんなことは起きなかったはずなのに……」


そう言ったのは、最後まで青薔薇を説得し続けた配下でした。


思えば、彼はいつでも青薔薇を心配してくれたように思います。それだけではありません、夏の女王様も秋の女王様も信頼してくれていたのです。


「青薔薇ちゃんの頑張りをちゃんと知っている人たちがいるんだよ、私も頑張り屋で優しい青薔薇ちゃんだから、友達になりたいって思ったの…」


春の女王が笑顔を浮かべて、そう言います。


他の人々も今年の冬以外は、確かに青薔薇が頑張っているおかげで、そこまで悪くはなかったと納得します。


青薔薇が気づかなかっただけで、自分を認めてくれていた相手はいたのです。


「母さん、みんながこう言ってくれるのは、母さんが頑張って治める冬がみんなにとって、素敵な冬だったからだと思うよ…」


ムートの言葉に一斉に皆が頷きます。


―チュード…私、ひとりぼっちじゃなかったわ…―


青薔薇は、ギュッと指輪をはめた左手の薬指を握ります。


―私、冬の女王であり続ける意味を見つけたみたい―


チュードのように冬を好きになって欲しいとは言わない。ただ彼が好きだと言ってくれた冬を自分の頑張りで、もっと素敵な冬にして、みんなにとって幸せの季節にしたい。幸せの雪を降らせたい。


―頑張るわ…私、頑張って生きていくから…だからチュード、私を見守ってて……―


青薔薇は静かにそう誓いをたてました―


********


「―こうして、冬の女王様は夫への変わらぬ愛と皆への祝福を胸に抱き、今でも立派に冬を治めているのです。めでたし、めでたし―」


 そう言って語り部のおばあさんの話は締めくくられます。


その場にいる数人の観光客はパチパチと拍手をしました。


 ここは、この国に伝わる、とある昔話で有名な観光地に併設される小屋の中。ふだん休憩室として使われているこの小屋ですが、毎日決まった時間になると、村に住む語り部のボランティアのおばあさんたちが、その有名な昔話を聞かせてくれるのです。


 その昔話とは、この国に冬を招いて治める冬の女王様と彼女が愛した夫の話。


 そして、この観光地とは冬の女王様と夫が出会い、愛を誓った野原と伝わっているのです。


「窓の外を見てごらん」


 語り部は窓の外を指さします。観光客たちが外をのぞくと雪に覆われた真っ白な野原が見えます。そして、そこにポツン建てられたと大人の腰の高さほどの石。


それは古いお墓でした。


「あれはね、冬の女王様の夫のお墓だって言われてるんだ」


その言葉に、観光客たちが興味深そうな顔をします。


「無事、冬の女王様と春の女王様を交代させた冬の女王様の息子はね、褒美として二人の思い出の野原に父親のお墓を建てることを望んだんだ。それを聞いた王様は喜んでその願いを叶えたと言われてる…」


 ここは、美しい花が咲き誇り景観が美しい春や夏、秋はもちろんですが、特に物語の舞台の冬の季節なれば、多くの恋人や夫婦、家族連れがこの地へやってきます。目的はもちろん愛を誓うため。そして、一人を除いてこの場で昔話を聞いていた者が皆、恋人や夫婦、家族と一緒でした。


「実はね、私は冬の女王様とその夫の子孫なのさ……あ、嘘だと思わないでおくれ…まぁ、この村の多くの奴が私と同じように、彼らの子孫だと言われてるんだよ…」


語り部はいたずらっぽくそう言いましたが、すぐに少し照れたような笑みを浮かべ、


「私もね、この野原で冬の日に幼なじみだった旦那にプロポーズされたのさ…、黒髪だけど、暗い色合いの青い瞳を持つ私をよく旦那は冬の女王様みたいだって褒めててね…それでね、年取って白髪だらけになった私を見て、ますます冬の女王様みたいに綺麗だって褒めてくれたのさ……まぁ、旦那も三年前に死んじまったがね……おっと、言いたいことがそれたね……そういうわけで、この野原は、その昔話のおかげで、子どもたちがまだ見ぬ運命の人に思いをはせ、恋人たちが変わらぬ愛を誓う、そういう場所になったのさ…」


 そうして、語り部のお話は終わり、次々と話を聞いていた観光客たちは小屋から出ていきます。


 皆が互いに名前を呼びながら笑顔で手をつないだり、記念撮影をしたり、かつては森があったと言われる場所に建てられたお土産屋さんを見て回ったりなど、それぞれが思い思いに過ごしています。


 その中で他にいる観光客とは違い、一人で話を聞いていた少女。彼女は穏やかな表情を浮かべながら、冬の女王様の夫が眠るお墓をすぐそばで見ていました。


「お嬢ちゃんは、妖精を信じるかい?」


 先ほどの語り部のおばあさんが少女に尋ねました。それに対し少女は『どうでしょうか』とあいまいに答えます。


「そうかい、私は子どもの頃は絵本やおとぎ話に出てくる妖精たちや魔法、異国の悪魔、お菓子が大好きなおばけ……そういう不思議な世界のものを信じていた…でもね、大人になってそれを信じられなくなっちまった……そして年を取って、親や兄弟、友だち、旦那がどんどんいなくなっちまって、不思議な世界のものみたいに、たとえ見えなくても、みんながすぐそばで見守ってるって思いたくて、また信じるようになったのさ…」


語り部のおばあさんは少し寂しそうな笑顔を浮かべました。


「死んじまったみんなは、見えないし、触れることもできないね…だから時々寂しくて悲しくなっちまうよ……けどね、それでも、みんながすぐそばで見守ってくれてるって、そう信じてるから、私は幸せなんだ……」


「私はね思うんだ、人は魔法を使えない。冬の女王様の夫だって魔法を使えない……けどね、自分が死んでも愛する彼女を幸せにすることができるんだ……」


「きっとそれは、どんな魔法にも負けない“奇跡”なんだよ」


 その時、空から静かに雪が降ってきました。


「おぉ、雪かい…こりゃあ、冬の女王様がどこかで幸せを感じてるのかねぇ…あんたもそう思わないかい?」


 そう尋ねられ、少女は笑みを浮かべ頷きました。


 その少女は輝く雪のような白銀の髪に、冬の夜空のような青い瞳を持つ、とても美しい少女。


そして、その少女の左手の薬指には、青いバラの花が彫られた木の指輪が彼女に寄り添うように柔らかく輝いていました―



fin



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