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ペルソナ  作者: 朴訥
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 隆二と圭吾が出会ったのは、大学入学間もない頃だった。


 一年間の浪人期間を経て、やっとの思いで日本の最高学府である東京大学に入学した隆二は、新たな生活と新たな出会いに胸を馳せていた。


 隆二は幼い頃から知識欲が強い子供で、刺激的な知的体験を求める性向があった。その性格に由来してか、特定の分野においては、実の親が驚きを隠せないほどの記憶力と集中力を見せた。子供とは思えない知的能力を発揮する一方で、刺激を求める性格故に、人の指示通りの分野にその情熱を傾けることが苦手な子供であった。そのためか中学生にもなると、得意の歴史科目では学年トップの成績を叩き出すものの、それ以外の科目では、教師から劣等生の烙印を押されるのも仕方ない程度の成績であった。


 高校受験時、隆二は歴史科目以外を勉強したくないという理由から、本来の能力よりも低いレベルの進学先を選択する。しかし、これは隆二にとって最悪の選択だった。進学した先の都立赤坂東高校にいる学生は、教養のかけらも感じさせない者達ばかりだったのだ。


 話が合わない。三年間の高校生活を通して、たったの一人も話が合う人を見つけることが出来なかった。知的な刺激を求める隆二にとって、それを満たす仲間と巡り会えないことは悲惨なことだった。


「この学校の偏差値が低いから面白い人がいないんだと思う」


 隆二がそう告げると、母はそんな隆二を不憫に思ってか、あるアドバイスをした。


「それなら有名大学に進学なさい。そうすればあなたが面白いと思う人たちとたくさん出会えるはずよ」


 それから隆二は嫌いな勉強を必死にやった。時には精神的に辛い時もあったが、そんな時には母の言葉を思い出した。有名大学に行けば、今なんかと比べ物にならない凄い奴と知り合える。それだけをモチベーションに、隆二はひたすら勉強に明け暮れた。


 受験勉強を始めたのは、高校三年の九月。隆二は志望大学を東京大学一本に絞ろうと考えていた。日本一の大学が日本一面白い奴がいるに決まっているという簡単な理屈に基づいた決定だった。


 しかし案の定というか、隆二の受験は難航した。それもそのはず、興味のない分野に関しては、小学生レベルの知識も持ち合わせていないために、隆二は全くの一から勉強をし直す必要があったのだ。それも、多くの受験生は、遅くとも高校三年のはじめには、受験に向けた勉強を開始する。それに対して隆二は九月になった今の時点で、未だ模試すら受けたことがない。それでも一生懸命努力すればなんとかなると考えていた隆二であったが、やはり現役での東大入学は適わない結果となった。それでも、隆二の成績の飛躍ぶりには目を見張るものがあった。


「隆二、どうするの?」


 無論、進学先のことである。東京大学には受からなかったものの、一流大学と呼ばれる私立大学にはことごとく合格するまでに隆二は学力を伸ばしていた。


「もちろん来年また挑戦するよ」


「私立に行くんでもいいんじゃないの?」


「東大じゃなきゃダメだ。東大に面白い奴がいるんだ」


 その頃になると、隆二の東大への羨望の気持ちは病的なまでに膨張していた。東大に行けば面白い人がいて、面白い人間関係を構築できる。その妄想が隆二を一年間の浪人生活へと駆り立てた。


 そして一年後、隆二は見事東京大学文化三類に合格する。普段感情を表に出さない隆二だが、その時ばかりは泣いて喜んだ。そしてそんな隆二を見て、母もまた泣いた。


「隆二、おめでとう」


「うん」


 嗚咽のような鳴き声をあげながら、隆二は頷いた。


 そして入学式の日、隆二は圭吾と出会うことになる。


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